第9話 もふもふと朝のお散歩
翌朝、顔中に感じるモフみと温もりで目が覚めた。
「んん……ふあぁ……」
視界いっぱいに広がる白銀の毛並み。
抱き枕のようにハクの身体に抱きついたままだった私は、自分が天国にいるのではないかと錯覚しかけた。
私が身じろぎすると、ハクの大きな耳がピクリと反応する。
「くぅ〜ん……」
ハクはまだ眠そうに細めた金色の目をパチくりさせると、私の首筋に大きな頭をすり寄せてきた。
……うん、朝から最高の癒やしだ。
最初、人間の美少年姿でベッドに現れた時は心臓が停止するかと思ったが、狼姿に戻してもらって大正解だった。
これなら何の問題もない。
健全。超健全である。
「ハク、おはよう。よく眠れた?」
「わんっ!」
ハクは元気よく短く吠えると、ベッドから飛び起きてちぎれんばかりに尻尾を振り始めた。
その勢いで、私の顔をペロペロと激しく舐め回してくる。
「わ、わかった、わかったから! ちょっと落ち着いて!」
起き上がってハクの頭を撫で回してあげると、ハクは気持ち良さそうに目を細めた。
さて、朝食の準備でも……とベッドから足を下ろした時、ハクがじっと部屋の窓の外を見つめていることに気づいた。
耳をピンと立て、尻尾を微かに揺らしながら、外の様子を窺っている。
(……あ、そういえばハクって、ずっと外で一人ぼっちだったんだよね)
昨夜のハクの言葉が頭をよぎる。
ネット通販のおかげで、この家の中は引きこもりにとっての桃源郷だ。
一歩も外に出なくても一生快適に暮らしていける。
だが、元々野生(?)だったハクにとっては、ずっと家の中に閉じこもっているのは退屈かもしれない。
それに、犬(狼だけど)の健康維持には適度な運動と日光浴が必要不可欠なはずだ。
「よし……ハク、せっかくその姿だし、ちょっとお外に散歩行ってみる?」
「!?」
ハクの耳がサッとこちらを向いた。
金色の瞳を輝かせ、嬉しそうに私の周りをぐるぐると回り始める。
どうやら大賛成のようだ。
「ふふ、じゃあお出かけの準備をしなきゃね。……待ってて、準備するから」
私は早速、ネットスーパーのアプリを起動した。
引きこもりOLの私が外に出るのだ。
それ相応の装備が必要である。
異世界でも紫外線は女の敵だ、対策はガチで行わなければならない。
検索窓にワードを打ち込み、次々とカートへ放り込んでいく。
「まずは私の紫外線対策……完全遮光のUVカット帽子に、アームカバー。よし。それからハクのやつね」
迷子にならないための伸縮リード、歩きながら水分補給ができるペット用携帯給水ボトル、ついでにお散歩中のご褒美用の犬用ジャーキー、と必要そうなものを選択していく。
「よし、購入!」
ポチッと画面をタップすると、リビングの玄関スペースに光が走り、あっという間に段ボール箱が現れた。
相変わらずの爆速配達である。
箱を開け、私は完全防備のUVカットスタイル(帽子+アームカバー)に変身した。
そして、ワクワクした様子で待っているハクの首に、新調した首輪とリードを取り付ける。
「よし、じゃあ行こうか。あ、あんまり遠くには行かないからね? 確実に安全って言えるのは家の周りだけだから」
「わん!」
ガチャリ、と玄関の鍵を開けて、一歩外へ踏み出す。
眩しい太陽の光と、心地よい風が肌を撫でた。
「おぉ……空気が新鮮だ……」
家の周りは緑豊かな森の中で、今のところ危険な魔物や人の気配はなさそうだ。
ハクは外に出た瞬間、テンションが最高潮に達したらしい。
地面の草の匂いをクンクンと嗅いだかと思えば、ひらひらと飛んできた羽の生えた虫を捕まえようと、大きな身体を躍らせて跳ね回る。
「くぅん! わんっ!」
「あはは、ハク、楽しい? ……って、うおっと、ちょっと待って!?」
ハクが虫を追いかけて猛ダッシュした瞬間、リードを通じて凄まじい力が私の腕に伝わってきた。
見た目は可愛い特大ワンコだが、その正体は白銀の狼である。
身体能力が一般犬の比ではない。
「ハク! ストップ! 引きずられる、私が引きずられるーーーっ!?」
ずるずると芝生の上を数メートル引っ張られ、私は必死に足を踏ん張った。
元運動不足のOLが耐えられる負荷を遥かに超えている。
「ちょ、降参! ハク、おやつ! おやつあるよ!!」
慌ててポケットからさっき通販したジャーキーを取り出すと、ハクはピタッと足を止め、フリフリと尻尾を振りながらお座りをした。
現金なやつめ。
「はい、お利口さん……。はぁ、死ぬかと思った……」
ジャーキーを美味そうにハグハグと食べるハクの姿を、私はスマホのカメラでパシャパシャと連写する。
どこを切り取っても絵になるもふもふだ。
完全に親バカならぬ飼い主バカの境地に達しつつある。
それから、家が見える程度の近い範囲をゆっくりと30分ほどお散歩した。
「良い運動になったわね、そろそろお家帰ろっか」
「くぅ?」
まだまだ物足りなさそうなハクだったが、私の服の裾を優しく甘噛みして、家の方へと誘導してくれた。
我が家へと帰還すると、玄関でハクの手足を丁寧に拭いてあげる。
「ふぅ……。ハク、お外は楽しかったけど、やっぱりお家が一番だね」
ソファーに倒れこみながら、私はリビングの白い壁を見つめた。
ちょっと運動した後は、涼しい部屋でダラダラするに限る。
ハクもいつの間にか人間の美少年の姿に戻っていた。
脱ぎ捨ててあったパジャマを自分で着直すと、私の真似をしてソファに沈み込んでくる。
「よし、ハク。今日はもう一歩も動かないからね。……ごはんを食べたら、お部屋を暗くして、アレをやろう」
「あれ……?」
首を傾げるハクに、私はニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせたのだった
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




