0078 心破り雷
この世界のすべては、地球の十八世紀のようである。街には馬車が行き交い、一部の繁華な都市では渋滞が発生し、数十分にわたって十メートルも進めないことさえある。
そして、馬車と馬車の隙間を、盧安は魚のようにすり抜けていく。
突然、一台の馬車の前の馬が、まるで蹄に油でもついたかのようによろめき始めた。この馬は慌てて体勢を立て直そうとしたが、わずか半秒もがくうちに、「ドシン」という音とともに、この大きな馬は轟然と倒れ、繋がれた手綱ごと大車を引きずり、隣の馬車に衝突した。
盧安の背後で起きたこの小さな混乱によって、十数秒前に盧安が通り抜けた狭い通路は粉々に破壊された。盧安のすぐ後ろを追っていた尾行者は、遠回りを余儀なくされた。
盧安は街の南へと速やかに向かった。盧安の予行演習では、回収目標もずっと遠くからついてきていた。
しかし、盧安はなかなか手を出そうとしなかった。投鼠忌器だからだ。予行演習で、盧安は尾行してくるエージェントたちを殺そうと試みた。実際に盧安は彼らの手足を切り落とし、戦闘能力を失わせることはできたが、予行演習で彼らはすぐに口の中の毒カプシェルを噛み砕いて自殺してしまった。
盧安がこれらの者を傷つければ、殺すのも同然だった。自分の命をこれほど軽んじる者たちに、盧安はむやみに手を出せなかった。もし数十人の殺し屋の死がすべて自分のせいだとしたら、すでに耐えがたい予知能力がどう成長してしまうのか、盧安には想像もつかなかった。
四百メートル先で、穆塵飛は盧安の動向をずっと把握していた。盧安の能力を、穆塵飛は必ず手に入れるつもりでいる。
死士は兵士とは違う。ゲームの中の兵士は、ゲーマーの一声で最後の瞬間まで戦えるが、現実の兵士は戦う理由がないと感じれば投降する。だが死士が死に赴く理由は、主人の命令なのだ。
穆塵飛が死士を使う理由は簡単だ。まず、彼のある能力は死士の育成に有利で、他の勢力よりも気軽に死士を使える。次に、ここは彼の勢力範囲ではないため、関係を断ち切るために、他の者が自分に面倒を持ち込まないようにするためだ。例えば、刺されたばかりの蒼辟の黒幕が見つからないように。
高い建物の上に立つ穆塵は、一歩一歩と外へ逃げていく盧安を見つめ、口元に微かな弧を描き、淡々と笑いながら言う。「一体どんな能力なのか?実に興味をそそられるな。」
二つの通りを抜けた後の盧安は、予演の中で司軒たち三人を見つけた。盧安が呆れたのは、この三人もまた後ろの者に目をつけられていたことだ。
盧安は足を止め、この三人と合流すべきか迷った。最終的に、盧安は素早くこの三人の方へ歩いていった。
二分鐘後、司軒は盧安が突然目の前に現れるのを見て、慌てて馬車を駆って盧安の方へ向かった。
「まず車に乗って」と司軒は言った。
通りで目立つこの馬車を見て、盧安は深く息を吸ったが、それでもこの馬車に飛び乗った。
盧安が馬車に乗り込むと、司軒はすぐに馬に鞭を当て、馬は車を引いて城外へと疾走した。死士たちが遠ざけられるのを見て、盧安は馬車の中に座り、予行演習で後ろを振り返った。
屋根の上に立っていた任務目標がその時突然消えた。弾丸を握りしめて発射の準備をしていた盧安は、仕方なく弾丸をしまった。
小路で、穆塵飛の姿がちらりと現れた。この時、彼は眉をひそめた。というのも、先ほど非常に明確な危険を感じ取ったからだ。危険感に駆られて、穆塵飛は素早く自分の能力を空間能力に切り替え、安全な場所へと瞬時に移動した。
穆塵飛の眼前の光幕には、すでに六十パーセントに達した進行バーが表示されている。「この危険感は……ふん、どうやらこの能力はなかなか侮れないな。だが……」穆塵飛は自信満々に考えた。「まさか俺の能力の数に気づくとは思うまい!」
穆塵飛は目を閉じ、能力を生物制御に切り替えた。数キロメートル先では、一匹また一匹と毒蜂が飛び立つ。毒蜂の編隊は地上二十メートルの半空に浮かび、まるで空飛ぶ絨毯のようだ。
追手を振り切ったことを確認すると、司軒はほっと息をつき、盧安に尋ねた。「蒼辟のところで面倒を起こしたのか?」
盧安は首を振って言った。「いいえ。」
「もし彼が面倒を起こしたのなら、蒼辟は軍営の中で完全に解決処理できるはずです。それなのに私たちは…」言藝は眉をひそめて言った。「この勢力はしばらく前から私たちを尾行しているようです。」
その後、言藝は盧安に向かって尋ねた。「必ずしもあなたが起こした面倒とは限らないが、あなたが車を降りた後、私たちを尾行している勢力が突然動き出した。きっとあなたに関係がある。盧安、理由を話してくれ。」
言藝は教師が生徒に白状させるような口調で、淡々と盧安に尋ねた。
盧安は有無を言わせない表情の言藝を見て、静かに答えた。「実は、知らないほうがいいかもしれません。」
これを聞いて、司軒は猛然と言った。「そして今、私たちは知らないわけにはいかないんだ。知っているなら、隠すな!」
盧安は仕方なく笑って言った。「どうやら、私は隠せそうにないね。」
三人の視線が盧安に注がれている。司軒は妥協しない視線、言藝は厳しい視線、そして風無畏は隠されて悲しんでいる視線だ。
盧安は光幕を開き、光幕に司軒北頜の小隊オプションが現れた。これまでのところ、盧安は北頜のチームと共に行動しているが、元一の判定では、盧安は一人のチームで、北頜五人組は一つのまとまったチームだ。
元一が異なるチームを設定する理由は、複雑な任務では異なる小隊の責任を分担する必要があるからだ。そして今、元一が盧安個人に課したこの任務は、他の小隊が事情を知った後は引き継がなければならないものの、これは彼らの小隊の任務ではない。そのため、盧安が任務情報を北頜のチームに完全に伝送した後、盧安の目の前にいる三人の顔色が一変した。
言藝は光幕に表示された元一が強制的に割り当てた任務を見て、気まずそうな顔をし、それから硬い表情で盧安に軽くうなずき、盧安が隠していたことを理解しつつ、現状には言葉もない様子だった。
風無畏は小声でぶつぶつ言った。「もう少し頑張ってくれなかったのか。」ここでの「君」は盧安を指し、「もう少し頑張る」とは、盧安がさっきの問い詰めで口を割らなかった方がよかったのにという意味だ。もちろん、風無畏もこんな言葉は道理に合わないと分かっているので、ただ小声でぶつぶつ愚痴をこぼすだけで、問い詰める勇気はなかった。
司軒は心配そうに、「いつのことだ、なぜもっと早く言わなかったんだ?」と尋ねた。予行演習では、盧安は何度も探りを入れたが、司軒のその言葉が本心なのかどうか見抜けなかった。
盧安は答えず、窓を開けて遠くを見つめながら言った。「面倒なことになった。」
一分後、空の彼方からざわめくような羽音が聞こえてきた。穆塵飛が操る蜂の群れが到着したのだ。毒蜂たちは馬車を取り囲み、地上四メートルの高さで直径二十メートルの大きな輪を作った。
「早く火をつけろ。突破するんだ」と司軒は後ろの者たちに言った。
しかし、その後の予行演習で、火がつけられた瞬間、盧安は一発の銃弾が司軒の頭蓋骨を吹き飛ばすのを見た。予行演習の中で司軒の死を目の当たりにした盧安は、雷に打たれたかのような衝撃を受け、様々な思い出が一気に溢れ出した。
人を失って初めて、その人の大切さが分かるのだ。今、盧安は予演の中で、もうすぐ一人を失うことを見た。はっとして、盧安は、この後自分が間違った選択をすれば、とても悔やむだろうと思った——司軒は純粋な善人だ。
今の盧安にとって最も利己的な選択は、馬車に火をつけて炎で毒蜂を追い払うことだ。最終的に、盧安が生き残る可能性が最も高く、他の四人は一人ずつ狙撃される。なぜなら、今回の盧安の任務目標である穆塵飛が四百メートル先で、盧安からコピーした無阻超能を使って発砲しているからだ。仲間が攻撃を引きつけてくれるおかげで、盧安は難を逃れることができる。
言藝がマッチを取り出した途端、盧安はマッチの箱を奪い取り、車から飛び降りた。盧安がマッチを奪うのを見て、司軒は不思議そうに尋ねた。「盧安、何をするんだ?」
盧安は司軒を見て、淡々と言った。「なぜ君は悪人じゃないんだ?」
「どういう意味だ?」すぐに、司軒は盧安の背後に迫る蜂の群れを見て、大声で叫んだ。「早く隠れろ!」司軒も車から飛び降り、盧安を車の中に引き戻そうとした。
盧安は穆塵飛のいる方向をちらりと見た。この時、穆塵飛はまた何かを感じ取り、慌てて掩体に隠れ、同時に能力を空間跳躍能力に切り替えた。
「悪人を倒して善人を助け、しかも自分に損がなく、むしろ自分の利益にかなうことこそ、気持ちのいい経験だ。ところが今は」盧安は司軒の手を振り払って叫んだ。「君のような善人を犠牲にしてこそ、最小の代価で逃亡できるなんて、これは一体何なんだ!もし君が北頜だったら、俺は何の呵責もなくそうできたのに!」
次の瞬間、盧安は目を見開いた。盧安の背後に広がる大群の蜂の中で、最前列にいた毒蜂は突然上昇する力を失い、透明な羽を震わせながらも石のように落下していった。そのとき毒蜂が羽ばたく羽はまるで鋭利な刃物のようで、落下の軌道上にいる毒蜂を次々と切り落としていった。盧安はこれらの毒蜂の羽に無抵抗膜を施していたため、こうした効果を生み出したのだ。
大量の毒蜂が盧安の三メートル以内に入ると、全てが制御を失い、頭から墜落した。地面に衝突した際、無抵抗膜を纏った羽は鋭く地面に食い込み、盧安はその瞬間、これらの羽の無抵抗膜を解除した。すると、一匹また一匹と毒蜂が地面に倒れ、羽が地面に刺さって身動きが取れなくなった。
盧安に手を振りほどかれた司軒は、両瞳孔が拡大した盧安の周りの飛行禁止領域を見た。司軒はまるで盧安の正体を見たかのようだった。
盧安は一秒前に穆塵飛がいた場所を見て、機械的に独り言を言った。「逃げた。」盧安はグロック18を取り出し、後ろから追ってくるエージェントに目を向けた。
銃を構え、発砲。薬室のガスと弾丸は無阻膜に包まれて一緒に飛んでいく。三百メートル先で、自転車に乗ったエージェントが倒れ、0.1秒後に二人目のエージェントが倒れ、三人目、四人目と続く……数秒後、十一発の弾丸を撃ち終え、十一人のエージェントが死亡した。
この世界で殺戮を避けてきた盧安は、今、自分がずっと避けてきたことをしてしまった。
十一人のエージェントが死亡した後、盧安は振り返り、虚ろな表情で言った。「あなたはいい人だ。いい人は死ぬべきじゃない。」
先ほど、盧安が発動した予行演習は二種類に分けられた。第一類は、盧安が自分を救おうとする善良な司軒を犠牲にし、最小限の代償で生き延びる方法。第二類は、盧安が自ら歯を食いしばり、以前の自分が直視できなかった代償に立ち向かう方法。
ジュラシック任務を遂行していた時、盧安はかつて、司軒というお人好しのために多大な代償を払う日が来るとは考えもしなかった。しかし、このお人好しが守ろうとしている対象が自分自身である時、裏切るべきか、それとも払いたくない代償を払うべきか?この選択問題は、どちらを選んでも心臓を貫く雷のごとき衝撃を受けることになる。
おとぎ話の世界では、悪人は常に自分の利益を損なうため、悪人を殺すことと自分の利益に反しないことが、読者をして当然のように憎ませる。善人を助ける行動は常に自分の利益に合致するため、おとぎ話の中の善人はいつもためらわずに他の善人と団結する。しかし現実の社会はそうではない。善人を救い悪人を殺すことは、自分が払いたくない代償を払うことになるので、ためらいが生じ、大人たちは往々にして「長期的に検討する」ことを選ぶ。だから、人の思考が成熟すると、無意識のうちに間違いを許容し、正しいことを先延ばしにするようになる。
「自分が認める正しさを選び、自分がずっと認めてきた利益に反する。」地面に死んでいる毒バチを見ながら、盧安は自問する。「あることをしなければならないと分かっているのに、ずっと代償を払うことを拒み、自己の現状と外部の厳しい現実が衝突する時、この心を打つ雷鳴の下で、何を捨てるべきなのか?」
盧安の選択は明らかだ——善人が自分を守るとき、自分の沈黙は罪となる。




