六話 ー手記ー 不穏
登校日 初日——
チャイムの音が廊下まで鳴り響いていた。
私は先生のあとに続いて三年一組の教室へと入った。
「おはようございます」
生徒十四人の声が重なり合った。
「おはようございます。 今日はみんなに新しい仲間を紹介します」
「高野 裕司くんです。みんな仲良くするように」
「よろしくお願いします」
私はみんなの方を向き挨拶をしたが、不思議なことに涼子以外、誰とも目が合わなかった。
「一番後ろの空いている席に座って」
席は偶然にも涼子の隣だった。
私が座ると、涼子が小さく手を振っていた。
「やっと会えたね」
一時間目が終わったあと、涼子が声をかけてきた。
私は黙って頷いた。
「何か分からないことがあったら、いつでも言ってね」
そう言ったあと、廊下から彼女を呼ぶ声が聞こえ、涼子は席を立った。
「じゃぁ、またね」
この日、学校で話しかけてくれたのは、涼子一人だけだった。
——
「ただいま」
玄関に入ると、台所の方からだしの香りが漂ってきた。
「あー、おかえり」
台所から祖父が顔を出した。
「疲れただろう、風呂に入っておいで」
「これ、お弁当箱……ありがとう」
「あー、朝と同じおかずで悪かったなぁ」
私は首を横に振り、風呂に入ってくることを伝えて、部屋へと向かった。
夕飯の時、意外にも祖父は学校のことを何も聞いてはこなかった。私も特に話すことがなかったので何も言わなかった。
二日目——
朝、私が教室に入ると、それまで賑やかだった教室の中が急に静まり返った。
「おはよう」
私が席に着くと、涼子が声をかけてきた。
一時間目が終わってすぐの休み時間、隣の席の子に話しかけようとした。
しかし、声をかける前に、その子は別の友達のところへ行ってしまった。
仕方なく、私は自分の席から窓の外を眺めた。
山の上には今日も、白い靄がかかっていた。
三日目——
家を出ると、石垣の外で涼子と桜が待っているのが見えた。
「おはよう、一緒に行こうよ」
私が近づくと、涼子が言った。
いいよと返事をしたあと、黙って三人で歩き出した。
しばらく歩いたところで、この二日間、学校で感じた疑問を涼子に投げかけた。
「あのさ…、オレってみんなから避けられてるのかな?」
「えっ……そんなことないよ。 み、みんな、島の外から来た人と会うのが初めてだから、緊張してるだけだよ」
涼子は視線を外すと、少し言葉に詰まりながら答えた。
「そうなんだ……」
涼子の反応に違和感を覚えながらも、それ以上聞くことをやめた。
数週間後——
梅雨が明けて、季節は夏へと移っていた。
学校生活にも少しずつ慣れ、気がつけば、もうすぐ夏休みだった。
でも、なぜだろう……やはり、クラスの人から避けられている気がする。
私が話しかけようと近づくと、いつもみんなどこかへ行ってしまった。
ただ、涼子だけは、いつも変わらず優しく接してくれた。
学校で孤独だった私にとって、涼子の存在だけが心の支えだった。
終業式の日——
学校が終わった帰り道、涼子と二人で歩いていると
『うぅぅぅ———うぅぅぅ———』
突然、山の方から唸るような低い音が聞こえてきた。
この音……。
島にきた日にも聞いた気がする……。
隣を見ると、涼子が下を向いて震えていた。
「この音って……」
話しかけようとした瞬間、涼子は走って行ってしまった。




