八話 誘引
二〇〇八年 十一月二十三日
ここまで読んだところで、進藤は原稿を机に置いた。
気づけば、編集部の部屋には静寂だけが流れていた。
「……何だ、ただの思い出話か。でも、島民の様子と唸るような不気味な音は、ちょっと気になるな……」
椅子の背にもたれて呟き、時計を見ると二十時を過ぎていた。
いつの間にか、窓の外はすっかり暗くなっていた。
ガラスに映った自分の顔を見て、進藤は小さく息を吐いた。
編集部にはもう、誰も残っていなかった。
まだ読み終わっていないこともあり、進藤は原稿を編集部から持ち帰ることにした。
原稿用紙の束を封筒に戻すと、リュックに入れ、上着を羽織った。ドアの近くまで行くと、電気のスイッチに手を伸ばした。
部屋の照明が、進藤の背後で一つ、また一つと消えていった。
廊下に出て編集部のドアに鍵をかけようと屈んだ瞬間、どこからか冷たい空気が流れてきた。まるで、何かに触れられたような感覚がした。
進藤は思わず振り返った。けれども、そこには何もなかった。
疲れているのだろう。そう思い、進藤はそのままエレベーターへ向かった。
電車を降り、改札を出ると、いつものようにコンビニに寄ってから自分のマンションへと向かった。
『プシュ』
お風呂から上がるとソファに座り、缶ビールを半分ほど一気に喉に流し込んだ。
そして、テーブルに置いたコンビニの袋から、弁当を取り出し蓋を開けた。
テレビをつけると、ニュースが流れていた。
何気なく画面を眺めながら弁当を食べていたが、ふと、さっき読んでいた『哭島』の原稿のことを思い出した。
山から聞こえてくる、唸るような音。
その記述が、なぜか頭から離れなかった。
弁当を食べ終わり、缶ビールを飲み切ると、立ち上がって、リュックから封筒を取り出した。
テーブルの上に置き、ソファに座ると封筒を見つめた。
しばらくして、進藤は小さく息を吐いた。
「……続き、読むか」
何となく原稿の続きが気になり、再びページを開いた。
しかし、読み進めるうちに、何かに引き寄せられるようにページをめくり続けていた。




