絆の島8-星降る夜
前回まで:クロは姫に呼び出され、夜の浜で話しています。
浜に置いた丸太に座り、話していたクロが、急に黙り込み、両手を見詰めて固まっているので、姫は訝しげに覗き込んだ。
その視線に気付き、
「あ、いや、何でもねぇ」やっちまったなぁ……
「さよぅか?」首を傾げた後、
「それで、リリス女王とは、どのような御方だったのじゃ?」
「いや……オレも、歴史で習っただけだからよくは知らねぇ。
ただ……
人の事が大好きで、人に忘れられた事を、一番 悲しんだ天竜王だと思う」
「それは、どぅしてじゃ?」
「オレ達の名前……人界の色の名だろ?
リリス女王までは、天界の色の名だったんだ。
リリス女王は 、またいつか、人と竜が友達になれるよう願いを込めて、自分の子に、人界の色の名を付けたんだ」
「そぅじゃったのか……
クロ達の子らには、再び天界の色の名が付けられるよう、頑張らねばならぬな」
天を見上げる。
「そうだな」クロも見上げた。
(とっとと帰れっ! 蛟も連れてなっ!!)
(姫の剣……)
(後でいいだろっ!
姫に気付かれたら、どーなっても知らねぇぞ!)
(わかってるけど~)
(何だ?)
(動いたら、気付かれそぉだよぉ~)
(しゃあねぇなぁっ!)
クロは立ち上がり、姫の手を取って、波打ち際に向かって歩き出した。
(もう、いいだろ。波の音で聞こえねぇ筈だ)
サクラと蛟は、走り出した。
クロと姫は砂浜に腰を下ろし、木々から離れて広がった満天の星空を見上げた。
「あの空を、竜が自由に飛べるよぅに致すぞ」
姫が、天に両手を差し伸べる。
「そうだな……ありがとう、姫」
「共に、竜と人との懸け橋となろぅぞ!」
「ああ。なろう!」
クロも、両手を天に伸ばし、掌を広げた。
二人、星を掴むようにして、下ろした手が触れた――
自然に繋ぐ……
そのまま、星が見えなくなるまで、無言で見上げ続ける二人だった。
しかし……
もちろん、クロに、姫と手を繋いでいる、という意識があろう筈は……ない。
♯♯♯♯♯♯
「おや? 剣、渡さなかったのかい?
長くかかっているから、一緒に話しているんだと思っていたよ」
作業小屋に逃げ込んだ、サクラと蛟に、アオが声をかけた。
「ムリ~っ! 怖かったぁ~」
サクラは、ペタンとアオの前に座った。
「険悪だったのかい?」
「いえ、その逆でございまして」蛟も座る。
「姫に見つかったら、今度こそ、なにされるか わかんないって……」
ねぇ、と二人、顔を見合わせて頷き合う。
「丸太に近付くと、くノ一さん達が茂みに潜んでおりまして……」
「そりゃ、彼女らも心配していただろうね」
「ええ、おそらく、そうなのでしょうけど、彼女らの、すぐ後ろに着いた時、如月さんが、また気絶してしまいまして――」
「くノ一さん達、姫に見つかっちゃったんだよ~」
「如月さんを背負って逃げる彼女らにぶつかってしまいまして――」
「尻餅ついちゃったんだ」
「姫様は、大層お怒りで、くノ一さん達を追いかけようとしておりましたが――」
「クロ兄、俺達に気づいて、姫を止めてくれたんだ。
でも、動いたら、音がするから逃げられなくて~」
「波打ち際に、姫様をお連れ下さいましたから――」
「やっと、逃げられたんだ~」
「大変だったね」アオが笑う。
「まぁ、喧嘩してなくて良かったね」
「ええ、それは……安堵いたしましたよ~」
「なかよく、リリス女王の話、してたよね♪」
「そうか……」
アオは、浜に向かう前にクロが話した、白い竜と少年の話を思い出し、深い感慨を胸に天井を見上げた。
竜の少女・リリスは、
人の少年・矢太と心を通じ、
それから長い長い間、
人に忘れ去られた竜は、
今、やっと……
再び、心を通わせられた、か……
蛟は、六分儀の修理に戻った。
そして、「あっ」と声をあげ、
「アオ様、サクラ様、こちらを――」
蛟は、小ぶりな望遠鏡らしき筒を差し出した。
その胴には――
少年を乗せて飛ぶ竜の浮き彫りが有った。
その竜の髪には、花の髪飾りが付いていた。
(キン兄♪ この……えっと、ろくぶんぎ?)
(六分儀が、どうしたのだ?
部品が足りないのか?)
(ううん。それは、まだわかんない。
これね、いつの時代のものなの?
人界の? 天界の?)
(さぁな……かなり古い物である事は確かだが……
元々は、人界の物のようだ。
だが、部品の一部には、天界の物が組み込まれている)
(ふぅん……)
(おそらく、人界で作られた物を、竜が拾って修理したのであろう。
だが、年月が経つ内に、また壊れてしまった。
私は、そう思うが……)
(そっか~、とってもステキなもの、ありがと♪
航海士さん、すっっごく喜ぶと思うよ♪)
(そうか……)
(じゃ、キン兄、また明日ねっ♪)
キンは、フッと笑った。
♯♯♯
明け方、六分儀は組み上がった。
その六分儀には、かなり掠れてはいるが、細かい浮き彫りが、たくさん施されていた。
それは、白い竜と矢太が、世界中を旅して見た光景なのだろう。
「お話を全部、伺いたいですね……」
蛟は、遠い昔に思いを馳せた。
♯♯♯♯♯♯
その頃――
姫が小屋の扉をそぉっと開けると、修行に出るため身支度を整えた珊瑚が振り返った。
「おはようございます。姫様」姫に近付き、
「仲睦まじき事は、よろしい事ですが――」
鼻が くっつく程、顔を寄せ、
「お肌には、悪ぅございますよ!」
そして、扉に手をかけ、振り返り、
「もう、皆さま、ご存知ですから、いつでも仲良くなさってください♪」
極上にっこり。
「夜は、ちゃんと、お休みくださいねっ♪」
言いながら出て行った。
じわりじわりと頬が熱くなっていく……
姫は、ひと晩中クロと繋いでいた左手を、右手で、そっと包み、胸に押し当てた。
♯♯♯
いつものように朝食を作っていたクロは、突然、寒気を覚えた。
ぶるぶるっと身を震わせ、己が腕を擦る。
風邪かなぁ……やっべ~な……
ずっと、星見てたから、首も痛ぇし……
蛟、フジから薬、預かってるかなぁ……
そういや、フジは何してるんだ?
前話、後書きの続きです。
浜に向かって歩いているサクラと蛟――
桜「爽蛇、クロ兄と姫の色を確かめたら、
小屋に戻るからね。
これからの為に変化を見たいんだ」
蛟「そういう事でございましたか」
桜「あれ? 誰か茂みに――」
どっ! ガササッ!
こっち来る!?
どんっ! ドサッ!
桜「ったぁ~」
蛟「ぁぃたたた……」
どぉしよ……動けないよ……




