0174 脱出
盧安は孫抗が事を起こすのを座視することはできなかった。物語がさらに前進し始めたからだ。
今日の朝食後、全員が集合し、列を作って大広間に立っていた。するとガーナーの投影が現れ、心を揺さぶる演説を始めた。演説のテーマは戦争に参加して栄誉を得るというものだった。
ガーナーの投影が眉をひそめて熱弁をふるうのを見て、盧安のある第二層プレ演算が思わずガーナーに中指を突き立てたが、すぐに盧安はガーナーが指示したロボットに引きずられて連行された。これにより、この第二層プレ演算は終了した。このプレ演算は他の情動態から無駄なシミュレーションと見なされ、余計な感情を発散せずにおとなしくストーリーを見るように戒められた。
これは盧安の戦争に対する態度を示している。前世の平和な時代にリアルタイムストーーラテジーゲームをしていたとき、孟位は中二病のように「諸君、私は戦争が好きだ」と叫んでいたが、今では、盧安は戦争を見ると逃げ出したくなる。主世界でも今の世界でも、結局は前世の思想教育が成功しすぎたのだ。盧安はこの崩壊しつつある世界に対して全く無関心だ。ガーナーがカルト教祖のように噬魂組のメンバーに戦いの意義を説いているとき、盧安は様々な悪ふざけの気持ちで並行しており、ガーナーをピエロと見なし、周囲の雰囲気にまったく染まっていない。
しかしすぐに、盧安は世を拗ねた態度を取れなくなった。なぜなら、自分が睡眠ポッドに横たわり、別の意識を電磁アバターに移して戦場に向かわせなければならなかったからだ。この展開は完全に盧安の予想外だった。しかも、主人公の物語が最終的にどこへ向かうのか、盧安にはまったくわからず、主人公がいまにも人格分離に直面することだけを知っていた。
電磁アバターが予行演習で本体との情報接続が不可能になると、その意識は完全に分離し、異なる経験に基づいて新たな記憶を始める。本体は基地に留まり、電磁アバター内の意識は航空機で戦域に到着し、指揮官の命令で戦場に投入される。この時、電磁アバター内の意識が何を経験し、どのような変化を遂げるのか、盧安は非常に不安だった。
盧安はこれまでにないほど自分を疑ったことがあった。「私は臆病で、傲慢で、短気で、嫌な欠点はすべて備えている。はあ、本当に巨大な誘惑に遭い、厳しい拷問を受け、傲慢な土壌で芽生えたら、私は一体どんな選択をするのだろうか?」
すでに寝台に横たわっている盧安は、予演を通じて寝台の外にある自分の噬魂体——電磁分身の強化版を覗き見た。噬魂体が入った箱が機械の台車で運び去られるのを見て、盧安は自分の一部が失われたことを完全に感じた。
本体が自分を見つめる中、電磁身代わりの盧安も本体を見つめている。噬魂体が完全にロボットに収束されると、二つの自分は接触する可能性が完全に絶たれ、二つの意識は互いの思考媒体に存在する他方の自分の考えを理解できなくなり、その時点で分離が始まった。本体の盧安は、ほんの一瞬前まで活動していた思考の一部を突然失ったのを感じ、一方、電磁身代わりの盧安は感情の重荷が消えたのを急に感じ取った。本体にあった様々な予行演習の下での心配や悩みは、二度と電磁身代わりに送り込まれることはなく、まるで一瞬にして憂いが断ち切られたかのようだった。
電磁身代わりは情報ボックスに収められ、電磁盧安は自分が突然別の世界に入り込んだのを感じた。自分の視界が突然、色彩豊かなピクシェルで構成された仮想世界に覆われたのだ。
この仮想世界では、空は青く、草地は明るい緑、花は芳しく、すべてがとても美しく見える。しかし電磁盧安の束の間の無憂は長く続かず、この美しい情報世界に没頭することもなかった。電磁盧安は再び複数の第二層予行演習を開始した。
電磁盧安は周囲の仮想世界が構築する低画素の世界を感じている。彼は黙って大樹のそばに座り、木陰の静けさを感じている。
この情報の世界では、枝は風に揺れるが、盧安は顔の熱が失われるのをわずかに感じるだけだ。風が頬を撫で、顔の産毛が揺れる感覚は、この世界の技術ではまだ模倣できない。流体の動きをシミュレートすることはコンピューターの計算能力を最も試すものであり、気流が吹き付けた後の乱流の変化が簡単にコンピューターでシミュレートできるなら、地球の21世紀のスーパーコンピューターはとっくに天気を正確に計算できただろうし、航空大国も風洞実験のために風洞を作る必要はなかったはずだ。
盧安はその後、周囲のあらゆるものをじっくりと触り、見つめ、聞きながら、心の中でそっと考えた。『偽りの世界だ』。
盧安がそう言うのには理由がある。盧安はあらゆる面からこの世界の偽りを感じ取っていた。まず花の香り、現実世界では一輪一輪の花の香りがすべて異なる。水分や光の加減で、同じ種類の花でも香りに濃淡がある。そして味、一枚の花びらを口に入れ、噛み砕く程度が違えば味の広がり方も異なる。ところがこの仮想世界では、これらの花びらが口に入ると入口で溶ける設定になっており、次に甘みの情報が口の中に広がる。視覚についていえば、現実世界で盧安が見ていたのは可能性の世界だった。葉っぱの落ちる可能性はさまざまで、自分が少し動くだけでも、かき乱された気流が葉っぱの軌道を変えてしまう。しかしこの仮想世界では、自分が触れさえしなければ、たとえすぐ横を猛スピードで走り抜けても、葉っぱの悠々たる落下軌道に影響を与えることはできない。
一見すると、この世界はとても面白い。しかし時間が経つにつれて、盧安は抑圧感を覚えた。これは可能性を欠いた世界だ。色とりどりで花が至るところに咲いているが、始まり、繁栄、衰退といったさまざまな状態が存在しない。すべてが単調なのだ。
しかし、電磁タイプの盧安が心の慰めとしたのは、孫抗を見失わなかったことだ。電磁の代替体を使って複雑な戦場で電子情報戦(盧安はそう理解している)を仕掛けるとき、孫抗もまた、この情報世界に一緒に現れなければならなかったのだ。
感知の違いにより、孫抗はこの電子世界に対して盧安ほど敏感ではなく、圧迫感も感じなかった。この仮想世界に直面すると、彼の脳は自動的に現実と一致するように処理し、視覚的な錯覚効果のように、普通の人の脳は不完全な情報を自動的に補完する。
孫抗はこの世界を見ると非常に好奇心を持った。これには盧安は不思議に思った。そして盧安が他の人々の反応が全て彼と同じであるのを見ると、盧安は一つの予演を分出し、思わず自分に問いかけた。「まさか私の問題なのか?」
盧安は慎重で猜疑的な感情の予演をいくつか派生させ始めた。大規模な予演を発動したとき、盧安は眼前のピクシェル世界に赤緑青の色の光点が次々と飛び交い始めるのを見た。それはまるでテレビの画面が乱れる前兆のようだった。孟位の記憶で言えば、まるでフルダイブヘッドセットでゲームをしているときに、突然ヘッドセットのレンダリングが追いつかなくなり、映像の重なりが発生したようなものだった。盧安は異なる予演の中で異なる動作をするうちに、次第に自分の予演の中のある動作が、この電磁世界に残り始めていることに気づいた。盧安は自分のそばにある残像を見つめて、ぼんやりとした。
視点をバーチャル世界から外界に引き戻そう。今、盧安の電磁分身は一本のガラス管に保存されており、そのガラス管の周囲には様々な素子が取り付けられ、電磁信号を送信して電磁盧安に流し込んでいる。これらの情報が組み合わさることで、現在見ている情報世界が構成されている。しかし、今この盧安の情報態感覚を制御するシステムがダウンした。このシステムが盧安の電磁分身と接続する際、その電磁分身の前一秒では盧安が走っていたのに、次の瞬間にはその場に座っている状態に変わっていた。ある信号では盧安が木を切っていると表示されていたが、その電気信号情報は瞬時に折り返し跳躍して消え、別の盧安が木に登っている情報に置き換わった。
このシステムはある状態の意識を処理する際に論理があるが、盧安の電磁分身では、さまざまな予行演習の情報が現実に投射され、各種の記憶や思考の電流信号として現れ、直接システムのこの世界の状況を処理する論理演算を乱してしまう。具体的に言うと、予行演習の各時間線における脳の活動の電気信号の中の電子が、現在の時間線に遷移して、それから電気信号を形成し、現在の考えを形成する。以前は、盧安の予行演習もせいぜい自分自身の脳内に他の時間線の自分の考えが現れるだけで、体外の物理的変化には影響しなかった。しかし今、この演算システムが直接盧安の電磁思考担体に接続した結果、電磁分身上で並列的に重ね合わさった電気信号が遷移した後にまた遷移し去る現象が、システムにどのように盧安に正しい情報をフィードバックすればいいか分からなくさせている。
盧安が予演の強度を上げると、電磁盧安がいる情報世界は直接画面が乱れ、電磁盧安はついに外界の様子を見ることができた。自分はガラス管の中にあり、周囲には多数の停止してエラーを報告する信号発信器がある。そして自分は孤独ではなく、自分の周りには多数のガラス管があり、各ガラス管には静かな電磁分身がいて、信号発信器が提供する情報を受け取っている。
倉体のほこり粒子の震えから、盧安はこれらのガラス管がすべて機倉内に保管されていることに気づいた。これらの電磁分身は戦場へ運ばれる途中である。
盧安の観察は長く続かず、すぐに周囲の電気信号処理システムが再び起動した。入力電気信号の信号発信器が再び盧安の電磁分身のコアに向けられた。レーザー光線が盧安の電磁分身のコア信号インターフェースに没入すると、優しい声が響いた。「システム障害で、お休みのところお邪魔しました。現在調整中で、同様の問題が起きないよう保証します」
この口調と言葉遣いは内容に誠意があることを示していない。平和地区の都市では、大半の電子ショップが人々にこのような仮想世界サービスを提供する際、このような故障が発生すると、非常に申し訳なさそうな口調で応対する。だから、これはただの汎用テンプレートに過ぎない。
周囲のピクシェル映像が再び鮮明になると、盧安はため息をつき、感慨深げに言った。「私にとって、これは檻のようなものだな」
これは盧安の考えであり、盧安は口に出さなかった。考えは電磁アバターのコア内で動作しており、一度口に出せば、それはこの世界への表現となり、言動の一つ一つがこの仮想世界に記録されアップロードされる。複数の時間線にわたる盧安の考えや表現、様々な情報が多すぎて、電磁盧安はつい先ほど情報世界が収容可能な範囲から抜け出した。
システムはこの故障の自己診断を行っている。盧安はどうしても何も表現してはならない。さもないとシステムに原因を突き止められると面倒なことになる。




