0002 あなたに災いなく健やかであるように
孟位の新しい体は、特殊な時間軸に存在していた。
同じなのは人類のいる次元であること、違うのはこの時間軸上の1915年に、時空の異常点がこの世界に現れたことだ。
この時空異常点は時間線の上流と下流に跨っている。上流の時間線はまさに孟位がいる元の時間線であり、下流の時間線はこの世界の人にとってすでに未来となっている。元の時間線の未来からのタイムトラベラーはすでに西暦1964年に秘密を持って去った。
この秘密を知る者は歴史の重要な撹乱者である。その撹乱により、この特殊な時空異常点が跨る下流の時間線に巨大な差異が生じ、巨大な分岐が生じた。そのため、時空異常点はここで断じる。
この時空異常点が世界から直接消えたと言うのは、厳密には適切ではありません。なぜなら、それは当時の科学技術水準では観測できなかっただけであり、そのため当時の未来から来たタイムトラベラーは、この時空異常点が消えたと思ったのです。193x年、もし地球軌道上に非常に高性能な宇宙衛星があれば、地球に対して相対的なごく小さな領域で、原子時計が乱れた反応を示しているのを発見できたでしょう。つまり、この時空異常点は、一滴の墨が海水中で拡散して一面になるように、広大な場へと拡散したのです。
それから二十年後、この場は再び拡散し、ついには地球全体を覆いました。場の中心は地核と一致し、この場は特殊な波長で地球の引力圏内を振動しています。
1975年、大型ハドロン衝突型加速器の建設完了に伴い、物理理論によって地球の特殊性が検証され、以前予言されていた複数の基本粒子が確認されました。これにより物理学は完全なものとなりました。
1985年、超能力現象が科学的に解明された。初期の発見によると、これは特殊粒子が人間によってかく乱されることで集積し引き起こされる現象である。しかし、宇宙望遠鏡は地球周辺の宇宙空間でこれらの特殊粒子を発見しておらず、地球にのみ存在するように見える。では問題だ、なぜこれらの特殊粒子は地球でのみ発生するのか?
残念ながら、この問題の答えは永遠に分からないかもしれない。時が膨大な情報を歴史の長河に埋もれさせてしまったのだ。
盧安、これが孟位のこの世界での身分であり、今は2034年、彼は13歳、もうすぐ14歳になる。
盧安はある退屈な問題に悩んでいる。戦争時代の普通の家庭と平和時代の問題を抱えた家庭、どちらがより悲劇的か?
第三者的な視点から見れば、平和な時代の問題を抱える家庭の方がより悲劇的であるはずだ。なぜなら、そうした家庭の未成年者は愛を受けたことが一度もないからだ。
盧安が今この問題に戸惑っている理由の一つは、彼が孤児院で育ったからだ。孤児院全体で、ほとんどが自閉症の問題を抱える子供たちで、聡明だったり見た目が良かったりする孤児は、送られてくるとすぐに養子として引き取られていき、戻ってきた時には基本的に人が変わったようになり、より明るく快活になっていた。
幼少期において、人格形成や人格塑造の過程には必ず大人の関与が必要であり、そうでなければ完全な人格はありえない。盧安の場合は? 彼にはもともと孟位という大人の完全な人格があり、人格不全という悲劇を免れている。
しかし、盧安には依然として彼自身の悩みがある。
「自分だけ助かればそれでいい」と盧安は心の中で思ったが、目の前の少婦には人懐っこい笑顔を見せた。
この少婦も同じく優しい笑顔を浮かべていたが、盧安のその笑顔を見た瞬間、彼女は拳をわずかに握りしめた。
盧安を前にして、この少婦は頭を悩ませていた。かなり手を焼いていたのだ。
この少婦は夫の姓を名乗ってバンといい、ある生徒の保護者だった。この班女士は、息子がやらかした後始末をするために来ていた。
通常の状況では、保護者は自分の子供が他の子供とトラブルになったとき、自分の子供が怪我をしていなければ平然と振る舞い、「男らしいライオン性を育てる」という教育法を誇りにさえ思うものです。しかし、「小さなライオン」が「キングコブラ」に遭遇した場合、こうしたライオン王を育てたい保護者は冷静ではいられません。特に、その「キングコブラ」がどうしても捕まえられない場合には。
盧安がこの問題に困惑している第二の理由は、彼が問題を抱える家庭に遭遇したからだ。
これは学校内暴力事件がきっかけで起きた争いだ。数か月前、盧安はカツアゲに遭った。7〜8人の男の子を相手に、同じく男の子である盧安は袋叩きにされた。カツアゲの主犯格は班山嶺という名で、非常にがっしりとした少年だった。仕返しするにしても?今の盧安の実力では、あれだけの人数にはとても敵わない。
幸い、盧安は大人であり、大人としての考え方がある。13歳の体では暴力で解決できないなら、別の方法を取る。
校内暴力を止めることができる唯一の存在は、加害者の親である。しかし、子供にライオンのような気質を養うべきだと考える親が、なぜ自分の子供の暴力を叱るというのか?だから、そういった親にその理由を分からせる必要がある。
盧安はバン家の電話帳を調べ、夕方の放課後に彼の家の売店に行き、二言三言で彼の両親の状況を聞き出した。
その夜、盧安は塩水を満たした風船を使い、バン家の団地の配電ボックスをショートさせて壊した。監視カメラの信号が切れたことを確認すると、盧安はバン家の車庫に行き、レンガで一台一台、バン家の車の窓を粉々に叩き割り、塗装もめちゃくちゃに傷つけた。盧安はさらに警告文を残した。「お宅のヤクザな息子をちゃんと管理しろ、さもないと、どこかの病院の注射針がいつ刺さるかわからないぞ。」警告文の末尾には、エイズを象徴する赤いリボンが描かれていた。
そう、これほど暴力的な警告なのだ。相手の家族がどれほど緊張しようと?ふん、盧安はそんなこと構わない。自分が怪我をさせられても、相手の家族が緊張してくれるわけではないのだから。
班家が警察に通報し、班山嶺は直接休学した。そして彼の父親は二人の警察官を連れて学校にやってきた。
一連の脅しと写真撮影の流れ作業で、普通の子供なら泣き出し、素直に白状するだろう。しかし、盧安は普通の子供ではない。盧安はその三人の男について階段の入り口まで行くと、突然わざと足を滑らせ、階段から転げ落ちた。盧安は、歯を折らずに顔中に痣を作り腫れ上がらせるべく、意識的に転がり落ちた。起き上がると真っ先に、ポケットから数枚のコインを取り出し、学校の廊下にある公衆電話に押し込み、指で素早く番号を連打して、あるメディアの電話をかけた。三人の男が呆然と見つめる中、盧安は自らが最も悲惨だと思う子供の声で泣きじゃくった。「記者のおじさん、警察が学校に来て人を殴ってる……」
二人の警官は慌てて階段を駆け下り、電話をひったくって切った。その後、この警官たちは険しい形相を浮かべ、「子供のくせに、嘘をついてデマを流すな」と脅した。
しかし、盧安は更に激しく泣き出し、泣きながらも断固として言い張った。「あなたたちは僕を殴った、理不尽に僕を殴ったんだ。警察に通報する、いや、記者のおじさんに会いに行くんだ……」そう言うと、盧安は電話を奪い返そうとした。
電話の取り合いになると、どうしても揉み合いになる。揉み合っている最中に、盧安はまた転倒し、再び階段を転げ落ちた。苦肉の策は最後までやり通さねばならない。苦労を重ねてこそ、人は成長できるのだ。
電話は効果がなかったが、学校の塀の隅にある監視カメラが全てを記録しており、それが何者かによって格好のニュース素材としてネット上にアップされた。その後、記者が二人の警察官を取材した際、彼らの表情はまるで糞でも食わされたかのようだった。
『未成年者保護法』と『少数民族優遇条例』は、かなりの威力を持つ特権である。しかし、青少年はこれらの特権をどう使ってごね得をすればいいのか分かっていない。『未成年者保護法』に基づけば、十分な証拠の連鎖がない限り、未成年者を有罪にすることはできない。そして、このような些細で、しかも未遂に終わった行為は、証拠を見つけるのが難しく、さらに盧安は現在孤児であり、社会的弱者である。もし記者に何か問われても、厳密な証拠がなければ、関連する公安機関が罪を認定しようものなら、必ず世論によって叩かれまくる。世の中のあらゆる公共機関はイメージを重視するものであり、少なくとも公衆の前ではイメージを気にしなければならないのだ。
しかし、謎の力が世論を抑え込み、加害者たちは学校の処分だけを受け、事態が大きくならなかった。これは盧安が予期していなかった謎の力で、班家にこれほどの力があるはずはないからだ。
班女士はすでに息子の転校手続きを済ませており、同時に盧安の復讐心を打ち消そうとしていた。
「お嬢ちゃん、うちの息子があなたに与えた傷は確かに悪かったわ。お互いに一歩譲って、後で彼に謝らせるから、あなたもこれ以上おばさんを怖がらせないでくれる?あの夜の駐車場で、おばさんは監視カメラで見たのよ、あなただったわね。あなたが悪いと言っているわけじゃないの、みんな間違っているのよ、そうでしょ?」このおばさんは非常に親切そうに言った。
普通の子供なら、このようなおだてるような口調に乗せられて、つい口を滑らせてしまうものだ。すると、これらの親たちはひどく寛大な態度でそれを認め、高みの見物を決め込んで、相手を見逃してやったように振る舞うのだ。
しかし盧安は非常に冷静だった。絶対に認めてはならない、歯を食いしばってでも認めてはならない!思い返せば、前世の若かりし頃、何度か口を滑らせては大人の小細工にはめられたものだ。一度痛い目に遭えば賢くなる。だから、どうしても必要な時以外は嘘をつかず、嘘をつく前にはじっくりと考えることを学んだのだ。
この重大な件は自分が引き起こしてしまった以上、もう後戻りはできない。相手は非常にうまく言っているが、たとえ彼女が認めたとしても、せいぜい自分の監督不行き届きを確認する程度で、もし自分が認めれば、自身の邪悪さを暴くことになる。盧安は断言する、この女性はきっと録音ペンを持っているに違いない。彼女のその言葉は、歩兵を使って飛車を取るような駒の交換に過ぎない。
社会はなんと険悪なものか。孟位の処世術は、普段は善良さをもって人々に接し、小さな損は気にせず、過ごせるなら過ごせばいい、意地を張り合う必要はないというものだ。しかし、一度こちらが手段を選ばないと決めたなら、代償と損得を計算し尽くした上で、自身のすべての善良さを押し殺さねばならない。
戦争を経験した孟位から見れば、もし人類のあらゆることが一歩引けるなら、世界に戦争は存在しないはずだ。
だから、盧安は非常に憤慨した表情で、脅迫行為を行ったことを否定し、身体のあざを見せながら言った。「あなたは自分の子をこんな風にしつけるのか?それに、彼が私に与えた傷はこれほど深刻なんだ!」
この段階で、ここまでだった。盧安は班女士の限界がどこにあるかをはっきりと知っていた。相手は母親であり、限界は自分の子どもを守ることだ。盧安はまた自分の目的も知っていた。自分は甘い汁を吸うタイプではなく、ただ安全な環境を求め、放課後の道端でしつけのなっていない連中に待ち伏せされたくないだけだ。今、自分が優勢なのは、ただ相手が自分の限界を破らないようにしているからに過ぎない。
その後、盧安は自分の条件を提示した。この班女士は驚き、それから笑いながら言った。「どうやら、あなたはとても勉強熱心な子のようね。」
六千元の文具費と中学校時代全体のAランクの食事代、これが盧安の要求条件だ。盧安はこの家庭を調査済みで、この程度の金など何でもない。
盧安は言った。「我々、元々接点などあるべきではなかったんです。おばさん、クラスメートに苛められているのは決して私一人じゃない。もしあなたがもう少し早く気付いてくれていたら、こんな事にはならなかった。もちろん、あなたは気を遣う必要などないと考え、クラスメートの周りには揉まれても決して手を返さない柔な性格の連中ばかりだと思っていたのでしょう。時に悲劇とは、何の前触れもなく訪れるものです。あなたの車を傷つけた犯人、本当に私は知りません。ですが、結果には必ず原因があり、その原因は外ではなく、時に自分自身の中にあるのです。あなたのご家庭に災いなく平穏であることを、心から願っています。」
班夫人は一瞬呆然とした後、頷いて言った。「助言ありがとう、よく分かったわ。」




