表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/13

最終話 引きこもりの楽園、これからも一緒

『聖獣の血痕がこの辺りで途絶えています!』

『必ず見つけ出せ! 聖獣を確保すれば、我が国は大陸一の軍事力を手に入れられるのだ!』


「ちさ、どうしよう……! 」


 集音マイク付きのドローンから送られてくる騎士たちの音声を聞いて、ハクは怯えたように私の服の裾をぎゅっと握りしめた。


 今にも泣き出しそうな金色の瞳で見上げてくる。

 その震える体を守るように、私はハクの肩を優しく抱いた。


「落ち着いて、ハク。きっと大丈夫よ……」


 いくら騎士団が全力で走ってきても、この深い森だ。

 ここまで来るには、どんなに早くてもあと30分はかかるだろう。


 それに……。


 私はドローンを操作し、騎士たちの手元をアップにする。


 先頭の男が掲げている魔導具は、コンパスのように針がぐるぐると回っていた。

 けれどこちらに近づくにつれて、その針が不規則にブレ始めている。


 やはり、恐らくは私の『マイルーム』スキルにジャミング的なものがあるのだろう。


 私に害があると判断されたものを、このスキルが見逃すはずがない。


「ほら、見て。あいつら、ハクの魔力を追って森の近くまでは来られても、この部屋の位置を特定するのはきっと無理よ」


「……本当?」


「本当よ。それに、結界があるから大丈夫。だから、慌てて逃げ出す必要なんてないの」


 ここでパニックになって部屋を飛び出す方がよっぽど危険だ。


「というわけでハク。敵が勝手に迷子になって諦めるのを、私たちは特等席で観戦しましょう」


「かんせん……?」


「そう。お茶の間トップシートよ。ネットスーパー、注文!」


 私は画面を素早く操作し、引きこもり観戦セットをポチる。


 ポンッ!と現れた段ボールから取り出したのは、炭酸強めのコーラと、日本の映画館でお馴染みの塩味とキャラメル味がハーフ&ハーフになった特大バケツポップコーン。


 さらに、スマホのドローン映像を部屋の壁に大きく映し出すために、テレビにミラーリングする。


「さあハク、ソファに戻るわよ。ライブ配信の始まりだわ」


 壁一面に大画面で映し出されるのは、鬱蒼とした森の中で、右往左往し始めた騎士団の姿。


 案の定、彼らは魔力を辿れなくなったようで、完全に方向感覚を失っている。


 さっきまでドヤ顔で魔導具を掲げていた隊長らしき男が、コンパスを何度も叩いて焦っている姿がドローンの超高画質カメラで丸見えだ。


「わあ……本当に、みんなウロウロしてる……。こっちに来られないんだ……」


 ハクの顔に、ようやく安堵の色の混じった笑顔が戻った。


「でしょ? はい、これコーラ。シュワシュワするから気をつけてね」


「ん……、 ごくごく……あまい!シュワシュワしてて美味しい!」


 ハクはすっかり恐怖を忘れ、ポップコーンを口へ放り込み始めた。


 コーラを飲んで「はうぁ! お口がパチパチする!」と目を丸くしている。可愛い。


『おい、そっちじゃない! 右だ! いや、左か!?』

『隊長! 魔力探知機が完全にバグりました! この森、何かがおかしいです!』


 騎士たちの情けない怒鳴り声がテレビを通して送られてくる。


『うわぁ! 馬が急に暴れ始めたっ! どうした!? 落ち着け!』


 何かを感じ取ったのか、馬たちは騎士を振り落として森の出口を目指して走り去っていく。


『あぁっ……! 待てぇー!!』

『きっと恐ろしい何かがあるに違いないっ……! 退却だー!!』


 それを追うように騎士たちは、蜘蛛の子を散らすように来た道を全力で引き返していった。


「……ぷっ、あははは! 何あれ、コントじゃん!」


 私はポテトチップスをつまみながら、大爆笑してしまった。


 冷房の効いた部屋で、コーラを飲み、ポップコーンを食べながら、悪い人(多分?)が自滅していくのを眺める――。


「……なんだかホームア〇ーンみたいね」


 私は確信した。

 ここは究極の安全圏。完璧な引きこもりの楽園。


「?? あろーん……? でも、ちさと一緒なら、外の人間たちも全然怖くないや!」


 ハクはふさふさの白い尻尾をブンブンと激しく振り回し、今度は私の膝の上に完全に寝そべって、すっかりリラックスモードに入ってしまった。


「ぼく、ぜったいに外に出ない。ちさとここで、ずっと一緒に暮らす」


 私はハクの頭をよしよしと撫でながら、内心「それってプロポーズってこと!?」と一人焦っていた。



 どうやら外の世界では、聖獣を巡る血生臭い陰謀が渦巻いているらしい。


 けれど、そんなものは知ったことではない。


 私たちはこの『最強の引きこもり城』の中で、今日も今日とて、現代日本の便利さを享受しながら、自堕落な1日を過ごすのだった。

※この作品はaiちゃんとの共同作品です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ