第12話 ドローン偵察、不穏な影
ハクがこの家にやってきてから、数日が経った。
最初は現代日本の便利グッズに驚いてばかりだったハクだけど、今ではすっかり私の部屋に馴染みつつある。
しかしせっかく異世界にきたというのに、ずっと家に引きこもってばかりで外のことが何も分からない。
行動範囲は家の周りだけ、知っている景色は森の木々と葉っぱだけだ。
「『マイルーム』は無敵だけど、外の世界がまったく分からないのは、それはそれでちょっと心配よね」
人をダメにするソファに深く埋もれ、ポテトチップスをサクサクと食べながら、私は呟いた。
隣のクッションでは、ハクが私の膝の上に頭を乗せて、すっかり野生を忘れた顔でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「そとの世界……? ぼく、見たくない。お城の怖い人たちが追いかけてきてるかもしれないし……」
ハクが不安そうに、白い獣耳をピクンと伏せる。
「大丈夫よ。わざわざ外に出なくても、部屋の中から『安全に』覗き見すればいいんだから」
私は不敵に笑い、スマートフォンを手にした。
もちろん、使うのは『異世界ネットスーパー』だ。
画面をスクロールして、私はお目当てのものをポチる。
段ボールがポンッ!と音を立てて現れると、ハクが「あ、また手品だ」と慣れた様子で頭を上げた。
「ハク、これを見るのよ。これが現代日本の『文明の利器』、その名もドローン(ソーラー充電・カメラ・スマホ連動機能付き)!」
段ボールから取り出したのは、手のひらより一回り大きな、未来感あふれる黒いクワッドコプター。
そしてスマホの画面には、すでにドローンのカメラが捉えた我が家の様子がありありと映し出されている。
「うわぁ……ちさのスマホの中に、もう一個のちさの部屋がある……」
ハクが金色の目を丸くして画面を覗き込んできた。
「フフフ、これを使えばね、私たちは一歩も外に出ずに、この森の周辺がどうなっているか完全に把握できるってわけ。もちろん、お城の追手が来てないかも一発でわかるわ」
これぞ、安全・快適を極めた引きこもり流のスカウティングだ。
外出しなくていいという安心感からか、ハクの伏せられていた耳がぴょこんと立ち上がる。
「ちさ、これお空飛ぶの?」
「飛ぶわよ。しかもソーラー充電だから電池切れの心配もなし。じゃあ、さっそく発進!」
私がスマホの画面をスワイプすると、ドローンのプロペラが「ブゥーーン!」と軽快な音を立てて回転し始めた。
部屋の窓を開け、ドローンを外へと送り出す。
「わあ……! すごい、お空からの景色だ……!」
ハクが歓声をあげる。
画面には、私たちがいる小さな木造小屋を中心に、見渡す限りの深い緑の絨毯が広がっていた。
ドローンはぐんぐん高度を上げ、森の全貌を映し出していく。
「へえ、結構な大森林の中にいるのね、私たち……ん? あれは何かしら」
画面の端、森の境界線のあたりに、不自然に開けた場所が見えた。
カメラの倍率をズームしてみる。
「……町?」
そこにあったのは、レンガ造りの家々が並び、ファンタジー映画で見るような活気あふれる異世界の町だった。
露店が並び、人々が行き交っている様子が、超高画質カメラを通してはっきりと見える。
「ハク、見て。森を出てすぐのところに町があるよ」
「あ、本当だ……。あそこは、お城の人がいない町かなぁ」
ハクが画面を指差しながら、興味深そうに目を輝かせた。
最初は怖がっていたけれど、安全な画面越しなら、楽しいらしい。尻尾が小さくパタパタと揺れている。
「ふむふむ、あそこに行けば、この世界の情報や、もしかしたら異世界産の美味しい食材も手に入るかもしれないわね。……まぁ、行かないけど」
「いかないの?」
「当然でしょ。あんな人が多いところに行ったら、何に巻き込まれるかわかったもんじゃないわ。私たちはこの快適な部屋で、ネットスーパーのポテチを食べてるのが一番安全なの」
私がポテトチップスを口に放り込むと、ハクも「うん! ぼくもここがいい!」と嬉しそうに激しく同意して、私の服の袖にすり寄ってきた。
よしよし、これで大体の外の地理も把握できたし、パッと見る限り近くに危険な魔物もいなさそうだ。
定期にドローンで異世界探検するのも良いかもしれない。
そう満足して、ドローンを旋回させ、我が家へ戻そうとした、その時だった。
スマホの画面の隅に、何かが映り込んだ。
「……ん? なにかしらアレ……」
よく見てみると木々の隙間に、蠢くものが見える。
ズームしてみると、馬に乗った鎧姿の男たち――あきらかに、武装した騎士たちだった。
しかも、そのうちの一人が、何やら怪しげな魔導具のようなものを掲げ、まっすぐに私たちのいる方向を指差している。
ハクが画面を見て、体を硬直させた。
「……ちさ。あれ、お城の紋章……。ぼくを探しにきたんだ……!」
ハクの白い耳が完全にペタンと寝てしまい、小さな体が震え始めたのだった。
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




