初狩り
僕は、目を開く。
景色は、非日常的な現実だ。
硬い樹皮。
緑色に茂った葉。
そして、鱗に覆われた自分。
夢ではないことが突きつけられる。
まぁ、現実で結構だ。
前世に大した思い入れなんてない。
いや、一つだけあった。
僕のゲームアカウント。
サービスが終わるまで続けようと思っていたゲーム。
まだ、ストーリーだって、終わっていないんだ。
思い出したら、余計に気になってしまう。
あぁ、我が未練。
多少、精神的悶絶をしてから僕は、現実に戻る。
さて、今日は何をするか?
簡単なことだ。
まずは、朝食だ。
センセイの実を食べよう。
ついでに可能かは不明だが、本来の名称も確認しよう。
うむ。
やはり苦い。
このヒコの実というのは、苦い。
さらば、センセイの実。
【解析】は、問題なく行使できた。
名称もしっかりと判明した。
この実、苦いが、栄養はあるらしいのだ。
当分、主食になりそうだ。
やはり、新たな食糧を探そう。
もう少し、食べやすい物が欲しい。
苦いだけで食欲など湧きあがらない。
例えばそう。
肉だ。
肉ならば、この実よりはマシなはずだ。
それにドラゴンなんて、肉食のイメージだ。
肉、思い浮かぶのは、昨晩のジャンプラビットとやらだ。
ウサギの肉は、前世で食べたことがないが、美味しいと聞いたことがある。
よし、狩ろう。
今すぐ狩ろう。
そうとなれば、まずは、探さなければならない。
僕は、空へ羽ばたく。
何気に生後数時間で飛べるというのは、ドラゴンが相当凄い生物だと解る。
スキルありでもここまでできるとは、この世界の生態系が心配になる。
その分、生物が全体的に強かったりするのだろうか?
相手は、見極めるようにしよう。
上空から探すと案外簡単に発見できた。
昨日見た個体と同一かは解らないが、スキルは同じだった。
早速、上空から襲いかかろうとする。
しかし、近づくと凄い勢いで逃げられた。
まぁ、そうか。
そんな簡単だったら、とうの昔に絶滅しているだろう。
そもそも接近が難しい。
羽ばたくと音が出る。
かと言って、地上からは無理だ。
遅すぎて簡単に見つかる。
よし、また特訓だ。
上空から素早く仕留める攻撃の特訓だ。
イメージとしては、鷹が足を突き出しながら急降下するあれだ。
昨日のこともあるし、試行あるのみ!
僕は、練習を始めた。
まず、できる限り、高度を上げる。
そこから、前足を突き出して、落下する。
重力に引かれて、速度を上げる。
だが、バランスを崩す。
体勢を立て直す。
やはり、難しい。
そう簡単には、習得できそうにない。
ここからは、長くなりそうだ。
◆ ◆ ◆ ◆
数時間、経過。
難しいが、形になってきている。
経験は、十分だ。
バランスを保つコツは、風を感じて、空気抵抗を意識することだ。
ようするに風になるのだ。
空気を読むということだ。
〈アチーブメント〔風の申し子〕を達成しました〉
アナウンスが突如、聞こえる。
達成したということは、ステータスの例の部分だろう。
・ステータス・
名前「なし」
種族「子竜」
EXスキル・【飛行補助】【考察】【解析】【空流感知】
固有能力・【風使い】
達成・〔風の申し子〕
状態・良好
確認したが、見慣れないスキルを二つ獲得している。
アナウンスもなかったが、どういうことだろうか?
僕は疑問を抱えながら、まず達成したアチーブメントを確認する。
アチーブメント〔風の申し子〕
達成条件・風をその身に感じ、利用する。
報酬・【風使い】【空流感知】
どうやら、新たなスキルは、アチーブメントの報酬らしい。
アチーブメント。
条件により、達成する称号のようなもの。
報酬には、スキルがもらえる。
いいシステムだ。
そして、見逃してはいけない。
固有能力。
EXではなくユニークだ。
固有能力【風使い】
機能
『風魔法』:風属性の基本魔法を扱える。
『風流操作』:風を意のままに操る。
『風圧』:発生させる風を倍増させる。
ユニークというほどはあった。
一つのスキルに三つのEXスキルが積んであるようなものだ。
それに魔法だ。
この世界にも魔法があるということが判明した。
早速、検証しよう。
そう思い、降下する。
それだけでも、新たなスキルの効果を自覚できる。
空気の動きが手に取るように解る。
そして、それらを自由に動かすことも可能だ。
ハッキリ言って、楽しい。
地上に降り立つと手頃な木を的にする。
風魔法の種類を確認する。
「風刃」、「噴出推進」、他には、風を起こすというものが主だった。
「風刃」を放つ。
不可視の刃が木を傷つける。
風だから見えない。
しかし、威力はある。
とても有用だ。
「噴出推進」は、移動の際に使う。
風で体を押す。
地上より飛んでいる時の方が有効だった。
地味だが、いい。
魔法というだけで最高だ。
『風流操作』でいくらでも調整、増幅ができる。
そして、これらを総合すれば、僕の考える急降下攻撃も容易に実現できる。
風を動かし、自らを加速させる。
〈EXスキル【落下加速】を獲得しました〉
そうして、僕の技は完成した。
名付けて、「鷹竜の降下爪撃」!
ネーミングは、適当だ。
僕は、少しテンションが上がっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
発見した。
あの白さ、間違いない。
上空からでも見つけ易い。
空中で構える。
そして、落下を開始する。
【落下加速】、「噴出推進」を『風圧』と『風流操作』でさらに加速。
体勢が崩れないように【空流感知】でバランスをとる。
そしてそのままの速度でジャンプラビットへ攻撃する。
素早いことで【危機感知】に引っかかっても時すでに遅し、逃げることはできない。
爪が首元に食い込む。
赤く滲む。
仕留めた。
狩りは、あっさりと終了した。
しかし、疲れる。
特に【空流感知】でバランスをとるのは、頭をフルで活用しなければいけない。
頭が痛くなる。
徹夜した気分だ。
連続使用は、控えたほうがよさそうだ。
それより肉だ。
このために頑張ったのだ。
どう食べよう?
焼肉? スープ? 肉料理ならいくらでも………………
そこまで考えて、気が付いた。
失念していた。
僕に選択肢など、無かった。
火がない。
焼けない。煮込めない。蒸せない。
つまり、生しかない。
生肉って、美味しいのか?
ドラゴンだし、胃腸の心配はないだろう。
問題は、やはり味のみだ。
僕は、ウサギを解体する。
爪で皮を削ぎ、肉を剥ぎ取る。
解体の技能など持っていないが、上手くできた。
周囲が血まみれになったが、まぁできたしいいだろう。
後で川でも探そう。
さて、目の前には、ウサギの――――――正確には、ウサギのような魔物だが、その生肉が置いてある。
こう見るとやはり、抵抗がある。
しかし、食べないのは、ダメだ。
命を頂いたのだからしっかり食べないといけない。
僕は、覚悟を決める。
よし、大丈夫。
僕は、肉に噛り付き、嚙みちぎる。
咀嚼し、飲み込む。
実は、美味しいなんてことはなかった。
口の中に広がるのは、鉄の味。
噛むとさらに口の中に広がる。
最悪だ。
解決方法を考えなければいけない。
僕は、強くそう決意した。




