0067 殺しの名
貧民区のスラム街にある洗濯場の前では、大勢の女たちが洗濯板で衣類を洗っていた。毎日、何台もの衣類がここへ運び込まれ、修繕や糊付けが行われている。
この洗濯場は見た目には他の洗濯場と何ら変わりはない。しかし、この洗濯場の地下に別天地が広がっているとは、誰が想像し得るだろうか。
これは殺し屋組織の拠点だ。この拠点は七年以上存在し、古い拠点と言える。拠点は隠密性が必要で、複数のバックアップ拠点も必要だ。そのため、通常は五年で変えるが、七年はかなり長い。貧民窟はあまりに汚く、乱れ、貧しく、利害の絡みもなく、誰も管理を気にしないため、殺し屋組織が身を隠すのに都合が良い。もし地球の二十一世紀であれば、大量の監視カメラがある中で、都市に殺し屋組織の居場所などあり得るだろうか?
そして今日、色白で革の長靴を履いた一人の少年が、汚水溜まりの中の高いところを踏みながら、この店の前までやって来た。
一人の腰を曲げた三十歳の男が、無邪気な笑顔を浮かべて言った。「お坊ちゃん、こちらに来られたのは、お間違いでは?」
盧安は三度の予演を経て、彼の腰の後ろに鋭利な刃物が隠されていることを知った。現実では盧安は何も言わず、袖をひと振りすると、手には短剣が握られており、突然その男の左肩を突いた。
この短剣は盧安が前回の盗みの際に手に入れたもので、柄も鞘も新しいものに交換されていた。盧安が手に刃物を持っているのを見て、その男は驚愕し、習慣的に腰の後ろの刀に手を伸ばそうとしたが、刀を取ろうとする腕に力が入らなくなっていることに突然気づいた。
実は、盧安の手にした短剣が彼の左肩の骨を正確に突き刺し、ひとえぐりして捻ったことで、中の神経がかき乱されてしまっていたのだ。盧安は彼を蹴り倒し、その勢いで短剣を使って彼の背後の刀をはじき飛ばした。
盧安は何も言わず、先に進み続けた。そのとき、そばにいた洗濯婦たちは血を見て悲鳴を上げながら四方に逃げ出したが、8人の婦人だけはまだ逃げていなかった。この8人が何か行動を起こす前に、盧安は牛皮のパチンコを取り出し、連続して8回引き、8つの丸刃でそれぞれ8人の足首を切り落とした。
このときの9人の殺し屋は、1人が腕を切り落とされ、8人が足を失っていた。9人は恐怖と激痛の中で叫び声を上げ、普通の人と何ら変わりなかった。
このとき、戦局の外にいた時空の傭兵が盧安に、さらに3人がここに隠れていると知らせた。そこで、盧安はこの干し場に入っていった。
大量に干された布が全員の視線を遮った。盧安はパチンコをいっぱいに引き絞り、3つの丸刃をそれぞれ弾き飛ばした。丸刃は無数の布に切り口を作った。
殺し屋はよく一箇所に隠れるが、この洗濯工房は大きくない。盧安は予行演習で数回探りを入れた後、おおよその位置を特定し、パチンコを下半身の位置に向けた。三枚の円刃が三人のふくらはぎを切断した。
予行演習の中で、盧安は一分以内に誰も出てこないのを見て、ここを離れた。彼は一枚の紙をこの洗濯工房の門に貼り付けた。紙にはこう書かれていた。一寒暑のうちに、もし命の売買をすれば、汝に不完全な体を与えよう。
盧安はこの世界の殺し屋業を終わらせることができるとは考えていなかったが、殺し屋業を一年間休業させることなら、できると思っていた。殺し屋という商売は、もともと一年開店しなくても、開店すれば一年食えるものだ。
殺し屋は必ずしも武芸に秀でているわけではない。武術を鍛える者は冬でも夏でも稽古を欠かさず、足の筋肉や手のマメが普通の人とは違うため、経験を積んだ目利きには一目で見抜かれてしまう。そして、殺し屋は見破られてしまえばそれで失敗だ。だから殺し屋はそのような鍛錬はせず、精神力(定力)を養い、一撃で仕留めることを重んじる。例えば、春秋時代、慶忌を暗殺した要離は、身長がわずか五尺余りと痩せ小さく、腰回りは一束(細く)、容貌も醜い人物で、まったく脅威を感じさせなかった。しかし、ここぞという時にこのような人間は全身の力を爆発させ、不意を突く致命的な一撃を仕掛けることができる。
彼らの手口は多く、石灰を撒く、刃に毒を塗る、吹き矢を使うなどがあり、共通点は突然性を重視することだ。しかし、盧安が最も恐れないのは突然性だ。刀でこれらの殺し屋を切り伏せるのは、喧嘩で人を切るよりも簡単だ。なぜなら、彼らは単独で待ち伏せすることしかできず、チームワークというものがないからだ。彼らの最初の一撃をかわしたら、盧安の反撃の時だ。
情報提供に関しては、もう一人の時空傭兵、季耀陽だ。彼は昆虫の視点を制御して戦場を観察でき、盧安の強攻を補助する。この二人組はこの三日間で七つの殺し屋組織の拠点を制圧した。そして、その日の夕方、盧安と季耀陽は基地に戻った。
殺し屋組織の拠点が露見した時、新平絲は堂々と報復を行うことができ、例えば数百人を派遣して殺し屋組織の拠点を包囲し火を放つ。しかし、盧安に戦わせるのは、実はより良い選択だ。新平絲が組織の大勢を動かして報復すれば、少数の殺し屋組織にしか報復できないが、もし暗殺任務を請け負う可能性のあるすべての殺し屋組織に報復すれば、それは殺し屋業界全体と敵対することになる。殺し屋たちに商売をさせないのは、人の財路を断つことであり、殺し屋業界全体が当然新平絲の組織を攻撃して警告してくるだろう。しかし、盧安のようにたった一人で、一时の気まぐれな行動と見える場合、盧安を殺せない前提では、殺し屋組織は軽率に動くことはない。そして今、これらの殺し屋たちは未だに盧安と新平絲の関係が一体何なのかを知らない。彼らからすれば、もし新平絲の勢力が盧安の所属勢力の一つの下位組織に過ぎなければ、報復することで逆に上位の大勢力を怒らせ、より激しい手段で反撃されるかもしれないのだ。そこで、ほとんどの殺し屋組織は直ちに拠点を放棄し潜伏することを選んだ。どうせ一年の間だけで、その间に盧安の鋭鋒に正面から立ち向かう必要はないのだ。
盧安の行動に対し、新平絲は三日間前の驚きから、少し慣れてきた。しかし、新平絲は今回、季耀光から盧安の戦闘状況を聞いた後、思わず注意して言った。「盧安、やっぱり遠距離からの狙撃の方が安全だと思うよ。」
盧安は答えた。「遠距離狙殺では、最大の衝撃効果を得るのは難しい。」
実際のところ、盧安はうっかりまた人を殺してしまい、自分の予演能力がまた増えるのを恐れていた。
「今でもう十分衝撃的だ。江湖ではお前の名がもう広まっている」と新平絲は笑みを浮かべて冗談めかして言った。「連中は、お前は朝廷の内廷から来た高手で、江湖に警告を与えに来たと言っている。今や、お前の江湖での名は狴犴だ、ただ……」
そう言って新平絲は眉をひそめ、心配そうな表情を見せた。「自分が失敗するかもしれないと考えたことはあるのか?姉からの忠告を聞いて、そんな無茶はやめてくれ。」
これを聞いて、盧安は考え込んだ。自分の今の所業は常人の目には、説明がつきにくい。しばらく考えた後、盧安は新平絲に言った。「私は殺気を感じ取れる。心配しなくていい。」
これを聞いて、新平絲は何か察した様子で、慎重に探りを入れた。「あなた、他にも探査系の天賦を交換してるの?」
盧安は答えなかった。答えるまでもなかった。彼女なら察してくれるからだ。
盧安の行動は、江湖全体に非常に大きな衝撃を与えたが、ほとんどの人々は殺し屋業界を幸災楽禍の目で見ていた。何しろこの業界は便器のようなもので、必要な時は惜しみなく大金を払うが、必要ない人は遠ざける。この連中はどの階層からも疎まれ、社会の死角に寄生している。人々は彼らを、薄暗い隅の毒蛇や毒虫のように見なしている。今、狴犴の名を持つ達人によって七つの組織が立て続けに潰されたことを、人々は喜んで見ているのである。
180キロメートル離れた瀚海軍團の駐屯地に、豪華な軍服を着た大帥・蒼辟が執務机の前に座っている。彼は一枚一枚のスケッチを見ており、それには盧安が描かれている。
蒼辟から数メートル離れたところに、周舍が古い鐘のように端正に座っている。
蒼辟はすべての資料を読み終えて軽く笑いながら言った。「人を殺すのが好きではない?」そう言うと、彼は視線を周舍に向けた。
「はい、列車の中で彼の手並みを見ましたが、すべて急所を避けており、誰一人として命を奪っていません。」周舍は尋ねた。「大帥、あなたはこの男が心弱いとお考えですか?」
蒼辟は首を振って言った。「心弱い?それは心弱いとは違う。」この大帥はもう一份の江湖の資料を周舍に投げて渡した。
周舍はその紙の資料を開き、顔に驚いた表情を浮かべた。
蒼辟が説明した。「心優しくて甘い。血を見るべき時に決断が鈍る。一方であいつは実に決断が早い。ただ、私から見るとその決断も少々融通が利かない。」
周舍は推測して言った。「まだ十四歳だ。こんな習慣は…きっと家族に押し付けられたんだろう。」
蒼辟はうなずき、ため息をついて言った。「はあ、だから奴は毒を塗った刀にはなれないのだ。もっと早くこの子に出会っていれば、私の煞部に一本の鋭い刃が加わっただろうに。この才能が惜しまれるなあ。」
蒼辟の嘆きを聞いて、周舍は何も言わなかった。
周舍は、煞部が瀚海軍團において特殊な存在であることを知っていた。瀚海軍團最強の部隊は重騎兵部隊だが、重騎兵部隊の大半は小貴族たちであり、吉王朝から爵位を与えられている。そのため、大帥がどれほど人心を買収しようとも、この軍隊の第一の忠誠対象を変えさせることはできない。一方、煞部は完全に蒼辟へ忠誠を誓っており、所属する全メンバーが幼少期から過酷な訓練と洗脳を受け、成人すると死士のような存在となる。蒼辟が「あと数年早く盧安に出会えていれば」と嘆いたのは、実のところ、盧安全家をもっと早く殺せなかったこと、そして盧安が幼く何も知らない段階で洗脳し、煞部の死士として育成できなかったことを嘆いたものだった。
周舍は言った。「大帥、流水幫が四千両の黄金を献上してまいりました。」
蒼辟はうなずいて言った。「黄金の半分を返し、私には忠実な犬が必要だと伝えろ。」これは流水幫に忠誠を要求し、完全に自分の手先にしようとしている。
周舍は命令を受けて去った。




