飛行で登山
今日こそ、挑戦しよう。
前世でもあまり経験のない登山に。
しかも、そこら辺の山ではない。
目を疑いたくなるほど見上げる標高の山だ。
もしかしたら、富士山より高いなんてことがあるかもしれない。
考えすぎかもしれないが、それほど大きく見える。
そろそろ挑戦した方がいいと感じた。
ドラゴン討伐から数日が経過したが、今日だと思った。
生後まだ一か月も経っていないが、もう僕は子竜ではなく、小竜だ。
もう赤子ではない。
小さいだけのドラゴンで、成体にも勝利した。
強さは、十分のはずだ。
それに飛べるので人間が登るのとは、訳が違う。
一番の懸念点は、魔物だろう。
山の環境は過酷でそこに住む生物だって、強くなるはずだ。
あのドラゴンより強い個体だっているかもしれない。
そこは、逃亡も視野に入れるとしよう。
僕は、確かな挑戦の意思を持って、頂上を目指し、飛び出した。
◆ ◆ ◆ ◆
山に生える木々を見る。
その中には、ヒコの実も存在する。
やはり、この木が覇権をとっているのだろう。
僕は、速度を上げるために上昇する。
僕が編み出した加速の方法は、【落下加速】で加速し、そのまま滑らかに前進していくという方法だ。
これを考えついて、習得するには、時間がかかった。
戦闘中は、できないので移動時限定だ。
進んでいると魔物を発見する。
一目で魔物だと解る。
それは、前世の既存の生物で似ている脊椎動物がない。
単細胞生物によく似ているが、サイズは、陸上生物と同じくらいだ。
ファンタジーでいうところのスライムだ。
液体のようにウネウネと動き、形を保っている。
【解析】を発動させる。
・ステータス・
名前「なし」
種族「増殖粘性体」
EXスキル・【再生】【衝撃耐性】【酸性体】
達成・なし
状態・なし
見慣れないスキルも所持しているが、スライムのイメージにはピッタリだ。
【再生】は、おそらく回復の効果だろう。
そして、【酸性体】だが、体が酸性の液体になるというものではないだろうか?
スライムならではのスキルということだ。
僕は、空中から「風刃」を放つ。
スライムを二手に分割する。
その瞬間、まずいと思った。
スライムならば、二体に分裂するのではないかと思ったのだ。
しかし、僕の予想は、裏切られた。
別れた二つは、その場でくっつき元に戻ったのだ。
分裂が無かったのはいいが、厄介なことが伝わった。
まず、スライムへ物理攻撃は、できない。
触れた瞬間、溶ける可能性があるからだ。
そして、僕の主な遠距離攻撃である魔法は、今、防がれた。
こうなれば、上空から「竜砲」が最適だろう。
あれなら熱で一発。
確殺だ。
僕は上昇しようとする。
しかし、スライムが奇妙な動きをする。
上部を伸ばして、振り回すように動かす。
遠心力でさらに伸ばされる。
そして勢いが乗った時、その先端は千切れる。
その千切れた部分は、僕に命中する。
まじかよ。
身体に絡みついてとれない。
僕は、そのまま落下する。
熱い。
これは、体が溶かされていく。
幸いなことは、別れた部分は、意思を持って動かないということくらいだろうか。
今は、それどころではない。
〈EXスキル【溶解耐性】を獲得しました〉
少し、和らぐが付け焼刃だ。
僕は、落下しながら「竜砲」をチャージする。
こうなれば、着地と同時に撃つしかない。
スライムが着地と合わせて、落下地点へ突っ込む。
着地を狩るためだ。
普通の生物ならそこで完全に溶かされるだろう。
僕は、「噴出推進」で着地を遅らせた。
誰が正直に突っ込むものか。
僕は、口から熱線を放つ。
スライムは、熱によって急速に蒸発する。
僕は、遅れて地面に激突する。
耐性系のスキルによって、ダメージはほとんどない。
酷い目に遭った。
一部、軽い火傷のような状態だ。
鱗があって本当に良かった。
僕は少し、休憩してから再び飛び立つ。
翼が溶けなくてよかった。
溶けていたら頂上まで何日かかっただろうか?
考えない方がいいな。
うん、気にしない、気にしない。
しばらく飛ぶと腹が減る。
大した空腹ではない。
できれば、何か食べたいなぁ、くらいの気持ちだ。
僕は、地上に下りてヒコの実を探す。
適当に目を向けた方向にヒコの実が成っている。
さすがヒコの実だ。
僕は、ササっと採取して食べる。
地面でのんびりと。
周囲に魔物は、確認できない。
【空流感知】には、一切引っかからない。
だからこそ予想外だった。
地面が隆起する。
僕は、すぐさま空へ逃げた。
地面から飛び出たのは、大きいトカゲだろうか?
ドラゴンではない。
【解析】では、堀土蜥蜴と表記されている。
地の爬虫類というわけか。
空に逃げれば、脅威ではない。
僕は、地上を見下ろす。
そして、「風刃」を放つ。
アースリザードは、土の塊を僕へ向けて、放ってくる。
うっとうしいが、当たらなければ大したものではない。
何より、あいつは下から放っているから避けやすい。
ここは、【空流感知】で避けて、熟練度でも稼がせてもらうとしよう。
僕は、目を閉じて、【空流感知】に全て委ねる。
発射位置から場所を予測して、「風刃」も放つ。
相応の成長が期待できるだろう。
しばらくして、僕の放った「風刃」がアースリザードに止めを刺す。
それなりの時間がかかったが、その分【空流感知】の熟練度が3となった。
範囲と精度が向上した。
いい機会だった。
アースリザードに感謝しなければいけないな。
僕は、感謝しながらその場を飛び去った。
そしてすぐにまた腹の虫がなった。
夢中になって忘れていたことを思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆
食事を済ませて、改めて飛び立つ。
それなりに登って来たが、やっと半分だろうか?
景色が綺麗だ。
葉の生い茂った木々が小さく、そして埋め尽くしている。
風景画とか、絶景の写真みたいだ。
だが、現実で見るものは違う。
十分すぎるほどに美しいのに少し期待外れと感じてしまう。
知ってしまったらそこまで、それ以上はない。
しかし、だ。
半分でこの景色だと、頂上ではいったいどんな感動が待っているのだろうか。
僕は、期待を膨らませる。
足取り――――――ではなく、飛行速度を上げる。
気分も乗って来たし、何か戦いたいところだ。
僕は、高度を下げ、地面を注視する。
魔物がいないのか、探す。
【風流感知】で大抵の生物は、感知できる。
地中は無理だが、大した問題じゃない。
僕は、探す。
僕は、一瞬だけ違和感を覚えた。
対象は、通り過ぎた岩だ。
ほんの僅かな、動きを感じた。
勘違いならば、それでいいのだが。
僕は振り返り、魔法を放つ。
命中し、岩を傷つける。
血が吹き出たり、動きだしたりはしない。
思い違いだったか。
僕がそう考えた瞬間、岩が動き出した。
僕の違和感は、正しかったようだ。
・ステータス・
名前「なし」
種族「岩石甲亀」
EXスキル・【衝撃耐性】【地属性耐性】【損傷耐性】【空腹耐性】【恐怖耐性】
達成・なし
状態・良好
亀だったのか。
正確には、亀のような魔物だが、どうでもいい。
遅れて、ロックタートルの短い手足や頭部が現れる。
僕は、すぐに『竜砲』を溜め始める。
一撃で終わらせる。
地面が盛り上がる。
下から何かくるのかと考えたが、構えを変えない。
地面は、隆起しただけだった。
何かが飛び出すわけでもない。
僕は、必殺の一撃を放つ。
ロックタートルに直撃する。
甲羅の岩に当たり、溶かす。
打ち終わると、焦げた肉の匂いがした。
ロックタートルは、半分ほど消し飛んで一部炭化している。
そして、炭化を避けた部分は、程よく焼けていた。
僕は、久しぶりに火の通った物を食べた。




