0077 狩猟
列車は朔城に到着した。盧安は肩にかけたバッグの紐を引き上げ、表情を精一杯明るくしようと努めた。盧安は蒼辟から受けた鬱憤を振り払いたかった。少なくとも、出迎える三人に気づかれるわけにはいかない。
電車を降りたところで、司軒たち三人を探していた盧安はふと笑顔を凍らせた。何度もの予行演習を経て、盧安は周囲の様子がおかしいことに気づいた。四十メートル先で、何気ない風を装って近づいてきた男がちらりと自分を観察し、それから隠微な合図を送った。人混みの中の別の男がその合図を見ると、すぐに背を向けて立ち去り、残りの数人がほどよい距離から自分を監視している。予行演習中の盧安はすぐさまこの数人に向かって駆け出し、すると彼らは間髪入れずに腰から拳銃を抜いた。
「マークされたか……」盧安は心の中で思った、「一体誰なんだ?」
明るく切り替えようとしていた盧安の気持ちは、すぐさま濃い暗雲に覆われた。
今、盧安が真っ先に疑っているのは北頜だ。一度罠にかけられてから、盧安の北頜に対する信用は極めて低い。
自分がここに来たのは北頜の手配によるもので、しかも列車を降りた途端、誰かがこそこそと自分を見張っていて、手には銃まで用意していた。盧安の心の中では、北頜の嫌疑を晴らすのは難しい。
盧安は人混みの多い方へ歩きながら考えた。「まさか俺を完全に始末して、永遠に後顧の憂いを断とうというのか?」そう思うと、盧安の心にぞっとする寒気が走った。
回想の中で、盧安はもう一度振り返り、その数人の男たちを注意深く観察した。盧安は、これらの男たちが北頜流水幫の手下たちとは違うように感じた。盧安は冷静になり、これらの男たちの所属勢力を改めて考え直した。
「蒼辟?蒼辟が俺を殺す必要はなさそうだ、可能性は極めて低い。北頜?今のところ嫌疑は晴れない。他の者を雇うか、あるいは別の時空の傭兵と手を組んで、この勢力の中で俺を排除しようとしているのかもしれない。」
現在の状況をじっくりと考えていた盧安は心の中で突然驚いた。「なるほど、彼はここにいたのか。」
人込みでにぎわう街中で、盧安は群衆に紛れ込み、左側の路地から右側の路地へと移動し、後ろの追跡者を完全にまいてしまった。その時、盧安から五百メートル離れたビルの屋上で、空間が波紋のように揺らめいた。二秒後、穆塵飛の姿が高層ビルの上に閃くように現れた。
ほとんどの人はこの閃きに気づかないだろうが、周囲の環境をあらゆる角度から観察していた予演が、偶然にもこの閃きを捉えた。さらに、盧安は三回の予演を重ね、自分の見間違いではなく、五百メートル先のあのビルに確かに人が虚空から閃き現れたのだと確認した。
数ヶ月前、盧安もこの点滅を見たことがあったが、その時は処理しようとは思わなかった。その時、盧安はこの位相に一年間滞在し、滞在が終わったら去るつもりでいた。そして今、この点滅が再び盧安の前に現れ、盧安はすべてを悟った——北顎が自分を陥れようとしているのではなく、自分が引き受けた回収任務の回収対象がすでに自分に迫っているのだ。
盧安の心の中での北顎への疑惑は晴れた。時空傭兵はいくらろくでなしでも、任務目標と結託して自分を陥れるようなことはしないからだ。もし本当に時空傭兵が任務目標と共謀して自分を陥れようとしているなら、元一が警告しないはずがない。何しろ、すべての時空傭兵の行動は元一の目的のために奉仕しなければならないのだから。元一は状況を掌握しているのだ。
盧安は暗い路地の隅に歩み寄り、元一の光幕を呼び出し、予演を使って路地の出口の外の様子を観察しながら、元一に尋ねた。「元一、目標か?」
「その通りです。」
盧安は一息ついて、突然尋ねた。「元一、前回の任務での三人の仲間は誰だ?」
元一は答えた。「前の任務では仲間は二人だけだった。それに対して、君の警戒心に感心するよ。自分の状態を整えてくれ。友情のアドバイスだが、三人のチームメイトが半径四キロ以内にいる。現在の任務を知らせようか?」
元一に問題がないことを確認すると、盧安は言った。「チームメイトの通信をつないでくれ。」
四キロ先では、風無畏がまだ部屋で寝坊しており、一方司軒は言藝と一緒に街を歩いていた。言藝の買い物は量が少なく、主に店で品定めをするだけだった。選んだ品々は元一空間に持ち帰れないため、今の言藝には買い物はただの気晴らしだ。そして司軒は言藝のために荷物を持ち、支払いを手伝っていた。
「大将、十四文銭だよ。買わないなら行くからね。」言藝は道端の屋台で、年配の男性と楽しそうに値段交渉をしていた。
司軒はそばで仕方なさそうに笑った。自分は言藝の支払いに困るほど金に困っているわけではなく、言藝も金を気にしているわけではない。ただ値切るために値切っているだけだ。言藝と顔を真っ赤にして争っているこの店主は、言藝が最後に元の値段の倍をチップとして支払うことを知らない。もし言藝が値切れなければ、言藝は買わない。言藝にとって、ここでの買い物は一つのゲームなのだ。
「わかった、わかった、お嬢さん、あなたの勝ちだ。十四文で十四文だ。」店主はついに折れた。
司軒は笑顔で前に進み支払いをしようとしたとき、突然はっとして手首に飛び出す元一の光幕を見た。司軒はすぐに巾着から二十文の金をつかみ取り、店主の前に放り投げ、それから素早く言藝を引っ張って立ち去った。
「盧安、着いたのか?」司軒は光幕に尋ねた。
四キロ離れた盧安は司軒の返事を見て、「私は駅の近くにいる、すぐに来てくれ」と言った。
盧安と司軒の通信を見て、言藝は興味津々に口を挟んだ。“盧安、着いたの?今日はこの街でしっかりとおもてなししよう。”
予演中の盧安は後方二百メートルの屋根の点滅を見て、現実の盧安はやや焦って言った。“事情が少し複雑だ、十五分以内に、早く人を連れて南門で落ち合おう。”
盧安の口調の焦りを聞いて、司軒は事の重大さを感じ、急いで尋ねた。“そっちは今どうなっている?”
盧安は遠くで自分を包囲しようとする人々を見て、司軒に言った。“誰かに狙われた、そっちも注意したほうがいい。”
これを聞いて司軒の瞳孔が縮み、元々言藝の腕を掴んでいた手が無意識にぎゅっと握られ、言藝の腕に赤い痕を残した。
司軒は警戒して辺りを見回し、すぐにうつむいて言藝に「行くぞ」と言った。部屋で寝ていた風無畏も数秒後に司軒からの通信を受けた。状況を知ると、彼はすぐにベッドから飛び起き、ドアを押し開けてすぐに立ち去った。
三人がその場を離れた直後、付近では数発の花火が打ち上げられた。
司軒は空に上がる花火弾を見上げ、緊張して唇を噛んだ。言藝の顔にも重苦しい表情が浮かんだ。昼間に花火弾を打ち上げるのは、明らかに何らかの連絡手段だ。三人はちょうど盧安から警告を受け、移動の準備をしているところで、付近に花火が現れた。これは明らかに三人がこの街に着いた途端、何者かの勢力に目をつけられたことを示しており、しかも自分たちはそれまで全く気づいていなかったのだ。
言藝は司軒に言った。「私達、はめられたのよ。」
司軒はうなずいて言った。「ああ、しかし敵は一体誰なんだ?」
「今すぐ北顎に知らせるべきだ」
花火が打ち上がると、朔城の大通りにいた人々は次々と顔を上げ、空にパチパチと散る火花と白い煙を指さして騒ぎ始めた。屋根の上に立つ穆塵飛は、空に炸裂した花火を淡々と一瞥し、気にも留めずに独り言を漏らした。「仲間に知らせたのか?まあいい、ここは人が多すぎる。まず逃げてみろ、それから捕まえてやる。」穆塵飛の顔には猫が鼠を弄ぶような表情が浮かんでいた。
穆塵飛の掌がかすかに光ると、一輪の花火がその手のひらに現れた。炎が穆塵飛の指先から軽やかに踊り、そして花火に火がついた。まばゆい火花が空へと昇り、炸裂した。
都市の外で、厚手の防護服を着た三人の特務が花火を見ると、すぐに慎重に木箱をこじ開け、中からガラス瓶を取り出した。ガラス瓶の中には、一匹一匹の毒バチが静かにとまっていた。
特務たちは慎重に瓶を開けた。すると、毒バチが突然飛び出したが、乱れ飛ぶことはなく、何者かに操られるように梢にとまって待機した。
穆塵飛は今や遊び人じみた態度を見せているが、それでも盧安の能力をかなり警戒している。盧安の第二の能力が一体何なのか、穆塵飛には分からないが、前例のないダウンロード数から見て、それは極めて高位の能力に違いない。
穆塵飛は今も遠くから盧安をじっと見張り、距離を保っている。もし危険を察知したり、標的が危険すぎると判断すれば、すぐに遠ざかる。穆塵飛は盧安に関する多くの情報を集めている。情報によると、盧安は超長距離の攻撃手段を見せたことがない。盧安は殺し屋組織を壊滅させた際、超長距離からの狙撃ではなく、拠点を突き止めて比較的近い距離で戦う道を選んだ。だから穆塵飛が自分に設定した安全距離は三百五十メートル以遠だ。
穆塵飛は自らの長所を活かし短所を避け、盧安が街を出た後、遠距離手段で盧安を待ち伏せしようと決めた。
一方、数百メートル先から穆塵飛が見つめているのを感じながら、盧安の手はいつでも戦利品空間から風神弓を取り出せるよう準備していた。三四百メートルという距離は、盧安の敵たちにとって決して安全圏とは言えなかった。盧安が弓を構えなかったのは、穆塵飛が手を出さないのを見ていたからだ。
できることなら殺さないのが盧安の習慣だった。このような盧安の習慣は、この時代の権力者たちには理解できず、同じく時を超えてきた者たちにも理解できなかった。なぜなら、この二組の者たちはいずれも生殺与奪を自在に操ることに慣れ切っていたからだ。
酒飲みはできる限り手持ちのお金で酒を買って飲み、他人が酒を飲まないのを見ると、金が惜しくて酒を買わないのだと誤解する。一方、酒を飲まない人は、酒飲みがいつも酒瓶を杖のように突いているのを見ると、その酔っ払いの腕に障害があり、酒瓶を杖代わりにしなければならないのだと思う。両者の注目するポイントが異なるため、当然相手の立場を理解することはできない。
予行演習で、盧安は標的を仕留められるかどうかをテストーーした。すると、0.3秒以内に標的を仕留めるのは難しいことがわかった。なぜなら、標的の身体の周囲には防護シールドが巡らされており、それを打ち破るにはある程度の時間がかかるからだ。防護シールドを貫通した後、盧安は標的の身体が金メッキのようになっているのを発見した。これも防御の一種である。もし0.3秒以内に標的を仕留められなければ、標的は逃亡してしまい、自分は大勢の特務がなりふり構わず銃撃を浴びせる危険な状況に陥ってしま宇田ろう。
このスパイたちを殺すことは可能だが、もし選択肢があるなら、盧安は標的だけを殺したいと思っている。盧安は予演能力がこれ以上成長するのをどうしても避けたかった。十五人も殺せば、予演の総量が恐ろしいほど増大するのは間違いない。




