第2話 森の恵みと異世界ネット通販の無敵コンボ
異世界引きこもり生活、記念すべき一日目の翌朝。
私は、高級ホテルのようなフカフカなダブルベッドの中で、ぐっすりと眠っていた。
「……うぅん」
カーテンの隙間から差し込む、柔らかな太陽の光。
それに促されるように、ゆっくりと目を覚ました。
(……あ、やば。今何時!? 遅刻する――!)
ガバッと跳ね起き、咄嗟にスマホを探す。
「あ……」
だが、いつもの見慣れたワンルームではない風景が、ここが異世界であることをすぐに思い出させる。
そうだ。
私は昨日、異世界にトリップしたんだっけ。
もう怒鳴り散らす上司もいないし、理不尽なクライアントからの電話もかかってこない。
もちろん、仕事に行く必要もないのだ。
「……最高か」
私は再びベッドに倒れ込み、ゴロンと寝返りを打った。
二度寝の背徳感と幸福感で、脳から変な汁が出そうだ。
お腹が「きゅ〜」と可愛らしく鳴る。
「おなか減った……。そういえば、こっちに来てから何も食べてなかったっけ……」
昨日はお風呂を堪能したあと、そのままベッドにダイブしてしまった。
今までの少なかった睡眠時間を取り戻すかのように爆睡したのだ。
「よし、異世界初のご飯にしよう」
ベッド脇の収納に用意されていた部屋着に着替え、キッチンへ向かう。
そしてスマホを手にすると、昨日見つけたアプリ『異世界ネットスーパー』を起動した。
「本当に届くのかな……。とりあえず、基本の朝食セットで」
画面をポチポチとタップし、今まで手を出したことのない最高級ホテル食パンや北海道産の高級バター、そしてエスプレッソマシン用の専用カプセルをカートに入れ、確定ボタンを押す。
【お買い上げありがとうございます】
すぐに画面にメッセージが表示され、ポンっ!と目の前に段ボール箱が現れた。
「早っ!?」
封を開け確認してみると、ひんやりと冷えたバターに、まだ小麦の良い香りがする食パン、そしてコーヒーのカプセルが入っている。
本当に注文通りに届いている。
神様、ありがとう。一生ついていきます。
「よし、まずはコーヒーの準備からだな」
さっそく届いた専用カプセルをエスプレッソマシンにセットし、電源を入れる。
「マシンの準備ができるまで、ちょっと外の空気でも吸おうかな」
私はドアの外へ一歩足を踏み出す。
マイホームの周囲は、相変わらず静かな緑の森だ。マイナスイオンが凄い。
ふと見ると、家のすぐ裏手に、たわわに実をつけた奇妙な木が生えていた。
イチゴのような形をしているのに、大きさはリンゴほどもある、真っ赤な果実。
「何これ、美味しそう……」
手を伸ばして一つ摘んでみる。
すると半透明の画面がポップアップして情報が表示される。
『【ルビーベリー】
極上の甘みを持つ、栄養満点の野生果実。
【毒】なし。 』
「うわ、便利。鑑定も出来るんだ。これ絶対にジャムにしたら美味いやつじゃん」
社畜時代、自炊をする心の余裕なんてミリもなかった。
けれど今の私には、無限の時間とピカピカのキッチンがある。
部屋に戻った私は、摘んできたルビーベリーをザクザクと刻み、ホーローの鍋に入れた。
そこにネットスーパーで取り寄せたグラニュー糖とレモン汁を投入し、弱火でコトコトと煮込んでいく。
部屋中に、ベリーの甘酸っぱい香りが満ちていく。
木べらでゆっくりと混ぜているだけで、心がじんわりと解けていくのが分かった。
「よし、ジャムがいい感じだから、一気に仕上げちゃおう」
キッチンに備え付けのトースターに高級食パンを滑り込ませ、タイマーを回す。それと同時に、予熱の終わっていたエスプレッソマシンの抽出ボタンを押し込んだ。
ヴィィィン……と心地いい低音が響き、部屋の中に濃厚なコーヒーの香りが広がっていく。
そして間もなくしてトースターからも、チーン、と小気味いい音が響いた。
こんがりときつね色に焼けた高級食パンに、まずはバターをたっぷりと塗る。
その上に、出来立て熱々の、宝石のように輝く自家製ベリージャムを、これでもかと贅沢に乗せた。
「いただきます……!」
大きく一口、かじる。
サクッ。
「――っ!!!???」
脳天を突き抜ける美味さだった。
小麦の香ばしさとバターの塩気、そしてベリーの甘みと程よい酸味が、口の中で完璧なハーモニーを奏でている。
「美味い、美味すぎる……! 何これ、信じらんない……!」
お行儀悪く、キッチンに立ったまま2枚目の食パンにジャムを塗りたくる。
淹れたてのコーヒーをすすると、苦味がジャムの甘さを引き立てて、もう手が止まらない。
気づけば、食パン3枚をペロリと平らげていた。
「ふぅ……」
コーヒーを片手に、リビングのソファに深く体を埋める。
窓の外には、美しい異世界の森。部屋の中は、エアコンの効いた快適な室温。
美味しいご飯を食べて、ただぼんやりと外を眺める。
前世では絶対に許されなかった『何もしない時間』が、ここにはあった。
「うん。やっぱり私は、ここから一歩も出ないぞ」
そう新たに決意を固める。
この時の私は、まだ知らなかった。
部屋に漂うジャムの甘い香りが、森で飢えていた『とんでもない生き物』を呼び寄せてしまっていることに――。
※この作品はaiちゃんとの共同作品です。




