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第6話 引きこもりの神器、ジャパニーズマンガ

 特大のクッションに埋もれて、私とハクはしばらく堕落した肉塊と化していた。


 エアコンの風が心地よく、このまま永遠に眠ってしまえそうな誘惑にかられる。


 しかし、真の引きこもりライフはここで終わりではない。


 むしろここからが本番だ。


「……ねえハク。人間をダメにする兵器を味わったところで、次なる『引きこもりの神器』を紹介するわ」


「つぎの、じんぎ……?」


 クッションに深く沈んだまま、ハクが首だけをこちらに向けた。

 お風呂上がりのふやけた顔がなんとも愛らしい。


 私は気合いでクッションから脱出し、読みかけていた漫画の単行本たちを持ってくる。


「……本?」


「ふふ、これはただの本じゃないの。日本が世界に誇る『マンガ』っていう、絵とお話が合体した魔法の書物よ」


 まずは初心者向けとして、日本で知らない人はいない王道の少年漫画の1巻を手に取る。

 そして、まだクッションから抜け出せないハクの目の前に差し出した。


「ほら、開いてみて。右の上から順番に、絵と文字の四角い枠を追っていくのよ」


「まんが……」


 ハクは恐る恐るそれを受け取ると、まるで古文書でも扱うかのような手つきでページをめくる。


「絵がいっぱい描いてある! ぼく、こんなの初めて見た……!」


「でしょ? セリフを読みながら絵を見るだけで、頭の中で物語がブワッと広がるのよ」


 ハクは夢中になってページをめくり始めた。


 最初はコマを読む順番に少し戸惑っていたけれど、数ページも読めばコツを掴んだらしく、食い入るように視線を走らせ始めた。


(……というか、今更だけど普通に日本語読めるのね。……『マイルーム』の効果で翻訳でもされてるのかしら?)


 細かいことはまあいいか、と自身も単行本の続きを読み始める。


 時々ハクの様子を伺ってみると、頭の白い獣耳がページをめくるたびに嬉しそうにピコピコと跳ねている。


 どうやら主人公が修行をして強くなるシーンでは耳がピンと立ち、ピンチになるシーンでは少しへたれるようだ。


 感情が耳に丸出しなのが、見ていて飽きない。


 静かな部屋に、パラ、パラ、と紙をめくる心地いい音だけが響く。


 ハクが1巻を読み終えて、2巻に手を伸ばそうとした時だった。

 ふと動きを止め、自分のクッションを見つめてから、私の方をチラリと見た。


「ちさ……」


「ん? どうしたの? 面白くなかった?」


「ううん、すっごく面白い! 面白いんだけど……」


 ハクはモジモジと白い尻尾を揺らした。


「このクッション、すっごく気持ちいいんだけど、一人で座ってると……ちょっとだけ、寂しい。……ちさの近くで、一緒に読みたいなぁって……」


 ……待って。


 お風呂上がりのケモ耳美少年にそんな上目遣いで言われたら、前世で死滅したはずの元OLの心臓が爆発してしまう。


「い、いいよ! 狭いかもしれないけど、私のクッションに来る?」


「うんっ!」


 ハクは嬉しそうにパッと表情を輝かせると、大事そうに漫画を抱えたまま、私の座る特大XLサイズのクッションへと這いつくばって移動してきた。


 ズサァ……と2人分の体重がかかり、クッションがさらに深く沈み込む。


 ハクは私のすぐ隣、肩がぴったりと触れ合う距離にすっぽりと収まった。


 お風呂上がりの爽やかなシャンプーの香りと、ハクの体から伝わってくるぽかぽかとした体温が、ダイレクトに私を包み込む。


「えへへ、ちさ、あったかいね」


「そ、そうね……(尊さで息ができない)」


 ハクは満足そうに笑うと、私の肩に自分の頭を預け、再び漫画に熱中し始めた。


 至近距離でハクの綺麗な横顔と、ふわふわの獣耳が見える。

 この距離は、精神衛生上かなり刺激が強いけれど……最高だ。


「ねえちさ、この主人公、お友達のためにこんなに怒って戦うんだね。すっごくかっこいい……」


「そうよ、それが日本の『友情・努力・勝利』よ」


「ゆうじょう、どりょく、しょうり……いい言葉だね。ぼくずっと一人だったけど……今はちさがいるから、この主人公の気持ち、ちょっとわかる気がするな」


 ハクは漫画を見つめたまま、ぽつりとそう呟いた。


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 前世で理不尽なサビ残に耐え、孤独に生きていた私にとっても、今この部屋でハクと寄り添っている時間は、何物にも代えがたい救いだった。


「ハク、その漫画はまだまだ続きがあるからね。好きなだけ読んでいいんだよ」


「本当!? じゃあ、ぼく、夜になるまでずっと読んでる!」


 そう言って、ハクはパタパタと嬉しそうに尻尾を振った。

 その尻尾が、私の足元に優しく巻き付く。


 理想の住まいに、のんびりな暮らし。

 そして、隣にいる可愛いらしい犬系男子(狼だけど)。


 外界の面倒なことなんて、全部この結界の外に放り出してしまえばいい。


 私は、ハクとの自堕落で最高に幸せな『絶対引きこもり領域』の沼へと更に沈んでいくのであった。

※この作品はaiちゃんとの共同作品です。

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