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監視・観察・見物

 キラボシは、キャンプをつくり、焚火のそばに腰を下ろしている。

 金属製の鍋を吊るして火にかけ、食材を煮てスープを作っている。

 手慣れていて、少なくとも僕なんかよりは、調理に慣れていることが解る。

 僕の腕前が低いだけだな。

 僕と比べるのも失礼だ。

 こんな初心者の中でも下の下と比べるなど。

 料理の才などないし、改善するための努力もしていない。


 あっ、完成したようだ。

 底の下がってふちが高い器に移して、スプーンですくって飲んでいる。

 とても美味しそうだ。

 僕なんて、この世界でヒコの実、生肉、絶妙に温まった生肉、ほぼ炭と化した焦げた肉くらいしか口にしていない。

 どんな高級料理より、高級に見える。



 何故、僕がこんな観察をしているのか?

 キラボシの一挙手一投足を見張っている。

 近くの木の陰から【空流感知】で知覚している。

 こんな、前世だったらストーカーか探偵しかやらなさそうなことをしているのか?


 それは、仕方のないことなんだ。

 僕だって、できることならさっさと外の世界を見てみたい。

 あの外界と不可侵領域を隔てる壁の役割をしているドラゴンスパイラルを越え、人間との交流や文化に触れたり、言ってしまえば異世界を楽しみたい。

 しかし、この不可侵領域に人間が入ってきたとなっては、そうはいかない。

 龍神として、その人物を警戒しなければならない。

 ここは、人類未踏の地なのだから。



 警戒は、常に神経を張り巡らせなければいけない。

 何と言ったって、あのドラゴンスパイラルを越えてきた人間だ。

 山頂が空席の東か南東から来たとしても、道中にはドラゴンがうじゃうじゃといる。

 ドラゴンに勝てる人間は、強い。

 これは持論だ。

 集団となっては、さらに上だ。

 それにあの山は、かなり高い。

 環境も過酷だ。

 僕は飛んだが、歩いて登るのは、現実的ではない。

 それを登り切ったのは、登山としても強い。


 それに万が一、あの小屋の跡を見られれば、何らかの支障をきたす気もする。

 正体不明で元龍神から壊せと依頼されるような物だ。

 仮に問題が起きた場合、現龍神の僕に責任が全て向かって来る可能性がある。


 よって、監視して、できることなら早く外へ帰ってほしい。



 そして、警戒する理由は、他にもある。

 僕は、観察している間にもちろんキラボシへ『解析』を使用している。

 しかし、その表示される結果が異質であり、歪だった。


 ・ステータス・

 名前「キラボシ」

 種族「人間」

 EXスキル・【衝撃無■】【魔■耐性】【■■■■】【■■】etc.

 固有能力(ユニークスキル)・【勇■】【畏■】【■■】【■■】etc.

 逸脱能力(アノマリースキル)・【■■の■】

 達成・〔■■〕〔■■■■〕〔■■〕〔■■■〕etc.



 解析失敗とでも言おうか。

 スキルの大半が秘匿、隠蔽されている。

 おかげで戦力やその他諸々が何も解らない。


 だが、この際それはいい。

 そんなスキルがあっても、羨みはしても、驚きはしない。

 ありそうだし。


 僕が一番驚いたのは、そのスキルの数だ。

 隠されているのは、スキルの名称や詳細なので、数は公開されている。

 その数、EXスキル計128個、固有能力(ユニークスキル)計53個、逸脱能力(アノマリースキル)1個。


 多い。

 いったいどんな世界であれば、こんな数を獲得できるだろうか?

 僕がこのまま数年過ごしていれば、できなくはなさそうだが、それは『至王』があるからだ。

 補正なしの人間がこれを為すためには、どれぐらいの歳月をかけたのだろう。


 そんな不審な強い奴をここに残して、外へは行けない。

 これは、龍神としての仕事なのだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 しばらく経った。

 夜が訪れ、明け、日が昇った。


 キラボシは、今、朝食を作っているようだ。

 パンに野菜や肉を挟んだ、サンドウィッチのような食べ物だ。

 美味しそうだ。

 羨ましい。


 というか、キラボシは、ここに来てから何もしない。

 ただ、のんびりとキャンプをしているだけだ。

 椅子に座り、優雅に過ごしている。

 この場所を探索するわけでもない。

 何かを目指すわけではない。

 何かを待っているようにも見える。



 冒険者ではないのだろうか?


 しかし、他には彼女が何なのか、微塵も思いつかない。

 謎だ。




 考えてもしかたがないので、監視は続けて、暇つぶしでもしよう。

 監視にしても退屈になってきた。

 だって、動きがないし。 

 


 とは言え、暇つぶしをするにしても僕に持ち物などない。

 暇つぶしができる物など………………


 僕は、何か探す。

 服のポケットに何かある。

 何を入れたっけ?

 僕は、それを取り出す。

 あの懐中時計だ。

 あのハザデスさんから頼まれた小屋の中に残っていた懐中時計だ。

 これに関してもキラボシに負けず劣らずの謎物体だ。

 好奇心から『解析』する。


 「古代王国の懐中時計」

 説明・古代王国で製作された精密な懐中時計。

    魔道具であり、代行の権限が付与されている。



 よく、解らない。

 骨董品というか、遺物なのだろうか。

 あと、魔道具らしい。

 効果は、何故か解らない。

 万能な森羅万象の象徴である『解析』でも解明できない。

 本当に何なんだろう。


 僕は何気なく懐中時計の蓋を開けてみる。

 懐中時計は横に付いているボタンを押すと蓋が自動で開いた。

 中の文字盤に書かれているのは、おそらく数字だろうか?

 僕には読むことができなかった。

 翻訳されない。

 懐中時計の針が一秒を刻んでいる。

 正確に一秒を数えられるわけではないが、おおよそ合っている。


 僕は、懐中時計の側面についてある突起――――――竜頭を回す。

 針が少しずつ戻る。

 おかしい箇所は、無い。

 強いて挙げれば、少しだけ、ほんの少しだけだが、針の戻りが遅い気がする。

 そういう仕様だと言われれば、それで終わりだし、僕が知らないだけでこんなものなのかもしれないが………………



 僕は、弄っていると、その時、変化が起こった。

 周囲の景色が消える。

 光源が無くなったような暗闇に見える。

 しかし、自身の姿は、ハッキリと見える。

 異質な空間。


 僕は、戸惑う。

 こんな事は、初めてのことだ。

 夢でだって、こんな場所は見ない。

 前世で夢を見た記憶なんてほとんど無いが。

 これは、ほぼ間違いなく、この懐中時計が原因だろう。


 これが魔道具の効果だろうか?

 真っ暗にするというものではないだろう。

 今、何かが起こっていてるのだろう。



 暗闇が晴れる。

 僕は、周囲を確認する。

 木々の生えた森の中だ。

 辺りが消し飛んでいるなんてこともない。

 奇妙な点はない。


 何もないのかと思ったが、一つあった。

 監視対象が消えている。

 キラボシがいない。

 野営の痕跡だって、残っていない。

 近くに反応もない。


 何故だ。

 去っていったにしても痕跡がないとおかしい。

 もしかしたら僕が移動したのだろうか?

 そうだとしたら通りで木の位置に違和感があるわけだ。

 少し違うような感じがしたのだ。

 つまり、これは瞬間移動の魔道具ということか?

 まぁ、距離を無視して移動できるのならオーバーテクノロジーなのだろう。



 となると念のため、またキラボシを探さないと。

 目を離すのは、不味い。

 僕は、目立たないかつ素早く移動ができるように今や懐かしい――――――とは言っても一か月も経っていないし、つい最近卒業? したばかりの――――――小型の龍となり、飛び出した。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 緊急事態発生!

 いくら探してもキラボシがいない。

 不可侵領域の隅から隅まで探した。

 大型に変わって、おびき出そうともした。

 しかし、見つからない、出てこない。

 これは不味いかもしれない。



 帰ったのかもしれない。

 よし、そう考えることとしよう。

 何も問題がないことを願っておこう。

 それぐらいしか、対応できない。




 では、行くとしよう。

 僕は、龍の姿のまま、飛び立つ。

 目指すは、外界。

 異世界の本領。

 僕が待ちに待った新世界。


 ようやくだ。

 ドラゴンに生まれて、龍になって、龍神になってやっとだ。

 そこまで時を要したわけではないが、長く感じる。


 僕は、気分が乗って、加速する。

 そして、雲よりも遥か上まできて飛行し、ドラゴンスパイラルを越えて出る。


 前世と同じ様な感じなのだろうか?

 それとも地球より文明が進んでいるのだろうか?

 どっちにしろ楽しみだ。


 雲が地面のように続き、地平線が見える。

 その上に自分の影が映っている。


 あぁ~、待ちきれない。

 観光したい。

 何か名物の建造物とかあるだろうか?


 そう考えていると雲が途切れ、地上が見える。

 木々や川、そして家が見える。

 規模は小さい。

 村だろう。

 畑も見える。

 少ないが人も見える。



 それを越えて進み続ける。

 森を越えたところでさらに多くの建物群が現れる。

 村より発展している。

 町、いや首都だろうか?

 それほどの規模だ。

 文明は、異世界のイメージ通りのレベルだ。


 しかし、不思議と人が見当たらない。

 建物と建物の間に張り巡らせてある道には、もぬけの殻のような状態だ。

 しかし、人が一斉に逃げ出したような感じではない。

 それにしては、綺麗だし。

 ゴーストタウンではない。

 僕は、上空から探る。


 そして、人を見つける。

 人数は、少なくない。

 それどころか、多い。

 数えられない。

 この巨大な都市にいる全ての人間が集まっているのだろう。


 その場所は、円形の建造物だ。

 スポーツスタジアムのように観客席のような場所があり、そこに人が密集している。

 その中心は、観客席より低くくぼんでいる。

 そこにも何人かいるようだ。


 僕は、上空からそれを観察した。

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