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後悔

 体を川で洗い、体に付着した血液を落とす。

 水は、美味しい。

 肉と比べれば、最高の味だ。

 あと、ヒコの実もだ。

 やはり、主食は揺るがない。

 地位を確立している。


 さて、僕も多少は、戦えるようになった………………はずだ。

 今のところ、ジャンプラビットを奇襲で仕留めただけだし、戦闘など行っていない。

 そもそも生き物をジャンプラビット以外見かけていない。

 機動力も上がったし、探しに行くとしよう。


 僕は、上空から地上を見下ろす。

 木々が不規則に並んで生えている。

 あまり見やすいとは、言えないかもしれない。

 葉と葉の隙間から見えることは見えるが、それは白くて目だったり、探すものの見た目が解っていなければ厳しい。

 やはり、葉より低い低空飛行の方が良さそうだ。

 僕は、高度を落とす。

 確認できる範囲は狭くなったが、やはりこの方がいい。


 僕は、飛び進める。

 木々の間を飛行する。

 【空流感知】は、便利で木々が密集していても安全に飛べる。

 大雑把に木があるというだけを感じとるだけなら頭を酷使する必要もない。

 僕は、飛行を楽しみながら探す。




 発見した。

 新たな生物だ。

 こげ茶色の毛並み。

 丸みを帯びた体格。

 牙。

 鼻が大きいのも特徴だ。

 前世で最も近い生き物は、猪だ。

 早速、【解析】する。


 ・ステータス・

 名前「なし」

 種族「突猪(ドンボア)

 EXスキル・【衝撃耐性】【猪突猛進】

 達成・なし

 状態・良好



 なるほど、やはり猪だと考えてよさそうだ。

 観察するかぎり、突進、体当たりが主だ。


 僕は、先制をとるために上空から「鷹竜の降下爪撃(イーグル・クロー)」を行う。

 ジャンプラビットの時と同様に急降下で素早く接近。

 爪を食い込ませる。

 しかし、毛皮に阻まれ致命傷にはなっていないようだ。


 ドンボアは、僕を振り払おうと暴れる。

 僕の体は、地面へ投げ出される。

 この体では、受け身などとることもできない。


 痛みを感じ、起き上がる。

 やりやがったなあのイノシシ!


 僕は、次の攻撃に移るため翼を羽ばたかせる。

 離陸直後、ドンボアに突進され、木に叩きつけられる。

 全身に痛みが走る。


 あ、ヤバい。

 このイノシシは、強い。

 少なくとも自分よりは、断然強い。

 強さを見誤った。

 今はまず、離脱を優先しよう。

 僕は、「噴出推進(ジェット)」ですぐにでも空へ退避する。

 ドンボアの追撃が自分のいた空間に空振る。


 木の枝にとまる。

 まだ、痛みがある。

 もっと慎重になっておけば良かった。

 少し調子づいていたようだ。

 こんな隙だらけの技で挑むのではなかった。


 僕が後悔していると枝が揺れる。

 何事だと思ったが、どうやらドンボアが木へ何度も突進しているようだ。

 随分気性が荒い。

 そう簡単に怒ってもいいことないよとアドバイスしてあげたい。

 まぁ、怒らせたのは、僕だが。

 それに僕だって、同じことをされたら、相手をぶっ飛ばしたくなる。

 妥当だな。

 反論の余地なんて微塵もない。


 さて、どうするか?

 相手は、菓子折りを持っていけば、矛を収めてくれるような相手じゃないし、絶対に許さないだろう。

 ならばここは、生物として仕留めた方がいいだろう。

 喧嘩を売ったのだから代金を受け取らなければいけない。

 今、僕ができる攻撃は、例の空中から繰り出される降下攻撃、風魔法などがある。

 前者は、返り討ちにあったばかりだ。

 だとすると後者の「風刃(ウィンドカッター)」だ。

 それしかない。

 というか、何でこれにしなかったのだろうか?

 こっちの方が安全だ。

 木の上からだって撃てる。

 そこで足場が揺れ、バランスを失う。


 は?

 翼を動かすが、バランスが悪かった。

 何故だ?

 僕は、目を向ける。

 木が折れていた。

 ドンボアが根気よくコツコツと破壊したのだろう。

 あぁ、最悪だ。

 油断していた。


 回避を諦めて、牽制に「風刃(ウィンドカッター)」を数発放つ。

 どうせなら攻撃だ。

 ドンボアに切り傷が幾つかつく。

 『風圧』で威力が上昇した魔法だ。

 ドンボアは、怯みよろめく。


 しかし、僕は、地面へ落ちる。

 やはり痛い。


〈EXスキル【衝撃耐性】を獲得しました〉



 そんなことは、今はどうでもいい。

 とにかく、乱射だ。

 僕は、「風刃(ウィンドカッター)」を狙いもつけずに撃ち続ける。

 追い払うように攻撃を続ける。


 ドンボアは、距離をとるように下がる。

 丁度いい場所に移動してくれた。

 僕は、「風刃(ウィンドカッター)」でドンボアの頭上の枝を切る。

 それは、落下して、ドンボアに直撃する。

 ドンボアは、何事かと気を逸らす。

 隙ができた。

 僕は、接近する。


 至近距離で「風刃(ウィンドカッター)」をお見舞いする。

 これは、インファイトになるのだろうか?

 魔法でインファイト。

 我ながら意味が解らない。

 しかし、魔法でも発動してすぐの方が離れた時より威力が出る。

 決して無意味なことではない。


 隙をついたことが功を奏したのかどうかは知らないが、ドンボアに致命傷を与える。

 乱射ですでに攻撃した傷にさらなる攻撃をすることで血管が切断され、出血。

 そのまま失血死した。




 本当に危なかった。

 少し自棄になったが、結果良ければ全てよしと言うように次から気を付ければ問題ない。

 さて、少し気になったことを検証しておこう。

 僕は、ドンボアへ【解析】を使用する。


 名称「ドンボアの死骸」

 説明・死後、間もない突猪(ドンボア)の死骸。



 なるほど、死後は、物として扱われるようだ。

 ヒコの実と同じような表記の方法になっている。

 そして、同時に確かに死んだという確証を得ることができた。


 それでは、解体に移ろう。

 ジャンプラビットの時と同様に丁寧に解体する。

 しかし、また肉を食べることになる。

 あまり好きではないが、しかたがない。

 よくよく考えてみれば、ドラゴンなら解体せずにガブっと食べてしまいそうだが、僕はどうしてこんなことをしているんだっけ?

 考えてみる。

 あぁ、簡単なことだった。

 まだ、子竜(ベイビードラゴン)だからだ。

 それと少しばかりの前世から持ってきた先入観だ。


 解体が終わり、眼前には、生肉が並ぶ。

 かなりの時間を要した成果だ。

 今回は、無策ではない。

 僕は、しばし周囲を見渡す。

 お目当ての物があった。

 僕の主食、ヒコの実。

 採取し、砕き肉にまぶす。


 どうだ!

 料理などやったことのない僕が雰囲気だけで考えた料理だ。

 実際の味は、決していいものではないだろう。

 せめて火があれば、美味しくなるのだが、その手段がない。

 生肉でドラゴンが腹を下さないことは、判明しているから味さえ覚悟すればいい。

 よし、少しでもマシになっていることを祈って、いただきます。


 噛り付く。

 味は、苦みが随分いい仕事をしてくれた。

 酷い味だが、何もしないよりは、まだいい味だ。

 僕は、食べ終える。

 量が多かった。

 内臓や骨は、取っ払っているが、それでも凄い量だ。

 全て食べ切れたのが、不思議だ。


 さて、川に行き、血を洗い落とすとしよう。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 川に着いた。

 飛べるというのも便利だ。

 離れていても素早く、障害物を無視して移動できる。


 川へ入る。

 あぁ、水の流れが心地いい。

 ふと、川の中へ目を向ける。

 そこで僕は、衝撃を受けた。

 精神的衝撃。

 驚いたというやつだ。


 川で魚が泳いでいた。

 それ自体は、特段おかしいことではない。

 驚いたのは、そのことを考えつかなかった自分に対してだ。

 肉か魚ならば、魚の方がいいに決まっているじゃないか。

 刺身なんて調理方法があるくらいだ。


 僕は、少し後悔した。

 口の中には、鉄のような味と強い苦みが残っていた。

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