0113 腹の立つ
医療車の中で、劉宇は点滴をつけているやつれた少女を見て、少し驚いて言った。“誰が君をこんな風にしたんだ?”
夏星瑞は歯を食いしばって言った。“私の傷は大したことじゃない。劉宇、大変なことになった。”
“どうしたんだ?ゆっくり話してくれ。”同時に、劉宇は両手で夏星瑞の手を握った。
夏星瑞は顔をほんのり赤らめ、それから真顔で言った。「空間系の超能力者です。世界のデータを調べてみましたが、この人物は見当たりません。ということは、相手はどこかの組織が秘蔵している特殊な超能力者ということです。」
「空間系?」劉宇は思わず十数分前に街で出会ったあの少女を思い出し、顔にどうしようもなさそうな表情を浮かべて、小声で叫んだ。「そんな偶然があるわけないだろ。」
夏星瑞は劉宇が衝撃を受けているのだと思い、慌てて言った。「空間系の四級とい宇田けでなく、それに……」
「それに、何が?」
夏星瑞はため息をついて言った。「彼女と戦っているとき、もう一人、第三者がいたんです。」
夏星瑞はノートパソコンほどの大きさの箱を開けた。中にはコンテナから切り取った鋼板が入っていた。鋼板の中央には弾痕があり、その亀裂は、石を投げつけられて割れた窓ガラスの亀裂とまったく同じだった。
この二つの弾痕は、淺空明子に警告するために発射された二つの小石がコンテナの鋼板に当たってできたものだ。この親指大の二つの小石は夏星瑞と淺空の戦闘も中断させ、それは盧安が淺空に遭遇した際、現実で唯一発射した二発の実弾だった。無阻膜に包まれた二つの小石は、無阻膜が解除されると砂粒へと砕け散り、打ち抜かれたコンテナの鋼板はガラスのように割れた。
「弾丸?」と劉宇が尋ねた。
「弾丸じゃないよ。もし弾丸なら、弾痕の周りに大きな凹みができているはずだ。でもこれを見てごらん、これはまっすぐに貫通している、まるでウォータージェットが鋼板を突き抜けたみたいだ。これは絶対に超能力によるものだ。」夏星瑞は推測して言った。「おそらく速度系だろう。」
「敵か味方か?」
「わからない。とにかく、その二発の攻撃の後、交戦していたあの空間系の相手は手を止めて、消え去ったんだ。あの時の俺の状態は本当にひどくて、もしあの空間系超能力者が攻撃を続けていたら、君に会えなかったかもしれない。」夏星瑞はまだ恐怖を感じていた。
「そんなにひどくはないさ、これは……」劉宇は夏星瑞の一束の写真と、夏星瑞自身が描いた一枚のスケッチを見た——どれも地中から掘り出された大量の死体だった。
「今の情報は封鎖状態にある。」夏星瑞は言った。
劉宇はその写真と素描を奪い取り、「どうしてこんなことに……」とつぶやいた。
「そういうことだ。今や、虎部は最高警戒を発動している。」
夏星瑞が敗れ去ったことで、虎部上層部は大きな衝撃を受けた。淺空の破壊力は恐ろしいものだ。
その時、市内では、崇明区から派遣された別働隊の一団が車で街中を巡回していた。
しかし、彼らの警戒目標は既に去った後だった。大型旅客機が滑走路からゆっくりと離陸し、徐々に車輪を格納していく。
巨大な車輪格納部に一瞬のきらめきが生じ、淺空は格納されようとする車輪の上に立っていた。強風が彼女の長い髪とセーラー服を後方へとなびかせる。彼女は上海市を深く見つめ、意味ありげに「私はまた戻ってくる」と独り言を言った。
一方、盧安はジュースのボトルと大きな袋の紅焼き貝を持って泥鰍部門に戻ったとき、すでに動力鎧を着て待機していた武装集団を見た。リーダーは張天闕だった。彼は盧安が到着するのを見ると、すぐに歩み寄って言った。「盧安、やっと戻ったね。」
「どうした?」盧安が尋ねた。
「不明な侵入者が都市に入った、上層部から第一級警戒が発令された。」言い終えると、張天闕は電子身分証を盧安に渡して検証させた。それには第601号行動チームと書かれていた。盧安は予行用の検証コードで虎部署内のネットワークを照会し、この行動チームが存在し、しかも機密レベルが非常に高いことを確認した。
「それじゃ、君たちは忙しくしなくていいのか?」
「この121の重点警戒ポイントの中で、君は六番目だ。」
盧安は考え、理由を理解した。今では、龍部は盧安の超能等級が四級であることを知っているが、玄鳥と虎部の記録上では、盧安は依然として三級超能者であり、脆弱だが高い生産性を持つ財産とされている。盧安はこれらの部門にとって重要な財産であり、当然重点的に保護されるべきで、特に今回の侵入者が見せた空間系超能は、もう一人の四級を窮地に追い込んでいた。
理由を理解すると、盧安はこれらの人々の考えも把握した。素直に張天闕に従って安全区域へ向かおうとしたが、盧安は張天闕の背後にいる動力鎧を着た者たちに気づいた。盧安は考え直し、別の反応で対応することに決めた。盧安は、自分がどうやらかなり重視されているようだと感じた。
盧安は笑って言った、「つまり今から、虎部は何か口実をもうけて私の身柄の自由を制限し、私を管理可能な範囲に収容する必要があると考えているのかい?」
張天闕は呆然とした後、首を振って言った。「考えすぎだよ、それは…ゆっくり説明させてくれ。」
盧安は実験室に入りながら、淡々と尋ねた。「私を監視しているのはどの部署だ?」
「特別行動隊が担当しているのは君の安全であって、監視じゃない!」張天闕は語気を強めて、もう一度説明した。
「監視でないのなら、役職を与えてくれ」盧安は張天闕の背後にいる人物をちらりと見て、笑いながら言った。「私が重要な保護対象なら、私の安全を担当する班の班長を私がやるというのはどうだろう?」
張天闕はきょとんとして、「君がか?!」と言った。
盧安は笑って言った。「私を参加させてくれれば、当然、裏で何か企んでいるのではないかと疑う理由もなくなるだろう。」
「この部署の仕事は、君は……」張天闕は、その保護部署の仕事が非常に煩雑で、もし盧安がでたらめに指揮を執れば、混乱を招くかもしれないと言いたかった。
盧安は言った。「私はとても怠け者で、管理はしません。ただ見るだけです。具体的な仕事はやる気のある部下に任せます。うん、私は戦略を練り、第六号重要目標(盧安)の安全を確保する役目です。」
張天闕は呆然とした。なぜなら彼は同時に密かに盧安を監視するメンバーの一人だったからだ。盧安の考えは非常に奇抜で、盧安の考えによれば、盧安を保護する命令はまず盧安に渡され、それから盧安が任務を伝達する。こうなると、命令は二度伝達されることになる。
盧安はこの権利を獲得したい。単にメンバーを自分を守るために指名するだけではない。もし誰かに監視されていると感じたら、敵対組織が悪事を企んでいるとの理由で、その再編成された組織を逮捕・尋問することができる。組織を再編成すること自体が大きな混乱を引き起こしかねないからだ。
これが盧安の考え方だ。不快に監視されるよりも、むしろその中に加わってしまおうというものだ。以前なら盧安がこの要求を出しても受け入れられなかっただろうが、今や行動グループ全体が彼の協力を必要としているため、彼の要求は重視せざるを得ない。なぜなら、淺空の到来によって外部環境が変化したからだ。盧安はこの変化を捉えたのだ。
張天闕は今、非常に困惑している。これまでは、彼は盧安という素直でない子供を監視していただけだった。しかし、もし盧安の要求に応じれば、仕事の性質が盧安に仕えることに変わってしまう。
盧安にとって、身の回りには確実に密かに監視するハエがいる。この点は確かに変わらない。虎部の上層部は必ず盧安のコントロールを求めている。盧安はこれらの上層部の考えを変えられないが、下層が命令を実行するルールを自分に有利な方向に変えることができる。――監視は続くが、監視者は堂々と自分のそばに現れ、邪魔をせず、自分の命令に従わなければならない。
張天闕は逆に問う。「あなたは部門を管理する方法を知っていますか?」
「もちろん、分かっています。自分だけが忙しくてたまらない、なんてことは絶対にしませんから。ただ、人事部門と業績評価の両方をしっかり掌握します。一年の仕事が優れているか劣っているか、給与やボーナスが高いか低いか、私が総括的に処理します。そうすれば、みんな間違いなく一生懸命働くでしょう」と盧安は笑いながら言った。「もちろん、私はかなり民主的な人間ですから、もし私のやり方が悪ければ、上に報告してもらっても構いませんよ」盧安はふと、自分がまだリーダーという役職を経験したことがないことに気づき、一度試してみるべきだと思った。
張天闕は血を吐きたいような気分だった。上層部の連中が、下の人間の給料などといったどうでもいい些細な話を聞くはずがない。ただ、盧安が逃亡したいといった重大な話だけが上に報告されるのだ。人事任命やボーナス支給といった、部署の職員が気にする事柄も、盧安が望みさえすれば、上層部は間違いなく盧安に譲歩するだろう。何しろ、盧安が関わる利益はあまりにも巨大すぎるのだ。
「わかった、彼らには話しておく。今はまず私と戻れ。」張天闕は口元をひくつかせ、心の中で毒づいた。「この危機が過ぎ去り、この危険警戒期間さえ乗り切れば、もうお前の協力は必要なくなる……」
「だめだだめだ、まだ用事があるんだ。これにて失礼する。」そう言って、盧安は立ち去った。張天闕の背後にいた者たちが制止しようとしたが、パワーアーマーの機械足が地面と激しい火花を散らし、アーマーから耳障りな摩擦音を響かせた。この異音は、パワーアーマーが壊れかけていることを意味する——盧安が超能力で警告を発したのだ。
張天闕は手を上げて隊員たちの更なる行動を制し、眉をひそめて言った。「盧安、お前の今の三級の実力では、外は極めて危険だ。侵入者にお前を殺すなど赤子の手をひねるようなものだ。怖くはないのか?」
盧安は笑い出したい衝動に駆られた。あの極めて危険な空間系の侵入者は、数時間前には自分の前でまるで小さなウサギのように大人しくしていた。しかし、盧安は警戒心を十分に保った様子で言った。「私は脅されて育ったわけじゃない、罠にはめようとしても無駄だ。私は今、君たちが私を守るという名目で、敵対勢力に売り渡そうとしているのではないかと強く疑っている。盛儒星に会いたい。」
張天闕は怒りで全身が震えた。今の盧安は実に腹が立つ。一日前には盧安を見て、なかなかいいと思っていたのに、今の盧安は明らかに自分を困らせている。そう、盧安は虎部を脅しているのではなく、特に具体的な執行者を脅しているのだ。
少し怒り狂った様子の張天闕を見て、盧安は笑った。盧安の殴られても仕方ないような様子を見て、張天闕は今、あの侵入者が次の瞬間に盧安を直接殺してくれればいいのにと思っている。
不必要な衝突を避けるため、浮かない顔の張天闕は電話をかけ、現在の状況を上司に報告した。
組織が大きければ大きいほど、人心は一致しにくい。組織が強いのは、分業の中で各人に責任が与えられているからだ。だから、時には組織全体と対抗する必要はない。石を砕くのに手のひらで叩く必要がないように、鋼のタガネを使って石の一点を狙えばいい。
「誰だって人間だ。自分のことを考えない者はいない」と盧安は心の中で思った。「個人が自分の責任が他人と比べて高すぎると感じ、報酬が不足していると思ったら、誰が責任への情熱を持ち続けられるだろうか」




