第11話 夜更かしボードケーム
結局、先日は丸一日映画を見て終わってしまった。
昼過ぎまで惰眠を貪り、だらだらと漫画を読んだり、家の近くで日向ぼっこをしたりして過ごしていた。
夕食を終え、お風呂にも入り、あとは寝るだけ……という頃合い。
ここでベッドにダイブしたいところだが、起床が遅かったのもあって私もハクもまだ眠気がない。
「よし、今日はボードゲームで夜更かしよ」
「ちさ、ボードゲームってなに? 」
パジャマ姿のハクが、リビングのローテーブルの前にちょこんと座り、不思議そうに首をかしげている。
私は不敵な笑みを浮かべながら、ネットスーパーで事前に注文しておいた、大きな長方形の箱をテーブルの上に置いた。
「ふふふ、これだよハク。現代日本が生んだ最高峰の頭脳戦……その名も『人生ゲーム』!」
箱を開け、カラフルなマス目が描かれた大きな盤面を広げる。
車型のコマに小さな人間ピンを刺し、中央にそびえ立つ大きなルーレットをセットすると、ハクの金色の目が一気に輝いた。
「わぁ……! なんか、すごいやつだ! この真ん中のぐるぐるするの、なぁに?」
「これはルーレット。これを回して、出た目の数だけ進むの。このマス目にはね、色んな『人生の出来事』が書いてあって、最終的に一番お金持ちになった人が勝ち!」
「おかねもち……? よくわかんないけど、まけないよ!」
やる気満々で拳を握るハク。よしよし、可愛いね。
でもね、ハク。
これはただのゲームじゃない。
現代社会の縮図、資本主義のリアルを詰め込んだ非情なゲームなのだ。
元社畜OLの私が、異世界のピュアな少年に大人の厳しさを教えてあげよう。
「じゃあ、ゲームスタート! まずは職業を決めまーす。ハク、ルーレット回していいよ」
「うん! それっ!」
ハクが小さな手でルーレットを勢いよく回す。チチチチチ……と小気味よい音を立てて止まった数字は『7』。
「あ、ハク、最高ランクの『ビジネスマン』になっちゃった。給料高いやつだ」
「ビジネスマン? かっこいい!」
「……チッ、まぁ最初だしね。次は私だ、それっ」
私が回して止まったのは『2』。
職業は『フリーター』。もちろん最弱である。
(……おかしいわね。異世界に来てまで現実を突きつけられてる気がするんだけど?)
嫌な汗をかきつつも、ゲームは進んでいく。
ここから、ハクの恐るべきビギナーズラックが炸裂し始めた。
「ちさ! 『株が大暴騰して大儲け』だって! お給料もいっぱいもらった!」
「くっ……! 私は『バナナの皮ですべって入院、治療費マイナス』……なんで……」
ハクの乗る車には、いつの間にか結婚したらしいピンクのピン(お嫁さん)が刺さり、さらに子供のピンまで増えて大繁盛している。
対する私の車は、ずっと一人ぼっちの寂しいソロドライブだ。
そして中盤、恐れていたマスにハクが着地した。
「あ、『家を買う』マスだ。ハク、どれにする? 一番高いやつは……って、ハクはお金あるから一括で買えちゃうわね……」
「えっとね、この一番おっきくてカッコいいお家にする! ちさと一緒に住むお家!」
「これはゲームの中のお家だから私住めないよ!? っていうか、その額をキャッシュで払うの強すぎでしょ……!」
気づけばハクの手元には、分厚いおもちゃの札束が山積みになっていた。
一方の私はというと。
「ちさ、この青いお札はなぁに……?」
「……それはね、『約束手形』っていうの。簡単に言うと『借金』よ……。はは、破産寸前だわ……」
「しゃっきん!? ちさ、大丈夫!? 俺のお金あげる! これ、全部あげるから元気出して!」
ハクが本気で心配そうな顔をして、山のような札束を私の前に差し出してくる。
なんというピュアさ。優しさが心に染みる。(大人の厳しさを教えよう……なんて、いきっていた自分が恥ずかしい!)
でもゲームだからルール上貰えないんだ、ごめんね。
「いいのよハク、お姉ちゃんのことは放っておいて……。これが勝負の世界の厳しさよ……」
その後も私はパッとしない人生を歩み、ハクは悠々と億万長者への道を突き進んだ。
そしてついに、2人ともゴール。
結果は――ハクの圧倒的大勝利であった。
「やったー! 勝ったー!」
両手をあげて大喜びするハク。
その頭を、私は複雑な気持ちで撫で回す。
「はいはい、ハクの勝ちね。運強すぎでしょ……。でも、楽しかった?」
「うん! すっごく楽しかった! ちさと一緒にぐるぐる回して、色んなお話するの、面白い!」
ハクは満面の笑みでそう言うと、私のパジャマの袖をぎゅっと握った。
「また明日も、ゲームしようね?」
「……うん、いいよ。次は『オセロ』でガチの頭脳戦やろうね。次こそは負けないから」
「おせろ? わかんないけど、受けて立つよ!」
時計を見ると、針はもう深夜の1時を回ろうとしていた。
引きこもり生活の中でも、こんなに充実して楽しい夜更かしは初めてかもしれない。
「よし、じゃあ夜更かしはここまで。ハク、寝る準備しよっか」
「うん! じゃあ俺、もふもふに戻るね!」
「わかってるじゃん。最高の抱き枕、よろしくね」
リビングの電気を消し、私たちは2人(1人と1匹?)でベッドへと向かう。
完璧な1日を締めくくるように、私は白銀の温かい毛並みに包まれながら、心地よい眠りへと落ちていった。
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




