最終話 引きこもりの楽園、これからも一緒
『聖獣の血痕がこの辺りで途絶えています!』
『必ず見つけ出せ! 聖獣を確保すれば、我が国は大陸一の軍事力を手に入れられるのだ!』
「ちさ、どうしよう……! 」
集音マイク付きのドローンから送られてくる騎士たちの音声を聞いて、ハクは怯えたように私の服の裾をぎゅっと握りしめた。
今にも泣き出しそうな金色の瞳で見上げてくる。
その震える体を守るように、私はハクの肩を優しく抱いた。
「落ち着いて、ハク。きっと大丈夫よ……」
いくら騎士団が全力で走ってきても、この深い森だ。
ここまで来るには、どんなに早くてもあと30分はかかるだろう。
それに……。
私はドローンを操作し、騎士たちの手元をアップにする。
先頭の男が掲げている魔導具は、コンパスのように針がぐるぐると回っていた。
けれどこちらに近づくにつれて、その針が不規則にブレ始めている。
やはり、恐らくは私の『マイルーム』スキルにジャミング的なものがあるのだろう。
私に害があると判断されたものを、このスキルが見逃すはずがない。
「ほら、見て。あいつら、ハクの魔力を追って森の近くまでは来られても、この部屋の位置を特定するのはきっと無理よ」
「……本当?」
「本当よ。それに、結界があるから大丈夫。だから、慌てて逃げ出す必要なんてないの」
ここでパニックになって部屋を飛び出す方がよっぽど危険だ。
「というわけでハク。敵が勝手に迷子になって諦めるのを、私たちは特等席で観戦しましょう」
「かんせん……?」
「そう。お茶の間トップシートよ。ネットスーパー、注文!」
私は画面を素早く操作し、引きこもり観戦セットをポチる。
ポンッ!と現れた段ボールから取り出したのは、炭酸強めのコーラと、日本の映画館でお馴染みの塩味とキャラメル味がハーフ&ハーフになった特大バケツポップコーン。
さらに、スマホのドローン映像を部屋の壁に大きく映し出すために、テレビにミラーリングする。
「さあハク、ソファに戻るわよ。ライブ配信の始まりだわ」
壁一面に大画面で映し出されるのは、鬱蒼とした森の中で、右往左往し始めた騎士団の姿。
案の定、彼らは魔力を辿れなくなったようで、完全に方向感覚を失っている。
さっきまでドヤ顔で魔導具を掲げていた隊長らしき男が、コンパスを何度も叩いて焦っている姿がドローンの超高画質カメラで丸見えだ。
「わあ……本当に、みんなウロウロしてる……。こっちに来られないんだ……」
ハクの顔に、ようやく安堵の色の混じった笑顔が戻った。
「でしょ? はい、これコーラ。シュワシュワするから気をつけてね」
「ん……、 ごくごく……あまい!シュワシュワしてて美味しい!」
ハクはすっかり恐怖を忘れ、ポップコーンを口へ放り込み始めた。
コーラを飲んで「はうぁ! お口がパチパチする!」と目を丸くしている。可愛い。
『おい、そっちじゃない! 右だ! いや、左か!?』
『隊長! 魔力探知機が完全にバグりました! この森、何かがおかしいです!』
騎士たちの情けない怒鳴り声がテレビを通して送られてくる。
『うわぁ! 馬が急に暴れ始めたっ! どうした!? 落ち着け!』
何かを感じ取ったのか、馬たちは騎士を振り落として森の出口を目指して走り去っていく。
『あぁっ……! 待てぇー!!』
『きっと恐ろしい何かがあるに違いないっ……! 退却だー!!』
それを追うように騎士たちは、蜘蛛の子を散らすように来た道を全力で引き返していった。
「……ぷっ、あははは! 何あれ、コントじゃん!」
私はポテトチップスをつまみながら、大爆笑してしまった。
冷房の効いた部屋で、コーラを飲み、ポップコーンを食べながら、悪い人(多分?)が自滅していくのを眺める――。
「……なんだかホームア〇ーンみたいね」
私は確信した。
ここは究極の安全圏。完璧な引きこもりの楽園。
「?? あろーん……? でも、ちさと一緒なら、外の人間たちも全然怖くないや!」
ハクはふさふさの白い尻尾をブンブンと激しく振り回し、今度は私の膝の上に完全に寝そべって、すっかりリラックスモードに入ってしまった。
「ぼく、ぜったいに外に出ない。ちさとここで、ずっと一緒に暮らす」
私はハクの頭をよしよしと撫でながら、内心「それってプロポーズってこと!?」と一人焦っていた。
どうやら外の世界では、聖獣を巡る血生臭い陰謀が渦巻いているらしい。
けれど、そんなものは知ったことではない。
私たちはこの『最強の引きこもり城』の中で、今日も今日とて、現代日本の便利さを享受しながら、自堕落な1日を過ごすのだった。
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




