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もう一度

 僕は、地面に寝転がる。


 うん、無理。


 脇には、折れた枝と木の皮が転がっている。

 これで火を起こそうとした。

 しかし、無理だ。

 ムズイ。


 バランスも取り難いし、枝が折れるし、工夫がいる。


 まず、木の皮に溝を付ける。

 これで狙いをしっかりとブレないようにする。

 そして、枝は使わない。

 木からもっと直線の棒を切り出した方がいい。

 枝は、薪にでもしよう。


 僕は、手を刃に変え、木を伐りそこから棒を切り出す。

 綺麗な直線の棒。

 そして、溝のついた木の皮へ押し当てる。


 火種から火を起こすために麻をほどいた物が必要だが、それは猪の毛皮から取った毛で代用する。

 ダメだった時のために木で再現したものも容易している。


 僕は全身全霊を込めて、火起こしを開始する。


 力加減に細心の注意を払う。

 慎重にかつ、力を確実に伝える。


〈EXスキル【精密動作】を獲得しました〉


 スキルが獲得できた。

 つまり、今、僕は機械のような動きができている。

 僕は、続けた。


 遂に火種ができる。

 僕は、素早く火種を移して、風魔法で火をつける。

 燃え上がる。

 枝を燃やす。

 焚火となった。


 成功だ。

 よっしゃ!

 早速、焼肉だ!


 僕は、大喜びで焼肉を始めた。


 今世、初めてのまともな食事だった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 さて、満足できたし、小屋の捜索を再開するとしよう。

 それと今は、気分がいい。

 のんびり歩いて探すとしよう。

 効率は、圧倒的に悪いが、問題ない。

 時間は、いくらでもあるのだ。

 ハザデスさんによれば、神は、寿命が存在しない。


 それに空から見るのとは、視野が違う。

 全くの下位互換でもないのだ。



 僕は、ヒコの実を眺めながら、美味しい果実を夢見る。

 そう考えると、前世のフルーツが懐かしい。

 固執するほど好きだったわけではないが、無性にもう一度食べたくなる。

 外には、果物屋さんがあるだろうか?

 楽しみだ。


 僕は、気楽に捜索を続けて数日。

 言われていた木の小屋は、普通の小屋だった。

 木で組まれているが、かなりしっかりとした小屋だ。

 窓はない。

 扉が一つ、ついている。


 開いてみるが、鍵はかかっていない。

 不用心だ。

 まぁ、入ってくるような人間がいないから必要ないのだろう。

 中は、明るくなっている。

 電球とかは、無いが、何処かが光っている。

 魔法関係だろうか?

 原理は、不明だ。

 内部には、木の机が一つ置いてあり、木箱が置いてある。

 木箱の中には、懐中時計が一つ入っている。

 依頼は、これの回収と小屋の処分だ。


 僕は、懐中時計を服に仕舞う。

 そして、念の為、小屋を見回る。

 床に靴の痕がついている。

 僕の作った靴の痕だ。

 今さっきついたのだろうか?

 少し多い気がするな。

 この世界では、土足がどんなものか知らないが、気を付けておくとしよう。


 僕は確認が済んだので、小屋から出る。

 違和感は多少あれど、普通の木の小屋だ。


 僕は、以前と同じように火を起こす。

 そして、焚火にし、薪の一つから火を取る。

 それを小屋へ移す。

 小屋は、やはり木でできているため、よく燃える。

 周囲の木に引火することに注意しながら、僕はその光景を見送った。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 木の小屋は、完全に燃え尽き、炭となった破片が幾つかと灰に変わった。

 燃え跡にも不自然な点はない。

 何か奇妙なものが出てきたりなどもない。


 本当に何だったのだろうか?

 やはり、また今度、ハザデスさんに詳しく聞いてみるとしよう。

 何故、懐中時計だけ回収したのかも不明だし、少しばかり興味本位だが気になる。


 さて、外に出る準備でもしよう。

 と言っても、特に準備するものもない。

 精々、何か換金できる物でも用意するくらいだろうか?

 そのためには、運搬方法も考えなければならない。

 魔物の素材となるとそれなりに大きい。

 バックパックがあったとしても、運べない物だってある。


 そこの方は、ハザデスさんからあるものの存在について、聞いておいた。

 EXスキル【空間拡張】などの存在だ。

 ハザデスさんは、獲得しなかったようだが、生前に所有する者を見たそうだ。

 その獲得条件は、種類によって多少異なるが、空間に干渉できれば可能らしい。

 さて、特大のヒントをもらったが、問題がある。

 僕は、空間に干渉するような大それたことができないことだ。


 空間だ。

 空気とかではない。

 世界を構成する重大な要素だ。

 おいそれと簡単に突けるようなものじゃない。


 そしてもちろん、それについても聞いている。

 聞いてはいるが………………ためになるかは、解らない。


 神が空間に干渉する神業。

 それは一種の技術に分類される。

 原理は案外単純で、空間に影響を及ぼせるほどのパワーで衝撃を与える。

 実にシンプルな手順だ。

 僕は、笑顔で考える。


 うん、無理だな。

 一種の矛盾のような状態だ。

 空間に干渉するために空間に影響を及ぼせるパワーを?

 それができれば、苦労はない。

 服を買うにはどうすればいいですか? と聞いて、服を買うために服を買いましょうと言われるようなものだ。


 しかしだ。

 僕も神に成ったのだ。

 そういった固定概念に囚われるのは、頭が凝り固まってしまっているのかもしれない。

 とりあえず、それらしく権能を使いながらパンチを繰り出す。

 何も起こらない。

 当然だ。

 これについてもハザデスさんに指導を付けてもらうとしよう。



 さて、のんびりと外でも目指すとしよう。

 少なくとも当分の間、仕事はない。

 神は、意外といい労働環境らしい。


 僕は、人型のまま、歩く。

 久しぶりのこの体、結構気に入っている。


 僕は何気なく、適当な方角へ進む。

 飛べば一瞬だが、徒歩だとかなりの距離だ。




 僕は、道中、ふと足を止める。

 疲れたのではない。

 そんなに弱い体ではない。

 体力だって、全力疾走だったとしてもバテない自信がある。


 【空流感知】に生き物が引っかかっている。

 ただの魔物ではない。

 今ならたとえ龍が出てきても気圧されたりなどしない。

 むしろ胸を張って、威圧する。


 まず、反応がおかしい。

 感知に引っかかるのがおかしいほど希薄だ。

 普通ならもっと分かり易いし、感知できないものはできない。

 龍だって、反応する。


 僕は、警戒する。

 未知に対して、いい判断ができるようにするためだ。

 解っているからこその覚悟だ。


 それは、着実に近づいてくる。

 こちらに気が付いているかは不明だ。


 それにしても、このシルエット。

 ハッキリとは、解らないが、もしかして?


 そんな予想をしていると、それは姿を現した。


 僕の予想は的中し、それは今の僕と同じように人型をしていた。

 人型をしていれば、たいていの場合、人なのだが、ここ不可侵領域は人が侵入したことがない場所のはずだ。

 到底、人だとは考えずらいが、世界とは広いものだ。


 その人物の背丈は、僕と同じくらいで服装は異世界らしい服だ。

 この世界のデフォルトの服装なのだろうか?

 腰には、剣を一振り携えている。

 素人目から見ても使い込まれて、手入れがされていることが解る。

 冒険者だろうか?


 僕は、目の前の女の子に対して疑問を持った。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 僕は、この世界に転生して、初めて人間に相対した。

 それが目の前の女の子だ。

 ここにいるということは、並大抵の実力者ではないだろう。


 僕は、少し緊張する。

 相手が女性であるからではない。

 今なら誰だろうと、子供に出会ったとしても緊張する。

 これが僕の人間とのファーストコンタクトになる。

 言語は解決しても、文化は不明だ。

 いきなり、独特な挨拶でもされれば、僕はコミニケーションをとれなくなる。

 苦手ほどではないが、そういうものに僕は、混乱してしまう。

 僕が思考を巡らせていると、相手は、僕に目を向ける。

 今の姿は、人間だ。

 問題はない。


「あっ………………」


 目の前の人間は、そういって目を見開き、僕を見る。

 何だ?

 何も変なところはないはずだ。

 やはり、文化の違いか?

 奇妙な視線だ。


「えっと、はじめまして?」


 僕は、最初に挨拶をする。

 言語は違えど、挨拶はするはずだ。

 と言うか、頼む。

 当たってくれ。


「………………えっ。あぁ、はい、はじめまして」


 彼女は、急に我に帰ったように挨拶を返す。

 何か、僕を見て思うところがあったのだろうか?

 いや、普通に考えれば、解ることか。

 ここは、誰も到達できなかった不可侵領域。

 そこへ人類初、到達できたと思ったら、人がいたのだ。

 そりゃあ、驚く。


「あの………………」


「はい、何ですか?」


 僕は、返事をする。

 これから僕は、何者なのかを問われるのだろうか?


「私の名前は、キラボシといいます。お――――――あなたは?」


 うん、自然に名前を聞き出そうとしている。

 ここは、素直に答えてもいいだろう。

 どうせ、誰も僕の名前は、知らないし、この人が初めて知ることになるだけだし。


「カケラです」


「そう、ですか………………」


 何だろう。

 僕について、聞き出そうとしているからだろうか?

 言葉を慎重に選んでいるように見える。


「………………カケラさん。こちら、ささやかなお返しです」


 そういって、キラボシは、金属でつくられたペンダントを差し出してきた。

 雫が二つ、くっついたようなデザインだ。


 意味が解らない。

 お返しって何のお返しだ?

 やはり、何かの伝統文化か?


「これは?」


「それは、あなたの物です。そう約束したものなので」


 翻訳が上手くいっているのか、怪しくなってくる。

 しかし、問題は見当たらない。

 どういうことだ?


「今は、神龍歴1228年です。それでは………………」


 そう言って、去っていった。

 どうやら僕は、何かの宗教か文化に触れているのかもしれない。

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