七話 ー手記ー 夏夜
夏休みが始まって数日後——
夕食のあと、私は自分の部屋で寝転びながら、天井を眺めていた。
「ごめんくださーい」
「涼子ちゃんと桜ちゃんか。 いらっしゃい」
玄関で話す涼子と祖父の声が聞こえてきた。
「おーい、裕司。 涼子ちゃんが来てるぞ」
慌てて起き上がると、ボサボサの髪を手で整えてから部屋を出て玄関に向かった。
「ゆう兄ー、浜辺で花火やろー」
私を見るなり、桜が嬉しそうに言った。
「えっ、花火?」
「そう、裕司くんも一緒に来ない?今、お父さんがバケツを探してるから、先に誘いに来たの」
「浜辺か。暗いから、気をつけて行っておいで」
後ろから祖父の声がした。
外に出ると、晃さんがバケツと懐中電灯を持って走ってきた。
「お待たせ。裕司くん久しぶりだね」
晃さんが笑顔で言った。
懐中電灯を片手に、薄暗い道を四人で歩いた。
いつも通っている道のはずなのに、夜の闇に包まれると、どこか不気味に感じられた。昼間には気にも留めなかった木々の影が、懐中電灯の明かりに照らされて浮かんでいた。
ようやく浜辺に着くと、そこには波の音だけが静かに響いていた。
ここで待っているから楽しんでおいでと、晃さんは防波堤に腰を下ろしながら言った。
そう言ったあと、晃さんは一瞬、山の方へ目を向けた。
「……今日は静かだな」
小さく呟いたのが聞こえてきた。
「花火、花火ー」
涼子と二人で準備をしている間、桜が周りではしゃいでいた。
懐中電灯を消すと、ろうそくの火だけが浜辺に揺れていた。辺りは思った以上に暗く、海の方は真っ黒に見えた。
その瞬間、どこからともなく、生温かい風が吹き、肌にまとわりついた。
「わー、きれーい」
花火に火をつけると、桜と涼子が喜んだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
この島へ来てから、こんなに楽しいと思えたのは初めてだった。
「ねぇ、最後は三人で線香花火やろうよ」
嬉しそうに涼子が線香花火を渡した。
「……また来年も、一緒に花火やりたいな」
涼子は線香花火を見つめたまま、小さく微笑んだ。
どこか儚げな涼子の横顔から、私は目が離せなかった。
涼子と桜と過ごすこの時間が、いつまでも続けばいいのに。
この時私は、そう思った。
帰り道、涼子からK神社で行われる夏祭りに誘われた。
私は、嬉しさを隠しながら、その誘いに応じた。
「じゃあ、八月十五日の夕方迎えに行くね」
そう言うと、涼子たちは帰って行った。
この日の夜、部屋で眠っていると、またあの音が聞こえた気がして目が覚めた。
起き上がって窓を開けると、外には静かな暗闇が広がっていた。
(……気のせいか。……それとも夢だったのか)




