0084 縦横
朔城の北西に広がる荒れ野で、血走った目をした穆塵飛は疲れ果てた体を引きずり、盧安から遠ざかる方へと走り去っていった。
もともと優雅だった彼の長袍は灌木でぼろ布のように引き裂かれ、密着した棉甲がかすかに見え隠れしていた。穆塵飛は悟っていた。自分がどんな防御手段を講じても、後ろのあの人の攻撃手段の前では無意味だと。
今、穆塵飛が最も望んでいるのは、早く空間能力を使ってここから逃げ出すことだったが、穆塵飛には逃げる隙がない、正確に言えば、逃げる時間がないのだ。穆塵飛がシミュレーションで見たのは、一度空間能力を発動しようとすれば、必ず空から一撃が正確に自分目がけて降り注ぐという結末だった。一秒間に八度のシミュレーションを行った穆塵飛は、どのシミュレーションでも、空間を発動しようとしたその瞬間、空から飛来した弾丸によって粉々に引き裂かれるのだった。
予演の世界には確率は存在しない。一秒に八回の予演を発動することは、現実の穆塵飛が空間能力に切り替えて逃げる場合、八つの可能性があることを意味する。もし穆塵飛が現実のこの八つの可能性を選ばず、慌てて別の道を選んだ場合、同じ予演能力を持つ盧安にとって、穆塵飛は一秒に九つの可能性しかないに過ぎない。盧安と穆塵飛の間の勝負はとてもシンプルで、予演の総量を競うことだ。盧安は毎秒大量の予演回数を持ち、穆塵飛は毎秒八つの盧安の予演しか見ることができない。双方向に、盧安も毎秒八つの穆塵飛の予演を見ることができる。しかし、見ることと行動できるかどうかは別問題だ。盧安が毎秒存在する六百以上の第二類予演は、穆塵飛の毎秒一桁の可能性を分析するのに十分である。
空間能力を使って逃げ出そうという考えが浮かんだ途端、すでにみすぼらしい姿の穆塵飛は急にハッとした。まるで荷車を引く奴隷が鞭を打たれて突然目を覚ますかのように。穆塵飛の予行演習では、穆塵飛の抵抗はまた失敗した。
予行演習一、穆塵飛のいる空間に突然波紋が現れ、弾丸がすぐに空から降り注ぐ。高度二十メートルで、この大型弾頭の燃料燃焼速度が急に上がり、弾丸が炸裂したが、無阻膜は解除されなかった。金色の破片のような大量の高温のかけらが、まるで金色の漏斗が空中で逆さまになったかのように、空間の波紋が覆う場所全体を包み込んだ。この予行演習の穆塵飛は一瞬で灼熱を感じ、そしてこの予行演習には未来がなかった。
プレビュー2、穆塵飛は反射能力に切り替え、反射バリアを展開したが、空から大きな弾頭がなかなか来ない。しかし、穆塵飛が空間能力に切り替え、反射バリアにちょうど隙間ができた瞬間、空からは徹甲小型弾頭が飛来し、正確にその隙間を通り抜けて穆塵飛を撃破した。
プレビュー3、穆塵飛は穴掘り能力に切り替えて地面に潜り、徹甲小型弾頭に対抗するために地面の深さを利用しようとした。しかし、穆塵飛が身体の半分ほど土に潜ったところで、空から彼の頭頂に向けて降り注いだのは、大きな弾頭が炸裂させた金色の漏斗で、穆塵飛への頂点からの攻撃だった。
予演四、穆塵飛は影分身能力に切り替え、数百の影分身を炸裂させて盧安を惑わそうとした。しかし、穆塵飛はその弾丸が影分身を無視し、直接自分に向かって飛んでくるのを見た——盧安の六百回以上の第二類予演が、穆塵飛の放った影分身をすべて試し尽くしていたのだ。
上述の駆け引きは、この一日十数万回の駆け引きの氷山の一角に過ぎない。予演の中で穆塵飛を殺したあの一発の弾丸は、現実ではまだ盧安の手元に残っており、放たれてはいない。
今、盧安は穆塵飛から六百メートルの距離にいる。穆塵飛の空間能力は盧安の視野外に逃れることができ、空間は依然として支配的だ。しかし、空間跳躍の時間において、穆塵飛にもう機会はなく、そのわずかな時間の中で、どちらが決めるのか?尊卑は既に定まった。
バキッという音とともに、穆塵飛の隣の小さな木が倒れ、彼の前に立ちふさがった。穆塵飛はとっくに予演でこの結果を見ていたので、別の方向へ向かわざるを得なかった。もしも元の方向へ進み続けていたら、二本目の小さな木が倒れるときに複数の木のトゲが折れ出て、穆塵飛を傷つけていただろう。
穆塵飛は予演でこの道は通れないと見ていたため、うつむいて盧安の許した道へ逃げ去るしかなかった。かつて自尊心が高く傲慢だったこの人物は、この十数時間の間にあまりにも多くの自分の失敗を目の当たりにしてきた。反抗しようと奮い立つたびに、予演の中で思わずその結果を見てしまい、その結果はことごとく穆塵飛を失望させるものだった。今の穆塵飛の様子からは、数日前まで傲慢さにあふれた王子だったとはとても想像がつかない。
読書百遍、義自ずから現る。一冊の本を初めて読むとき、断片的なことしか理解できない。しかし、何度か読むと、毎回理解した感覚——断片的な情報——が重ね合わさって、読者は本の内容が分かるようになる。
予演がクラスター化されると、二種類の予演における使用者は大部分の無用な情報を忘れ去り、現実の自分に有用な感覚だけを伝える。これがいわゆる「読書百遍」である。そして盧安という予演能力の使用者は、自己号令のもとで、予演の有用な感覚が重ね合わさると、現実における盧安の知覚は非常に強力になる。これがいわゆる「義自ずから現る」である。
盧安は、この世界は自分にとって実は何の危険もないことに気づいた。
盧安がクラスター状態に入ると、自我は急速にその状態に適応していった。適応の過程で、盧安は予行演習中の各自己をよりよく統合していった。自由気ままな散漫さがなくなり、理由のない衝動がなくなり、目先の利益のためにわかっている正しさをためらうことがなくなると、情報フィードバックの効率は高まり、各予行演習はより正確にキーとなる感覚をフィードバックできるようになった。
二日前、まだ司軒と別れていなかった頃、盧安はしばしば自分の衝動性と焦りを抑えきれず、例えば、何でもないふりをして車を降りて一周することがよくあった。普通の人から見れば、盧安の感情は神経症のように突然激昂したりする。実際、その時すでに盧安はクラスター化していたが、まだ完全に自己命令を完成していなかった。
盧安はこの二日間で完全に逃避から抜け出した後、進歩は非常に速く、さらに穆塵飛という反面教師の事例と比較することで、盧安の成長は加速し始めた。自己命令の下、各予行演習からのフィードバックがますます小さな感覚になるたびに、現実の盧安の情報処理はますます効率的になり、耐えられる予行演習の総量も高まっていく。
盧安がゆっくりと穆塵飛の後ろについていくこの三十六時間の間に、盧安の毎秒に存在する第一種類の予行演習は最高で百二十七回、毎秒に存在する第二種類の予行演習は約千二百回に達した。
予行演習を開始させるために必要な、時間線の変動によって生じる未知のエネルギーが高速で消耗している。以前は人を一人殺すことで生じるこの種のエネルギーは、一つの予行演習の時間を十秒に短縮するのに半年かかったが、このわずか三日間の消耗は非常に大きいものであった。
盧安はこめかみを揉みほぐした。遠くの穆塵飛を見つめながら、盧安は呟くように言った。「あと一時間もすれば、こうやって君を説得することはできなくなる。」
三十六時間にも及ぶ追跡。穆塵飛は様々な能力を切り替えられ、神殿で強化もされているため、彼の身体は一般人より遥かに強い。一方、盧安の身体は依然として常人並みだ。三十六時間で盧安は既に疲労困憊し、思考もしばしば滞る。しかし、強大な自己感覚の統合によって、こうした時折の停滞は多くの事前演習から伝わる感覚によって補われる。今のところ穆塵飛を抑え続けるのは無論問題ないが、このまま続けば、盧安は自分の身体が耐え切れないと感じている。
盧安はバッグからラード月餅を取り出し、体力を少し補給しながら、次の計画を考えた。盧安は8時間後にこの追撃に終止符を打つことを決めた。いつまでも穆塵飛を追い回すだけでは解決にならない。
10分後、状況に変化が現れた。
穆塵飛の方角の地平線に煙が立ち上り、続いて盧安は地面から響く雷鳴のような音を聞いた――大量の予演からの感覚が重なり、現実の盧安は遠くの地面の震動をはっきりと聞き取った。遠くで、二千人の軍隊がこちらに向かって来ていた。
遠くでこれからこの地を通ろうとする軍隊を見つめ、盧安は頭を空に向け、独り言を言った。「この文明にとって、私の行動は戦争には当たらないだろうか…」
盧安が言うこの文明とは、星空の人類文明を指している。主文明の辺境地域で発生する戦争は、単に衝突と呼ばれ、盧安がいるこの星は、数多くある星空人類の追放区域の一つに過ぎず、いずれも辺境地域に属している。
二十世紀初頭の地球では、中国は生産力の全面的な遅れから、人類文明の辺境地域となる経験をした。当時、最先端の生産力を持つ欧米諸国のメディアは、中国を見る際、ただ表面的に彼らが見たい部分だけを大まかに見ていた。例えば、神秘的な東方文化やキリストーー教の普及度合いなどである。その時代、中国の国民と政府もまた、世界の前で自らが文明世界の一員であることを示すことに長けていた。しかし、偉大な作家である聞一多は、当時の旧中国の様々な現状に不満を抱き、人類文明を動かす実質的な力を捨て去る本末転倒の状況に対して、『死水』を書き綴った。
百年の発展を経て、中国の掌握した生産力はついに欧米と肩を並べ、当然のごとく人類の主文明の中核地域となった。一方、地球の二十一世紀初頭には、ほとんどすべてのメディアの原稿に“これは平和な時代だ”と書かれていた。西ヨーロッパで数十人から数百人がテロ攻撃に遭うと、世界は衝撃を受ける。人々は同類の死に極めて敏感であるように思われ、猫や犬などの小動物が虐待される事件には、義憤に駆られる。これは、これらの出来事が主文明の中核地域で起こっているからだ。しかしその当時、主文明の中核地域にいる大半の人々は、世界の平和でない場所を無視していた。例えば、アフリカの部族の原住民たちが銃を持って戦う様子などを見過ごしていた。戦火が絶えることのない中東地域では、数百人が米軍の白リン弾で焼死するような事件も、主文明の大半の人々にとっては珍しくなかった。そこは混乱地域だからね。これらの周辺地域の不穏さは、世界中の主流メディアが地球の21世紀を平和な時代と判断することに全く影響を与えなかった。
見ての通り、主文明の周辺地域で起こることは、喜びであれ悲しみであれ、発言権を握る主文明から無視される。そして、盧安がいる戎星は、主文明が無視する周辺地域であり、だからこそ盧安はこのように自問自答するのだ。
盧安は視線を地平線に戻した。遠くで旗をひるがえす軍団と、軍団の中へ歩み入り指揮官としての風格を取り戻した穆塵飛を見つめながら、盧安は感慨深げに言った。「星空の壮麗さを目にできないのは、やはり心残りだな……」
盧安がこの位面に来て最も心残りなのは、この時代の輝きの中に身を置くことができず、一目見ることさえも不可能だということだ。
このような憧れながらも得られない状況は、盧安がジュラ紀時代に越えられない湾に直面した時にも経験していた。しかし、かつての自分と比べると、盧安には大きな変化が起きている。
今、この任務世界における盧安の目標はただ一つ、穆塵飛、もしくは穆塵飛が持つあの穿越システムだ。




