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第4話 美少年の胃袋を掴め! 異世界パンケーキ祭り

「……あの、とりあえず。その握りしめてる私のパジャマの袖、離してもらっていいですかね?」


 ベッドの上で正座した私は、必死に平静を装いながら、目の前の美少年に語りかけた。


 少年――いや、頭のピコピコ動く獣耳と、お布団からハミ出ているふさふさの尻尾を見るに『人型になった昨日の狼』は、金色の瞳をパチくりとさせた。

 

 そして、さらにぎゅっと私の袖を引っ張る。


「やだ。ちさ、あったかい。いい匂いする」


「おごっ……!」


 破壊力が。

 破壊力がカンストしている。

 

 ブラック企業のサビ残で心がカサカサに乾ききっていた20代後半のOLに、そんな純度100%のきゅるんとした上目遣いは劇薬だ。心臓が痛い。


「というか、君、なんで人間の姿になってるの? 昨日はおっきい狼だったよね?」


 私が尋ねると、少年は自分の白い尻尾をパタパタと振りながら、不思議そうに首を傾げた。


「お肉食べて、ちさの部屋で寝たら、魔力が回復したの。だから、こっちの姿になれた。ぼく、ハク。ちさのご飯、すっごく美味しかった」


「そ、そうなんだ……。ハク、ね……。よろしく……」


 どういう原理か全く理解できないが、恐らくこれ以上突っ込んだところで無駄だろう。


 異世界だし……。もうなんでもいいや……。


 そんな風に現実逃避をしていると、ハクのお腹が「きゅるるる〜」と盛大に鳴った。


「……とりあえず朝ご飯ね。そこで待ってなさい」


 私はベッドから抜け出し、キッチンへ向かった。

 

 ハクは「待て」が出来ないようで、ダボダボのパジャマ(裸のままだと色々とまずいので無理やり着せた)の裾を引きずりながら、ちょこちょこと後ろをついてくる。


 その姿は、完全にカルガモの雛だ。


 可愛すぎてちょっと許せてしまうのが悔しい。


「ハク、甘いものは好き?」


「あまいもの? 食べたことない」


「よし、決まり」


 私はスマホを手に取り、『異世界ネットスーパー』を開く。


 今日のメニューは、王道のパンケーキ(ホットケーキ)だ。


 画面をタップし、ホットケーキミックス、ケーキシロップ、ホイップクリーム、そしてハク用の100%果汁オレンジジュースをまとめてカートに入れる。


 注文を確定すると直ぐに、段ボールがポンッ!と現れる。

 ハクは「わあ、手品!?」と目を輝かせて拍手してる。可愛い。


「見てなさい。現代日本の技術ホットケーキミックスの恐ろしさをね」


 ボウルに粉と卵、牛乳を入れて混ぜ、バターをひいたIHのフライパンに流し込む。

 しばらくすると、表面にぷつぷつと小さな泡が出てきた。


「ハク、ここからが魔法だよ。せーの……」


 フライ返しで、一気にひっくり返す。


 綺麗に、ふっくらときつね色に焼けたパンケーキの裏面がお目見えした。


「すごーい! お日様みたい!」


 ハクが歓声をあげる。


 そうやって手際良くパンケーキを焼いていき、お皿に3枚ほど重ねたら、仕上げにバターをひとかけ。


 その上から、黄金色のケーキシロップをこれでもかと、とろ〜りと回しかける。

 最後にホイップクリームを山盛りに添えて完成だ。


「はい、召し上がれ」


 ハクの前に差し出すと、彼はフォークを使い(狼なのに器用だ)、小さく切ったパンケーキを口に運んだ。


「……っ!!」


 ハクの体が、びくっと硬直した。


 次の瞬間、金色の瞳が信じられないほど大きく見開かれ、ふさふさの白い尻尾が高速で左右に振られ始める。


 フローリングに尻尾がバシバシと当たる小気味いい音が部屋に響いた。


「なにこれ……! ふわふわで、お口の中がぽわぽわ……! すっごく甘くて、幸せな味がする……!!」


 ハクはガツガツとパンケーキを口に放り込み始めた。


「美味しい、美味しい!」と、頬にクリームをいっぱいつけながら食べる姿は、もはや天使のそれである。


「ゆっくり食べなさい。喉に詰まらせるわよ」


 私は苦笑しながら、自分の分のコーヒーをすする。


 美味しいパンケーキを食べて、可愛いケモ耳少年が目の前で大喜びしている。

 ……うん、これはこれで、最高の引きこもりライフかもしれない。



 ハクが自分の分のパンケーキを綺麗に平らげ、オレンジジュースを飲み干したところで、私は気になっていたことを聞いてみることにした。


「ねぇ、ハク。昨日、なんであんな大怪我してたの? どこから来たの?」


 その問いに、ハクはジュースのコップを持ったまま、少しだけ寂しそうに視線を落とした。


「……ぼくね、森の向こうにあるおっきいお城から逃げてきたの。悪い人間たちが、ぼくの『力』を奪おうとして、たくさん攻撃してきたから。必死で走って、この森に逃げ込んだんだけど……力尽きちゃって」


「お城……悪い人間……」


 その言葉に、私の脳裏に不穏なテンプレがよぎった。


 白銀の美しい狼、人型になれる獣人、そして規格外の魔力。


(これ、絶対にどこかの国の『聖獣』とか『希少な血を引く王族』とか、そういう系のめちゃくちゃ面倒くさいやつじゃん……!)


 関わったら最後、国家間の争いやトラブルに巻き込まれる一等賞の案件だ。


 一気に冷や汗が流れる。

 私は、エアコンの効いた部屋でダラダラと漫画を読みたいだけの元社畜なのだ。


 顔色の悪くなった私に気づいたのか、ハクは急に不安そうな顔になり、私の手をきゅっと握りしめてきた。


「ちさ……ぼくのこと、嫌い? 追い出す……?」


 捨てられた仔犬(狼だけど)のような目で、今にも泣き出しそうなハク。

 

 その手を、私は振り払うことができなかった。


(……まぁ、いいか)


 私はハクの頭の白い獣耳を、思いっきりわしゃわしゃと撫で回した。


「追い出さないわよ。私の『マイルーム』の結界は無敵だからね。お城の人間が来ようが、何が来ようが、この中には一歩も入れさせないわ」


「本当……!?」


「本当よ。だからハク、ここを私たちの『絶対引きこもり領域』にしましょう。働かなくていい、美味しいものを食べて寝るだけの楽園よ」


「うん! ぼく、ちさとずっと一緒に引きこもる!」


 ハクは満面の笑みで私に抱きついてきた。


 こうして、お疲れOLと訳ありケモ耳美少年の、一歩も外に出ない『引きこもり同盟』が結成されたのだった。

※この作品はaiちゃんとの共同作品です。

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