0527 宇宙生命
盧安が乗る宇宙シャトルの中で、もともと正常に稼働していた人工知能は、最後の終結命令により動作を停止した——人工知能は長い時間の中で消耗し尽くされたのだ。
人工知能が人間の意識に消耗させられるというのは、宇宙船を設計した最初の人類たちが全く想定していなかったことだ。宇宙船の航行過程においては、すべて人間の意識が人工知能を消耗させるケースだった。盧安に今起きた事例は、最初の人類文明の史上初めてのことだ。
星間航行の時代以前では、大半の人は観察者の立場にあり、他人が示すいくつかの表現を見ることしかできなかった。しかも、もし観察者が傲慢で偏見に満ちた色眼鏡をかけていたら、見えるものはさらに少なくなり、他人が露わにする顕著な特徴、例えば「臆病」といったものだけが目に入るため、人間の知性と人工知能を混同してしまうのだ。
人間の人格が完全に表出し、かつ相互に矛盾なく展開する状況が生まれたとしたら、その最たる例が盧安だ。盧安自身の人格は極めて複雑で、様々な感情状態が集合しており、それぞれの感情状態は理論上あらゆる方向に発展しうるが、限られた現実の時間軸の中でしか自己を表現しない。
人工知能の感情と人格は、結局のところ限られた感情プログラムの組み合わせに過ぎないが、人間の感情と人格は、様々で細やかな心理状態の有機的な組み合わせである。だから、感情を専門に扱うモジュールがあれば、人工知能は人間よりも安定しており、数万年もの間、大きなミスを起こさないのは普通のことだ。しかし、人間にはそれができない。これらの移民船が巨大な生態区画、いわゆる蘿拉ーワールドを設置したのは、豪華な装備のためではなく、遠い昔、地球上で長期の冬眠が大規模な記憶喪失を引き起こす現象を確認していたからだ。この点は、寝るだけでも実感できる。前日に覚えた英単語が、翌日起きると忘れてしまうのだから。この次元の人類文明は、冬眠が長ければ長いほど、記憶の喪失がより深刻になることを発見した。人間の脳内で記憶を補助するタンパク質は、長い時間の経過とともに必ず変化するため、記憶の喪失は冬眠におけるほぼ不可避な悪しき副作用なのだ。
この副作用を解決するために、人類はより安定した記憶装置で記憶を補助することを考えた。そうすれば、脳の記憶が失われて頭を悩ませることもなくなる。
しかしながら、記憶装置で脳の記憶を補助するようになると、新たな問題が発生した。
長期の冬眠では、脳内の記憶情報だけでなく、別のもの——記憶の可変性も失われる。使用者たちの実感によれば、同じ情報、例えば「居住可能な惑星」という記憶が、無機チップに記録されると単なる「居住可能な惑星」だが、脳の細胞に記録された場合、その「居住可能な惑星の記憶」は「美しい」「綺麗だ」「我がものにしたい」……といった、何かをしようとする多様な意識感覚を生み出す。記憶が大量に無機チップに記録されると、これらの情報に対する主観的な感覚がなくなり、すべて客観的な態度でこれらの情報を見ることになる。
そのため、すべての宇宙船の記憶容器には、一見計算能力に影響を与えるように見えても、不可欠な脳組織が多く混入している。しかし、たとえそのようなチップを作り、移民たちが活動するための巨大な蘿拉ーワールドを建設したとしても、長い航行時間の中で、船内の人間の記憶に存続する主観的能動性現象は依然として徐々に弱まっていく。
そして高次元からこれらの時間束を見ると、位相面における意識が引き起こす時間の差異現象はますます弱まっている。これが時空傭兵や演変将校が派遣される理由である。そして盧安が今回派遣された後の行動は、高次元存在から見て非常に有能である。各船内の意識群は船内の未来を大きく改変し、時間における多くの可能性を発展させた。
盧安自身にとって、彼の身に契る時空結晶は、今かつてないほどの時空エネルギーを吸収している。盧安の主意識が位置する予演総量は、既に極めて驚異的な段階に達している。巨視的に見れば、盧安の高次元構造はこの空虚な宇宙の中で驚くべき物理現象を呈している。
盧安の主意識が狂気に陥らなかったのは、主意識が宿る記憶チップに視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚が存在しないからだ。これらの感覚がなければ、時間が繰り返されていることを察知できない。唯一の感覚は、各宇宙船の自己意識群からの情報フィードバックである。
大量の電子、さらには原子核が、盧安の主意識が存在する記憶容器の中で大量に折りたたまれ、情報を展開している。この予演に基づく投射によって生じる激しい現象は、マクロ的に見れば時間が加速されていることを意味し、思考容器内の炭素14が異常な速度で崩壊している。そしてこれこそが、シャトル内で盧安の記憶容器が微光を放つ理由である。
そして現在、発光の範囲は盧安の思考器官からシャトル全体へと拡大し、シャトル全体の時間も猛烈に経過している——これは予演の総量が大幅に増加した結果である。船内の人工知能は、原子時計の記録による四日前に、盧安の主意識が伝達する膨大な情報を解析できなくなったため待機状態に入り、操作権限を盧安に委譲しており、その結果、知能システム全体がただ黙々と時間を刻み続けている。
タイマーの計算によれば、十六日以内に往還艇のエネルギーは使い果たされるはずだった。しかし、全エネルギーシステム内で、バッテリー内のエネルギーが絶え間なく周期的に電力を回復していた。そのため、宇宙船全体はタイマーが予測した時間内に解体しなかった。
時間の本質は物質の変化であり、予演によって生じた時間ループ現象は、未曽有の膨大な予演総量によって影響範囲を拡大した。これは盧安がクラスター化した際に自らの制御を失って現れた超能力暴走現象の本質と同じである(詳細は0094章と0095章を参照)。
そして盧安もまた、これまで自分を悩ませ続けてきた高次元断片が一体何であるのかを、おおまかに意識するようになった。
高次元の欠片、この名前は聞くと小さなアクセ莎莉のように感じられる。高次元の存在たちがそう呼ぶことで、低次元の人々は錯覚しやすく、これをある次元面上の文明が作り出したハイテクだと思い込んでしまう。まるで原始人が、衛星はあるハイテクな村落が作り出した高級品だと思うようなものだ。実際には、衛星の部品は惑星全体のさまざまな材料産地から産出された材料に由来する可能性があり、決して原始人の考え方の中の、村という小さな概念で作れるものではない。そして高次元の欠片は、当然、高次元で製造されたものである。
すべての最後の一歩を踏み出した高等文明は、宇宙の物理状態を広範囲にわたって測定する。そして、より高次元の物理構造に踏み込むと、次元生命の視点での空間概念の制約も受けなくなる。これらの高等文明の最終的な個体は、ある種の産物を作り出す。高次元の“断片”、あるいは時空の結晶がその一つであり、もちろん、一つの星に閉じこもって弄り回したものではない。
その高次元物体の像は、宇宙全体にその範囲が及んでいる。像の空間は予演の時間長さ光年であり、時間長さも予演の時間長さであるが、宇宙の物質と反応することはない。そして、高次元断片のトレーサーとなるのは、当然、盧安の意識の思考である。
放射線現象自体は見ることも触れることもできないが、放射線は特定の物質と反応する。放射線を直感的に見るために、人々はトレーサーを使用する。物理学者が放射線を見たいと思ったとき、最初は霧箱を使って観察した。肉眼では放射線を見ることができないが、霧箱の中には過飽和エタノール蒸気が満ちている。放射線が通過するとき、雲霧の凝結が起こる。こうすることで、放射線を見ることができる。ここでの過飽和エタノール蒸気がトレーサーである。
感知できないものは、存在しないわけではなく、ただその引き起こす現象を観察できないだけである。その事物が何らかの可視物質と反応できれば、その現象が存在することを確認できる。例えば、福島原子力発電所地域では、日差しが明るく放射線は見えないが、ガイガーカウンターがそこに入ると、ブザー音が鳴る。これが可視的な物理現象である。
今、盧安は“蜂鸣”している。
盧安の意識思考と時空結晶の反応は、次元上の他の誰にも観測できない。どの時間軸の盧安であれ、他人に自分の脳を切り開かせ、脳内粒子の跳躍現象を観察させることはない。したがって、盧安こそが時空結晶の唯一の感受者である。
この次元において、今シャトル内で起きていることは観測可能である。しかし、各宇宙船の人工知能は互いに遠く離れており、また宇宙船上の人類の意識はすべて睡眠状態にあるため、唯一の感受者はやはり盧安である。
時間の増加は、いかなる意識にとっても灼熱の負荷となる。それは弱い意識の消滅を加速させる一方で、強靭な意志に自身の成し遂げたいすべてを達成させる推進力ともなり得る。
盧安の主意識が超能力を制御し、長い時間をかけて、宇宙船の表面に感光システムを組み立て、この構造を目と名付けることができる。この新たに形成された「目」を利用して、盧安は、周囲が宇宙放射線背景のような静止した画面であるのを見た。
プリビジュアリゼーションが盧安にもたらす知覚では、宇宙空間のすべてが静止している。
盧安の主意識は思った。「私はあるドキュメンタリーを覚えている、《宇宙の神秘》の末尾に、十分な時間さえあれば、一粒のほこりも生命へと進化できると言っていた。以前は理解できなかったが、今はわかった。」
盧安の知覚では、一部の陽子や中性子、これら宇宙の大部分の情報体において、非常に小さな情報を担う単位としての物質が、崩壊を加速させている。
“一生二、二生三、三生万物(「一から二が生じ、二から三が生じ、三から万物が生じる」)……”一粒の塵の基礎情報は有限であるが、その塵の基礎情報が永久的に固定されているわけではない。
宇宙船内の人工知能が完全に休止した後、もともと眠っていた盧安の抜け殻が「ゆっくりと」目を開けた。この「盧安」は目を開けると、シャトル艇内の幻想的な時間加速の光景を見て、ゆっくりと生命維持カプシェルから漂い出た。
肉体は虚ろで無き物のように漂い出て、生命維持カプシェルの蓋はまるで幻のようだった。「盧安」は宇宙船を漂い出て、宇宙空間で静かに現在自分がいるシャトル艇を見つめ、さらに遠くの宇宙空間に浮かぶシリンダー状の宇宙船へと視線を移した。
この盧安は盧安の最新の分意識である。「私(分意識)の視点から見ると、時間は依然として切迫している。私(主意識)が第一ラウンドの物質交換を主導する際、第三ラウンドの意識投入を同時に行う必要がある。」




