第10話 ホームシアター大作戦!
朝食を終えた私たちは、リビングの壁に据え付けられた、超大画面の液晶テレビの前にいた。
「ちさ、これ、なに……? 黒い板の中に、知らない人間が出てきた……!」
「ふふ、これは『テレビ』っていうのよ。私が居た世界のエンターテインメントね」
私は『異世界ネットスーパー』の配信サービス機能(もちろん見放題)を使って、ハクと一緒に映画鑑賞をすることにしたのだ。
まずは適当にチャンネルを点けてみたが、ハクは既に興味津々の様子。
部屋のカーテンを閉め切って薄暗くし、『人をダメにするソファ』をテレビの前に2つ並べれば、そこはもう完全にプライベートシアターだ。
ネットスーパーで取り寄せた、映画のお供の定番キャラメルポップコーンと、ハクお気に入りの100%オレンジジュースをテーブルに並べる。
「よし、準備万端。いい、ハク? 映画っていうのはね、この大きな画面に映る物語を、美味しいものを食べながらただぼーっと眺めるという、最高に贅沢で自堕落な遊びなんだから」
「ただ見てるだけでいいの……? なんだか、すごく楽ちんだね」
ハクは不思議そうにしながらも、目の前に並んだおやつに興味津々だ。
特に、甘く香ばしい香りを部屋中に漂わせているキャラメルポップコーンが気になるらしく、鼻をぴくぴくと動かしている。
「まずは、これ。食べてみて」
私が一粒つまんでハクの口元に運ぶと、彼は嬉しそうにパクッと口を開けた。口の中でカリッ、サクッと小気味いい音が響く。
「……! 甘くて、香ばしくて……すっごく美味しい! 噛むとフワフワして、不思議な食べ物だね」
「でしょ? 映画の醍醐味は、このポップコーンが五割を占めてると言っても過言ではないわ」
映画の楽しみ方を教えたら、あとは実際に見るだけだ。
「それじゃあ、ハク。記念すべき第一回異世界ホームシアター、上映開始よ!」
私が再生ボタンを押すと、テレビの音響機械から重低音が響き、大画面に色鮮やかな映像が映し出された。
選んだのは、大人から子供まで楽しめる日本の超名作アニメ映画。
大画面の中でキャラクターたちが縦横無尽に空を飛び回り、スピーカーから臨場感あふれる音楽が流れる。
映画が始まると、ハクはポップコーンを食べる手も止まり、画面に釘付けになった。
「すごい……! 板のなかで漫画みたいにお話が進んでる……!」
ハクの金色の瞳が、テレビの光を浴びてキラキラと輝いている。
その頭の白い獣耳が、映画の大きな音に合わせてピコピコと敏感に動くのが可愛らしい。
「うわぁ! あぶない!」
「いけっ! やっつけろー!」
金色の瞳をこれでもかと見開き、画面に向かって一喜一憂している。
いちいち新鮮で大きなリアクションを返してくれるのが、映画の良き同伴者という感じで、見ていて実に微笑ましい。
最初は少し緊張気味だったハクだけど、物語が進むにつれて緊張もほぐれてきたらしい。
物語が中盤に差し掛かる頃には、完全に『人をダメにするソファ』に背中から埋もれ、すっかりリラックスモード。
ポップコーンを食べながら、映画の世界に没頭する。
映画ももう終盤、クライマックスに差し掛かろうかという時に、ハクが自分のクッションごと私の方へ近づいてきてパジャマの袖をぎゅっと握りしめていた。
「ハク? どうしたの?」
「……ううん。お話がちょっとドキドキするから、ちさの近くにいたいなぁって。……だめ?」
上目遣いで、白い尻尾をパタパタと弱気に揺らす美少年。
……だめなわけがない。
だが……ぐぅ、心臓が痛い。美少年の上目遣いはOLに効く。
「いいよ。いくらでも近くにいていいからね」
「うん! えへへ……」
ハクは嬉しそうに笑うと、私の肩にコツンと自分の頭を乗せてきた。ふわふわの髪とケモ耳の感触が心地いい。
外界から完全に遮断された、無敵の結界の中。
エアコンの効いた快適な部屋で、大画面の映画を観ながら、可愛い相棒とポップコーンを分け合う。
(あぁ……幸せすぎる……。神様、本当にありがとう……)
やがて映画は、主人公がド派手に悪党をぶっ飛ばして大団円のエンディングを迎えた。
画面にスタッフロールが流れていく。
「はぁ、面白かった! ハク、初めての映画どうだった?」
「最高! ぼく、もっと見たい!」
「そうこなくっちゃ。じゃあ次は王道のハリウッド映画ね! 次のお供は、塩味のポップコーンにしよっか」
過労死寸前だったOLと、訳ありのケモ耳美少年。
一人と一匹?の、自堕落の極みのような幸せな一日は、まだまだ始まったばかりだ。
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




