ドラゴン
水が絶え間なく流れる川。
普段、水飲み場や水浴びに利用している川だ。
今日の用事は、そのどちらでもない。
昨日の後悔から成長するため川にて魚を捕る。
無論、難しい。
水中は、動きづらいし、ドラゴンという種は、川で動くことに向いていない。
仕方がなく、スキルに頼る。
試行錯誤の末、風魔法で何とか二匹を捕ることに成功する。
難易度は、ジャンプラビットより高いが、こっちの方が美味しそうだ。
僕は、丸かじりする。
全然、味がいい。
前世では、生魚の丸かじりで感動するなんて、想像もできなかった。
そして、付け合わせにヒコの実を食べる。
苦いが、全然いい。
僕は、歓喜しながら食事を終えた。
◆ ◆ ◆ ◆
さぁ!
テンションが上がって来た。
ドーパミンとかいう物質を感じる。
実際、詳しいことは知らないが、感じる気がする。
今日は、空を飛び、僕の生まれた場所について調査する。
僕の生まれた正確な場所は、あの岩場だ。
そして、周囲は木々に囲まれていて、離れた場所に川が流れている。
それだけの情報しかない。
そこで地の利を確保する、また埋めるために地元について知るのだ。
僕の移動手段は、空だ。
だからこそ、容易に行える。
脳内に大まかなマッピングを始める。
自身の生まれた岩場を起点に考える。
長距離を飛行し、僕は一つの発見をした。
今まで遠くに見えていた山があった。
横に長く標高の高い山だと思った。
しかし、周辺を旋回して正確に視認した今ならその全貌が解る。
山は、ただ横に長いわけではない。
周囲を囲むようにして続いている。
つまり、この僕いる場所は、窪地だということだ。
カルデラのような地形だ。
まるで壁のようでこの場所を隔離しているように思える。
外があるのだろうか?
あった方が面白い。
つまり、ある。
いつか、挑戦しに行くのもいいかもしれない。
登山ならぬ、高度飛行に。
案外、できそうだ。
麓までは、見に行ってもいいかもしれない。
新しい、食料だって見つかるかもしれない。
例えば、甘い果実とか。
そう簡単に見つけられるはずもないが、ゼロではない。
可能性がある限り、挑戦する意味がある。
近寄るにつれて、山の大きさが現実味を帯び始める。
これほどの山は、前世でも見たことがない。
飛んでいるというのにまだ見上げている。
圧倒されながら僕は、高度を落として、木を見始める。
多くは、実もつけない木だが、所々にヒコの実がなっている。
もしかして、この木が覇権をとっているのだろうか?
だから、栄養たっぷりなのか?
そんなことを考えていると突然、異様な気配を感じとる。
銃を突きつけられるような王手をかけられたようなそんな緊張感。
こんなことは、前世も含め経験がない。
もう死ぬような気分だ。
一度死んでいるはずだが、自覚がないので本当に生命の危機を感じる。
〈EXスキル【恐怖耐性】を獲得しました〉
その恐怖は、スキルを獲得するに至った。
少し心に落ち着きを取り戻す。
しかし、緊張感は、未だ続いている。
すぐにもその恐怖の根源を探す。
感じ取れていたため、位置は嫌でも解った。
そこには一体の大型生物がいた。
赤い鱗に全身を覆われ、鉄壁の守りを誇っている。
口からは、牙が見え、鋭く光りを反射する。
その背には、翼竜の持つような羽が生えている。
全体を見れば、それは爬虫類や恐竜に似ているが、そのどちらとも違う。
僕がこの世に生まれて、初めて見た生物。
同時に僕が一番好きな空想上の生物だった。
今や異世界に来たことで存在する現実の生物だ。
僕は、それに興奮し、歓喜する。
生物としての生物本能も振り切る。
僕の目には、一体の正真正銘、ドラゴンがいた。
思えば、この世界には、ドラゴンが生息している。
この僕がそうなのだから当然だ。
しかし、どこか遠い場所のようなことのように考えていた。
考えてみれば、近所なのだ。
だから、この出会いも必然だった。
僕は、感情を抑えて、遠くから観察する。
今、目の前に出ていったらまず間違いなく殺される。
次は、転生できるのかも解らない。
転生できたとしてもせっかくドラゴンになれたのだ早々に退場などゴメンだ。
僕は、ドラゴンに対して【解析】を使用する。
・ステータス・
名前「なし」
種族「竜」
EXスキル・【飛行補助】【衝撃耐性】【落下耐性】【空腹耐性】【生物感知】
固有能力・【竜】
達成・なし
状態・良好
耐性が多い。
そして、一つだけの固有能力。
種族を体現するかのような名だ。
できることなら機能も知りたかったが、どうやら他者のスキルは、確認ができないらしい。
火でも吹けるのだろうか?
とにかく、今はその姿が拝めただけで十分だ。
僕は、その場を名残惜しい限りだが、去ろうとする。
いつか、挑むことを心に誓い、離陸する。
いやー、いいものが見られた。
さっさと切り替えて、魚でも捕りに行くとしよう。
僕は、呑気にそんなことを考える。
しかし、一つの違和感が残る。
緊張感が引きずられている。
まるでまだ、近くにいるような――――――むしろ凝視されているような、そんな感覚が今も………………
そこまで考え、嫌な予感がして、振り返る。
そこには、恐ろしい形相で殺意を放つ一体のドラゴンが飛んでいた。
◆ ◆ ◆ ◆
僕の脳内は、一瞬で切り替わる。
呑気な食べ物のことを考える脳から生存を最優先する脳へ、チェンジする。
何故だ?
何故、追って来た?
そして、バレていたのか?
【生物感知】とは、もしやと思ったが、そういうものだったというのか!?
思考をフル回転させる。
そんなことは、今考えるべきことじゃない。
僕は、ドラゴンを視認する。
動きを見て、できるだけ早く反応するためだ。
その直後、前足が動き出す。
助走をつけるように振りかぶられる。
僕は、咄嗟に逸れる。
先ほどまで自分がいた空間にドラゴンのナイフのような爪の付いた巨大な手が通過する。
一つ行動を誤れば、死ぬ。
僕は、そう確信し、地上へ下りる。
空中では、速さで負けている。
追いかけて追いつかれたのだから。
地上ならば、木々が障害物となる。
僕は、小回りが利くが、相手はそれができない。
僕は、森へ逃げて木々の間を縫うように飛ぶ。
対するドラゴンは、あとを追うため木々を巨体でなぎ倒している。
こちらが有利だが、すぐには引き離せない。
段違いの速度と馬力だ。
僕は、一瞬考えた。
このままならば、引き離せると。
ドラゴンの口が構えられる。
その方向は、一直線に僕へ向けられている。
口の中が発光する。
熱線のような光だ。
そして、間がある。
何かを溜め、蓄積するように時間をかける。
そして、口が開かれる。
僕は、木々の隙間からそれを見たが、ただならぬ空気を感じた。
【空流感知】とか、スキルではない。
そういうものではなく、勘だ。
これが生存本能なのかもしれない。
放たれたのは、光線だった。
実際は、高密度のエネルギーかもしれない。
とにかくそういうレーザーのようなものだ。
それは、射線上に存在する物体を高熱で焼き尽くす。
炭化。
そして瞬時に灰になる。
それは、一生物が放てるものではなかった。
兵器同然だ。
僕は、「噴出推進」で緊急回避する。
スレスレだ。
間一髪。
紙一重。
死にかけた。
しかし、これで解った。
こんなことができるのなら逃げ切ることは、まず不可能だ。
どうにかして倒さないと、そのまま死ぬ。
僕は、飛ぶ方向を変え、旋回した。
ここからは、命賭けの下剋上だ。
僕は、ドラゴンに向かって行った。
「風刃」を放つ、そしてすぐにその場から離れる。
唯一勝っている部分だ。
しかし、鱗に阻まれて大した損傷にはならない。
一番、この状況で問題なのが、周囲の木々をなぎ倒されて徐々に障害物が減らされているのだ。
開けた場所では、本当に勝ち目など無いに等しくなる。
爪を避けて、木の陰へ逃れる。
時折、方向を変え、ドラゴンを翻弄する。
攻撃だって、工夫している。
ある一点を集中して、狙っている。
鱗が薄い部分。
喉元あたりだ。
急所。
何故、そんな場所の防御が疎かなのかは、謎だ。
しかし、一撃一撃が累積し、鱗を破壊する。
後は、その部分から攻撃を通すだけだ。
僕が勝ち目を見いだせた時、ドラゴンの行動が変化する。
積極的に攻撃を行っていたのにその手を止め、離陸する。
空を目指して上昇する。
一体何をする気だ?
ドラゴンは、あっと言う間に遥か高くへ到達する。
そこで停滞し、構える。
地上を見下ろすような姿勢。
太陽が重なり、詳しい情報が手に入らない。
眩しい。
………………?
何故、影にならない?
あの大きさなら影くらいは、見えてもいいはずだ。
そこで僕は、気が付いた。
ドラゴンが発光すること、それはついさっき見たのだ。
僕は、全力で回避行動を取ろうとする。
上空のドラゴンから放たれたのは、熱線。
それは、まるで太陽から放たれた熱の一部のように地上へ降り注がれた。
木々を焼き払い、地面を溶かした。
ドラゴンは、勝ちを確信する。
【生物感知】の範囲外だが、逃げられないだろうと。
そんなことを考えているんだろうな。
僕は、天高くドラゴンより高く飛び上がっていた。
〈アチーブメント〔紙一重〕を達成しました〉
ギリギリの回避だった。
熱が少し伝わって来た。
しかし、僕は生きている。
ここからは、反撃だ。
ドラゴンは、こちらに気が付き、向き直る。
もう遅いかもしれないぞ?
僕は、「鷹竜の降下爪撃」を放とうとする。
いや、ダメだ。
まだ、威力が欲しい。
僕は、「風刃」を『風流操作』で自身に纏わせる。
己が風となる勢いだ。
ドラゴンも正面から向かってくる。
僕も正面から向かう。
攻撃を放つんじゃあない。
僕そのものが攻撃の一手であり、弾丸のようなものだ。
名前を考える。
単純な名前だ。
自分が成ること、そして「風刃」のようであることから「風刃・己」と名付けよう。
我ながら、ゴミのようなネーミングセンス。
僕は、そのまま加速していき、ドラゴンの喉元を掻っ切った。




