0358 佳節の寂しさ
2036年の春節、東方文化圏全体が辰年の到来を迎えている。
国際的大都市である上海は、地面一面に爆竹の燃え殻こそないものの、春節独特の雰囲気に包まれている。各ショーウィンドウには赤い切り絵の龍が貼られ、通りには赤い提灯がずらりと吊るされ、新年のヒットソングのMVが広告スクリーンに何度も流されている。地面に爆竹はないが、空では祝砲による硝煙があちこちに漂っている。街の明かりがきらめくビル群は、海辺にいる人々の目に、華やかな都市背景画のように映る。
ひっそりとした海辺に、夏星瑞は佇んでいた。彼女の後方五十メートルには、黒いBMWのスポーツカーが停まっている。ぱっと見ると、まるで祝祭の時期に静かな場所で潮風を楽しむどこかのお嬢様のようだ。夏星瑞はワイングラスを手に、中の果実酒をちびりちびりと口に含んでいる。
突然、彼女は視線を凝らし、カップを脇に置いた。口に入れたばかりの酒が、唾を吐くように「呸」と吐き出された。彼女の視線の先で、空間門が開いた。
淺空明子がちょうど出てきたところで、夏星瑞はUSBメモリを投げ渡した。淺空はそのUSBメモリを受け取り、それから、自分の持っていたレディースバッグから携帯情報端末を取り出して内容を確認し、指で軽くタップして空間門を展開し、ハードディスクを送り、そして言った。「最近、蛇部陸軍と猿部(東南アジア)犼部(南洋)の往来が密で、何らかの動きがあると予想される。ここ数カ月、あなた方西部の白銀超能力者が目立ち過ぎて、世界中の超能力勢力の興味を引き起こしている。」
夏星瑞は尋ねた。「あなた方はそれに関与しているのですか?」
淺空が顔を上げ、空を見上げた。淺空の視線の先、空に打ち上げられた礼砲が一発、華やかな花火を咲かせた。
空の礼砲を眺めながら、淺空はまだ物足りなさそうに言った。「関与する?愚かな策略を眺めるのは、私の数少ない楽しみの一つだ、なぜわざわざそれを壊す必要がある?」
夏星瑞はハードディスクをしまった。「君が関与していないならそれでいい。」
夏星瑞が振り返ろうとしたとき、淺空は注意を促した。「今回は私が興味を引くような情報を持ってきてくれてはいないね。」
夏星瑞は少し言葉を区切ってから、言った。「天の数プロジェクトはまだ維持されているが、すべての調査は安全条例によって制限されている。君に渡した資料には、あの時の四百以上の屋外機器が全滅した事故記録も入っていたはずだ。」
夏星瑞は微笑む淺空を見つめ、真剣に言った。「君が探しているあの人はとても恐ろしい。関連文書で見たが、記録ではこれは五級超能現象だが、接尾辞には戦略級が付け加えられていた。」
淺空はうなずいた。「君はこれだけしか調査できなかったんだね。」
夏星瑞は冷ややかに笑って言った。「そうだ、だからどうした。」
「シュッ」と一瞬で、淺空は彼女のそばに瞬時に移動し、夏星瑞の耳たぶのそばで小声で言った。「ありがとう。」
再び「シュッ」と一瞬で、淺空は消えた。
夏星瑞は周囲を見回し、今になって驚きで激しく鼓動する心臓を感じた。しばらくして、夏星瑞は罵った。「くそ、この狂人が。」
この世界の新年は、盧安にとっては居心地の悪い日だった。なぜなら、その日は賑やかで、人と人とが笑顔を絶やしてはいけない日だからだ。地球の二十二世紀の平和な時代、衣食住の物資は、普段の日々で十分に満たされていた。普段の日々、人々はこのような雰囲気を無理に維持しようとはしない。
この世界でたった一人で十六年生きてきて、今はこの大都市で一人暮らしをしている盧安は、自分が賑やかであるかのように装うしかなかった。ドアにカーテンを飾り、家で肉を煮込み、十六品もの大晦日の料理を作ったのだ。
普段は盧安の予行演習に多くの時間を割いていた各研究グループも、今は活動を停止し、学生も教授も家に帰っていた。キャンパス全体はがらんとしており、普段は盧安が毎日彼らと接触していたが、彼らはそれを知らない。そして今、彼らは皆、家に帰って家族と一緒に過ごし、社会活動を放棄している。
突然に皆との接触を失い、それはまるで全世界に見捨てられたような感覚だった。盧安は理解している、世界が自分を見捨てたのではなく、この世界のすべての人々が正月の時期に、自分にとって最も大切な人と共に過ごしているのだと。これこそが、盧安が強大な予演能力を持ちながら、この世界に対して抱いている感覚なのだ。
強大な天數の求めるものが一体何なのか、龍部の統帥には理解できなかった。盧安に抑え込まれたことのある超能者たちも、盧安が一体何をしようとしているのか、まったく考えが及ばなかった。実のところ、盧安の求めは安価なものでもあり、同時に非常に高価なものでもある。人間は社会性を持つ生物であり、その点は盧安において顕著に表れている。
気がつくと、盧安は意識で元一空間に入り込んでいた。
その時の元一空間の中は、いつもと変わらぬ雰囲気だった。時空傭兵たちがそれぞれ異なる時間にいるため、彼らのところではまだ年越しを迎えておらず、空間全体は普段通り賑やかだった。
盧安はすぐに知り合いに会った。新平絲は盧安を見て、すぐに挨拶し、「最近どこに行ってたの?全然見かけなかったけど」と尋ねた。
盧安はへらへら笑いながら言った。「前回の任務が終わった後、元一は特別に私が二年間は任務に出なくてもいいと許可したんだ。」
新平絲は盧安をちらりと見て、それから尋ねた。「君は前の任務で何をしたんだ?」
盧安は笑って首を振った。
新平絲は納得した表情を浮かべて言った。「じゃあ、今は何か任務をやろうとは思わないのか?」
盧安は元一光幕を開くと、元一光幕にメッセージが表示された。「初代穿越システムは依然としてあなたを捜索しており、あなたの特徴はまだ明らかです。もし他の位面で捕捉されることを心配しないなら、私も今すぐあなたに任務を割り当てることをいといません。」
盧安は新平絲に首を振って言った。「最近は無理だ。元一がメインワールドでくれたボーナスタイムを、まだ使い切っていないんだ。」
新平絲はため息をついて言った。「後期に休暇を取っていればよかったのに。前期のこの時期は、各任務に功績ポイントが全く必要なくて、直接入れるんだ。これこそ黄金期なのに。」
盧安は心の中で密かに思った。「元一がこんなミスをするはずがない。彼のやり方はひたすら落とし穴を掘ることだからな…」しかし笑顔を見せて言った。「ここに来たのは、納諾團が一部の資料庫を開放してくれないか尋ねるためだ。」
新平絲は盧安を見て言った。「よし、ついて来てくれ。そうだ、どの資料庫が欲しいんだ?うちにはあらゆる種類の力の体系について完璧な記述がある。」
盧安は言った。「科学技術系のものを頼む。」
新平絲は盧安を見て言った。「君は知能を上げるつもりか?まあ、言わなくていい。各人の発展方向を他人に明かす必要はないからな。」
盧安はうなずいた。
新平絲は続けて自分勝手に言った。「テクノロジーを時代別に分類すると、初期電子時代、核時代、ナノテクノロジー時代に分けられます。技術別には、材料製錬、高エネルギー化学物質の調製、情報保存技術、エネルギー施設の建設があります。」
盧安は尋ねた。「核技術はありますか?」
新平絲は笑って言った。「何?核爆弾ですべてを吹っ飛ばしたいの?最近何かイライラする出来事があったら、お姉さんに話してみなよ。」
盧安は首を振って言った。「いいえ、原発の技術と、使用済み燃料棒の再処理技術が欲しいのです。」
原子力発電所と核爆弾では技術的な重点が異なる。核爆弾の技術的重点は、高濃度の核物質を極めて短時間で精密に衝突させ反応させることにあるが、原子力発電所の技術的重点は、さまざまな機械設備が高放射線環境下で安定的に稼働することにある。民生用機械の防護基準が不十分だと、使用しているうちに高放射線環境下でゴミの山と化し、各種チップが誤作動したり、焼損したりする。原子力発電所の核燃料が生み出す高放射線環境は、生命や大部分の機械が長時間稼働できないことを決定づけている。
核材料を処理するにあたり、盧安には天与の優位性がある――それは無阻超エネルギーが高放射線環境下で安定していることだ。21世紀において、核材料の処理コストーーの大部分は防護コストーーである。原子炉には厚い鉛層を建設しなければならず、人員には厳重な防護が必要で、各種設備の気密性と安定性は厳しい基準に達しなければならない。たとえロボットに操作させても、電子部品は大量の放射線に耐えられず、直接機能不全に陥る。一方、盧安の集積気泡演算システムの演算能力は電子部品に及ばないが、非常に安定している点で勝っている。
盧安が現在自らの体系に供給している電力は、地網が河面や海面に接続して導く運動エネルギー、プラスチックごみの焼却による電力、そして時には盗電によってまかなわれている。
地球22世紀の電力は制御核融合から来ている。ある人は、地球22世紀からの来客である盧安がゴミを燃焼して電力を得るのは、地球21世紀の人類が水車で動力を得るのと同じくらい低級ではないかと考える。しかし、もし地球21世紀の人類が過去に戻ったなら、視線は蒸気機関に定まり、蒸気機関こそが王道だと考えるだろう。
火力発電所は、燃料を絶えず供給しなければ発動できない。それに対して、核分裂燃料棒が熱を放出してお湯を沸かす原子力発電所は、22世紀の人々の目にはずっと好ましく映る。燃料棒の危険性は非常に大きいが、管理が良好であれば、数十人で楽に管理できる一方、火力発電所は数千人を必要として稼働を保障しなければならない。
現在、盧安は地下に火力発電施設を有しているが、排気問題の解決が十分に進んでおらず、そのため稼働していないことがほとんどだ。もし街中の下水道から煙が上がれば、盧安の地下生産システムの露見リスクが生じる。したがって、現時点では発電所建設の象徴的な意味合いが実用性を上回っている。おそらく破滅の日にのみ、堂々と発電できるだろう。また、地網によって河川や海から導かれる運動エネルギーによる水力発電と、天網(世界ネット)によって大気圏から導かれる運動エネルギーによる風力発電の総出力は、超能力の総量に制限されており、将来の開発計画を満たすことは到底できない。原子力発電に切り替えれば、はるかに容易になるだろう。どうやって使用済み燃料棒と金属ジルコニウムを手に入れるかについて、盧安は将来手に入ると信じており、この問題を考える彼の感情的な状態はいつも「盗む」という言葉から離れなかった。この世界では、原子力発電所で使用された使用済み燃料棒は通常地下500メートル以下の場所に保管されており、盧安は今のところ見つけていないが、それは将来見つけられないという意味ではない。
ただ、メインワールドで暇を持て余し少し寂しさを感じている盧安の今の考えはやや大胆だ。おそらくこの佳節に誰とも交流がなく、誰も自分のことを考えてくれないため、盧安は自分自身のことを過剰に考え、自分のある種の考慮が外界に与える影響を無視しているのだ。
盧安はエネルギー問題の解決に一心不乱で、他の問題を考えなかったわけではない。普段なら、冷静な感情状態の盧安は慎重に考慮し、自分の考えを抑えるだろう。例えば、地下に設置した原子力発電所が漏洩して地下水と接触し、高圧爆発が起きて、放射性蒸気が地表に漏れ出すなど、一連の深刻な問題を考えるはずだ。
新平絲は盧安に注意を促して言った。「お前が必要な技術は、最低でも40万功勲ポイントだ。準備はできているのか?」
盧安はうなずいて言った。「今のところは足りている。」
新平絲はため息をついて言った。「なるほど、お前は本当に金に困っていないんだな。」




