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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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絆の島7-六分儀

 当面、主役はクロです。


 島の森の中で、綺桜の竜(サクラ)から降りると――


「クロ殿、たいそうなお荷物ですね」

修行していたらしい紫苑と珊瑚が現れた。


二人は式神を召喚して、荷物を持たせ、空龍を抱えさせ、ぞろぞろと草地へと歩き出した。


「空の旅は、いかがでしたか?」珊瑚が問う。


「夢心地でした……

子供の頃から憧れていた竜の背に乗って、雲の上を飛べるなんて!

感動で、いっぱいになりました!

母から聞き、娘に語った寝物語を思い出し、毎日、竜の事を思っていた ご褒美なのかな……

などと思いながら、乗っていましたよ」


「どのような お話なのですか?」


空龍は、かいつまんで話した。


 クロにとっても感慨深い、その話は、自然と、皆の視線を天へと向かわせた。


『あなたが忘れない限り、私は、ここに来ることができるの。

だから……忘れないでね』


少女の頃のリリス女王の言葉。

悲しい事に、その後、人々の心から竜の存在は、失われるのだが――


 でも……リリス女王様、

 矢太と、その子孫は、忘れていませんでしたよ。


 そして……

 今、人の心に、少しだけ竜は復活しましたよ。

 まだまだ、おおっぴらには飛べませんが……




 酒樽と味噌樽は、厨に運んでもらい、千両箱は、姫の小屋に運んでもらった。

昨夜から航海士の小屋になった、その中にクロと空龍が入ると、蛟が掃除をしていた。

荷物は、すっかり移動していて、広い卓が入っている。


「クロ様、お帰りなさいませ~♪」


「ただいまっ♪

なぁ、蛟、コレ直せるか?」

クロは革袋を渡した。


蛟は中を見て、空龍に差し出した。

空龍も覗き込む。「六分儀――」

「――が、バラバラでございますね」蛟が続けた。


「キン兄が、くれたんだけど、見ての通りなんだ。

どうだ?」


「お任せ下さいませ♪」ニッコリ

「掃除が終わりましたので、リリスさん、呼んで参りますね」


蛟は革袋を持って、楽しそうに出て行った。


すぐに、リリスが入って来た。

「お父さん、お帰りなさい♪」父に駆け寄る。


クロと蛟は、小屋を後にした。



♯♯♯



 作業小屋に入ると、アオが臥せっていた。


――が、


ガバッと起きると、

「すまないっ!! バレたっ!! ……たぶん」

アオは、クロに向かって掌を合わせた。


「しゃ~ねぇよ、アオ。

あそこで姫が現れるなんて、想定外だったんだから」

と笑う。


クロは、アオの肩に手を置き、

「ま、いずれバレただろうしなっ。

アオは、よくやったよ」ぽんぽん


クロは、ぷっ♪ と吹き出し、

しっかり思い出したらしく、大笑い。

アオ、赤面……ガックリ項垂(うなだ)れる。


「バレてしまったのでしたら、これからは、姫様も巻き込んでしまうのは、如何でございますか?」

六分儀の修理に掛かった蛟が言う。


「そうだね……

竜が飛んでから、出てきて、手を振ってもらうとか……」

アオも乗る。


「よしっ! 決まった! それで行こう♪」


「ただいま~♪」サクラが戻って来た。


「あれ? 遅いじゃねぇか」


「姫と遭っちゃって……」


「バレてたか!?」アオとクロ。


「わかんな~い。

なんにも言わなかったも~ん」


 不気味だ……


「ただ……クロ兄に……

夕食 終わったら、浜の丸太で待ってる、って~」


「そ、そうか……」怖え~っ!


その時、扉がドンドンッと叩かれた。


ビクゥッ!!!  固まる四人。


「船主さん、おいでですかぃ?」棟梁だった。


「はい」アオが扉を開ける。


「話が有るんでさぁ」


「ここは狭いので、食卓の方へ――」皆で移動。




 卓に着き、

「修理の方なんですがね、部分部分は、小屋で作っておりやしたから、あと三、四日で、仕上がると思いやす。

ただ……材木が、少々足りねぇんでさぁ。

生木(なまき)では、後々困る事になりかねやせん。

ですから、島の木を使うのは、どうかと……

調達できやすかぃ?」


「とれだけ必要ですか?」


「この紙の通りでさぁ」たたんだ紙を出す。


「解りました」チラと見て、アオが頷く。


棟梁は「宜しくお願ぇ致しやす」と去って行った。



「昨日、分かってりゃなぁ」クロが天を仰ぐ。


「でも、義足 取りに行くんでしょ?」


「あ……そうだなっ!」視線を戻す。

「あ……でも、アカは夕方だって言ったな……」


「じゃ、キン兄に運んでもらったら~?」


いや、そんな事 頼むなんて……と思いかけたが、

「キン兄も、来たいハズだよなっ!」


「喜ぶよ♪ 言わないけどねっ♪」ケラケラ♪


「んじゃ、コレ伝えてくれ♪」

アオの前にあった紙を、サクラに渡す。


「これ……なに書いてるの?」

紙を広げて、ぱちくり。


 ……木材関連専門用語の雨嵐……たぶん……


「蛟、頼むっ」


「はい~♪」


「夕食、作るわ」クロは立ち上がった。



♯♯♯♯♯♯



 夕食後、クロが浜に向かうと――


星空を見上げている姫の後ろ姿が、船を煌々と照らす篝火(かがりび)を受け、ぼんやり見えていた。


「姫、待たせたな……」丸太に座る。


「今、来たところじゃ。待ってなどおらぬ」

穏やかに、姫が言う。


「のぅ、クロ……」


「何だ?」


「白い竜の話、知っておるか?」


「ああ……空龍さんから聞いた」


「さよぅか……」



静かな浜に、波の音だけが繰り返される。



「人が忘れてしもぅたから、竜は姿を見せられぬのじゃな……


しかし……

それでも竜は、人を助けてくれるのじゃな……


竜は……優しいのぅ……」


「姫……」


「それが解ったから……じゃから……」

姫は立ち上がり、クロの正面に立ち、深々と頭を下げた。


「いずれ……必ずや、人は竜を思い出す!

じゃから……じゃから……

人を見捨てないで欲しいのじゃ!

ここに……人の世に、いて欲しいのじゃ……」


姫の涙が、ポタッ、ポタッと砂に落ちる。


クロは、姫の肩に手を当て、体を起こさせる。

そして、抱き寄せ、頭をポンポンしながら、

「大丈夫だ。まだまだ、ここにいるよ」


「感謝いたす……

人の代表として、誠に感謝いたすぞ」

泣き顔を隠すように顔を(うず)める。


どっ! ガササッ!


サッと振り返ると、くノ一達が逃げていた。


――ひとり、背負われているようだ。


「アヤツら~~ ! 赦さぬっ!!」


怒り心頭、殺気爆発で、走り出そうとした姫の手を、クロが掴んだ。


「心配して来ただけだろ。そう怒るなよ」

丸太に座り、隣に座れと丸太を叩く。


姫が、おずおずと座ると、


「優しさや、お節介で、人を助けてるワケじゃねぇんだ……

天界と魔界の戦いに、人界は、巻き込まれてしまってるだけなんだよ……」


「じゃが、それでも……

人の世で、竜が戦ってくれねば、ここは、既に魔界の一部じゃ。

じゃから、結果は同じじゃ。

人は、竜に、助けられておる」


「そう思ってくれて嬉しいよ……

たぶん、皆……リリス女王も、オレ達も、他の竜も、たとえ、ひとりでも、そう思ってくれていれば嬉しいし、人と、ずっと友達でいたいと思えるんだ」


「ワラワが、クロの『矢太』になってしんぜようぞ♪」


 あはは……は……は……はぁっ!?

 待てよ……オレ……さっき、思わず……


クロ、ぢっと手を見る……





 夕食後、クロが出掛けた作業小屋――


桜「あ……クロ兄、姫の剣、置いてっちゃった~」


蛟「クロ様を追いますので、剣を頂けますか?」


桜「俺も行く~♪」


青「邪魔しては、いけないよ」


桜「うんっ♪」

蛟「お話ししておりましたら、お渡しせずに

  戻りますので」


青「うん。姫を怒らせないようにね」


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