別人のような本人
うん、さっきまで泣いていた少女は、泣き止んでいた。
そして、絶望して諦めたような表情ではない。
年相応に元気のある顔へと変わった。
それはいい。
とても嬉しいことだ。
「えへへ」
少女が笑顔で笑う。
別人のようだが、本人だ。
対して僕は、その少女の頭を未だ撫でている。
僕は、泣き止んだ頃に止めようとした。
そうしたら、涙目で止めないでと訴えかけてくるんだ。
不可抗力だ。
僕の心は、そこまで鬼じゃない。
それに幸せそうなのだから、それでいいじゃないか。
ちょっとしたわがまま。
可愛いものだ。
そう言えば、まだ僕は、この子の名前だって知らない。
それどころではなかったし、あまり重要ではなかったからだ。
「そういえば僕は、カケラっていうんだけど………………君の名前は?」
僕は、尋ねる。
『解析』を使っても解るが、聞いた方がいいだろう。
ここで変な印象を持たれても困る。
「私の名前は、キラボシ!」
少女は、満面の笑みで元気良く答えた。
そうか、キラボシというのか、いい名前だな………………
ん?
キラボシ?
どこかで聞いたことのある名前だ。
確か――――――そうだ!
あの消えた侵入者だ。
同じ名前だ。
同姓同名だろうか?
う~ん?
何かがおかしい気がする。
何だ?
僕は、その疑問から、ある一つの質問をする。
「キラボシ、今は、神龍歴何年だ?」
確か今は、1228年のはずだ。
そう聞いた。
まさか、そんなはずはないのだが、確認のためだ。
僕は、答えを待つ。
「? 今は、新龍歴1221年だよ?」
キラボシは、質問の意図がよく解らないような感じで答えてくれた。
あぁ、そういうことだったのか。
だからか。
あの時の発言がおかしかったのは、そういう未知の文化などではなく、こういうことだったのだ。
マジかよ。
流石に想定していなかった。
懐中時計というアイテムから連想するべきだったのかもしれないが、こんな現象を想定するのなど無理な話だ。
あまりにも現実離れしていて、発想の外だった。
だってそうだろう。
時間の逆行なんて、異世界でも現実離れしている。
サイエンスファンタジーだ。
しかし、ハザデスさんも説明してくれればいいものを。
報連相をしっかりしてほしい。
こんなに重要なら特に!
しかし、文句を言っても仕方がない。
そもそもこの時代だと僕のこと知らないだろうし。
アポもとれない。
そのためにもサッサと帰ろう。
先輩としての責任を追及してやろる。
僕は、懐中時計に手をかける。
………………。
………………。
今、この場で元の時代に帰ったら、キラボシは、どうなるだろうか?
間違いなく泣くだろう。
確信がある。
それにこんな子供を独りにするのは、良心がダメだと言っている。
まだ、いいだろう。
少なくともあの国の力の及ばない町までは、同行した方がいいだろう。
「キラボシ」
僕は、声をかける。
「何?」
キラボシは、振り向いて耳を傾ける。
「今日からどこか町を目指そう」
「町?」
「そうだ。町だ。あんな国から離れて、遠くの町」
僕は提案する。
「うん! 行こう。あんな国、もう知らない!」
キラボシは、そういい放つ。
乗り気だ。
あの国に見切りをつけるのは、僕も同感だ。
早速、出発しよう。
僕は、龍の姿になる。
「うわー! 龍だ!」
キラボシが目を輝かせる。
好きなのだろうか?
もし、そうならば同志だ。
「お兄ちゃんは、龍なの? 人なの?」
キラボシが質問する。
「一応、龍だよ」
「そうなんだ。凄い! 始めて見た」
そりゃあ、そうだろう。
いるとしてもドラゴンスパイラルの山頂だし。
それよりも………………
「それより、そのお兄ちゃんっていうのは、僕の呼び方?」
別にいいのだが、僕はこれでも生後一か月と経っていない。
多分、歳はキラボシの方が上だ。
見た目や精神も加味すれば、この時代ならいいかもしれない。
「うん。ダメ?」
キラボシが上目遣いで聞いてくる。
「別にいいよ」
僕は、承諾する。
これじゃあ、兄妹みたいだな。
前世でも一人っ子だったから、あまり感覚が解らない。
しかし、それなら町に行ったときの説明がしやすいし、それでいいだろう。
僕は、キラボシを手に乗せようとしたが、キラボシは僕の背に飛び乗った。
「そこでいいのか?」
「ここがいい!」
キラボシが強く主張する。
まぁ、いいならば、いいが………………
僕は、キラボシを乗せて、空へ飛び立った。
◆ ◆ ◆ ◆
飛び立ってから数時間後、別の森へ着地した。
今、町を見つけたとしてもお金だって持っていないし、宿をとることもできない。
ならば、今夜は野宿だ。
もう日が沈んできている。
最低限必要なことは、食事、寝床、安全だ。
まず食事だ。
これは、近くにいたドンボアを狩って肉を手に入れた。
そして何やかんや処置しまして、調理可能段階になった肉がこちらでございます。
調理に使う火も起こせた。
串に刺して焼く。
それぐらいしか、調理できない。
キラボシには悪いが、我慢してもらう他ない。
焼け終えると二人で食べる。
悪くないが、少し硬いかもしれない。
「キラボシ。美味しいか?」
「うん」
「硬くない?」
「確かに硬いけど、美味しいよ」
気を使われた気もするので、次に作る時、参考にしよう。
寝床だが、葉を重ねて屋根をつくろうと思ったが、そこまで大きい葉がないし、技術もない。
雨が降ったら最悪だ。
その時は、僕の龍の翼を簡易的な屋根にでもしよう。
草葉のベットだ。
キラボシには、我慢を強いることになる。
マジでごめん。
「キラボシ。これが寝床だ」
「うわー! ありがとう!」
キラボシは、はしゃいで草葉に倒れこむように突撃した。
あれは………………喜んでくれているようで良かった。
最後に安全。
森には、魔物が生息している。
弱くとも寝込みを襲われれば、厄介だ。
しかし、一々僕が倒しても手間がかかるだけだ。
そこで、ハザデスさんの講座で教わった神業の一つが役立つ。
その名も『神格覇気』
神が放つ絶対的オーラだ。
これで何も寄り付かないはずだ。
僕は、キラボシを守るように横になる。
「お兄ちゃん」
「どうした?」
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
そうして、キラボシは眠りにつき、その後、僕も続いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「おーい。お兄ちゃんー!」
体を揺さぶられる。
眠くはない。
寝る必要がないからな。
僕は、起き上がる。
「おはよう!」
キラボシが元気よく言う。
「おはよう。キラボシ」
僕もおはようを返す。
それにしても………………
「………………早起きだな」
僕の方が遅く起きるというのは、どうなのだろうか?
前世でもあまり早起きは得意ではなかったが、睡眠の必要が無くなっても、感覚は抜けきっていないようだ。
それにしても眠気が原因だと思っていたが、そうでもないのだろう。
「うん、そうかな?」
「まぁ、偉いんじゃないか?」
「そうかな?」
キラボシは、照れるように笑う。
「それじゃあ、朝食をどうにかするか………………」
朝食。
どうするか。
肉は朝食って感じじゃないし、この世界では米もないし、パンだって有ったとしても手に入らない。
前世での朝食のイメージを思い浮かべる。
茶碗につがれた白飯、みそ汁、漬物、卵焼き、焼き魚。
実際に食べたのは、数えるほどしかないが、代表的なイメージだ。
この中で現状、一番再現ができそうな物は、焼き魚だろう。
「キラボシ、僕は朝食を捕ってくるから――――――」
僕が少し待っているように言おうとする。
「私も行く!」
キラボシが強く主張する。
「そうか? じゃあ、一緒に行くか」
置いていくような事情もないので、受諾した。
それに人手は、いくらあってもいい。
いい経験になるだろう。
僕たちは、川へ着いた。
流れも速くない。
底も深くない。
魚も泳いでいる。
「魚を捕るぞ」
「おー!」
二人で川へ入る。
流水が心地よい。
早速、目を凝らす。
日光が水面に反射して、水中が見えない。
ちょっと想定外だ。
どうにかしなければ。
僕は、『龍神』を使い水の流れを感じることに集中する。
〈EXスキル【水中感知】を獲得しました〉
狙い通りだ。
これで魚の場所が解る。
僕は、近くにいた一匹を捕まえる。
どうだ!
僕は、キラボシの方へ目を向ける。
キラボシは、どうだろうかと気になった。
苦戦しているのではないだろうか?
しかし、視界に映ったのは、既に二匹を捕まえたキラボシだった。
呑気なことを考えている場合ではなかった。
これでは、僕に立つ瀬がない。
僕は、急いだ。
同時にキラボシの動きを見る。
動きが速い。
本当に水の抵抗を受けているのだろうか?
しかも難なく魚を捉えている。
現代でのキラボシの強さに少し納得がいった。
最終結果は、同点だった。
食事には、十分の量だ。
それを火で焼く。
やっていることは、食材が変わっただけで昨夜と同じだ。
朝食っぽくは、ない。
サバイバルみたいだ。
というか、今はサバイバルしているようなものだった。
二人で食べる。
塩もないが、美味しい。
「キラボシ。美味しいか?」
一応、聞いてみる。
「うん、美味しいよ」
そういって、次の焼き魚に手を出していた。
美味しいのならそれは良かった。
しかし、もう少し真面な食事を食べさせてあげたい。
そのためにも今日中に町を目指さなければな。




