神様レクチャー受講
彼の呼び出された空間は、異質だった。
景色は、地獄のようだった。
そう形容できる場所だった。
溶岩が冷えて固まったような黒い岩の床。
空は、夕焼けより赤みがかって、血液を連想させる靄がかかっている。
彼は、警戒する。
「まあまあ、落ち着け若造」
彼に声が届いた。
その発生源は、すぐに解った。
そこには、地龍と同じくらいの大きさの龍がいた。
ただし、外見は特殊なものではなく、ごく一般的な普通のドラゴンといった感じだ。
彼は、臨戦態勢をとる。
本能のままに構える。
「うわ~。完全に飲まれとる」
龍が気の抜けた反応をするが、彼は気にしない。
飛び立ち、『竜砲』を構える。
「一旦、落ち着け」
龍がそう言うと、空間にドラゴンの頭蓋が出現した。
幾つも。
まばらに。
睨むように。
それは、彼の錯覚だった。
そこから放たれたのは、『竜砲』だった。
回避不能な方位。
全弾命中。
彼は、地に落ちた。
形は、保っている。
龍は、のそのそと近づき、前足を頭へ乗せた。
◆ ◆ ◆ ◆
ふあ。
よく寝た気がする。
「おい、小僧」
何か幻聴が聞こえる。
しっかりとした日本語。
まぁ、聞こえるはずもないか!
僕は、呑気にそう考える。
「おい! 耳がやられておるのか!」
空気の振動が肉体で感じ取れた。
僕は、急いで飛び起きた。
驚いて声が出ない。
視覚は、目の前にでかい龍がいると示している。
そして、周囲を確認する。
僕は、混乱する。
ここは、何処だ。
こんな場所見覚えがない。
たしか、僕はまず地龍を食べて、そしてそれから………………
記憶を辿ると確かな記憶がある。
地龍を食べて、龍になると何かに引っ張られるように次の山頂へ行き、流れるがまま水龍を倒した。
ハッキリと思い出せるが、身に覚えがない。
「おい! 聞こえとるなら、返事ぐらいはしろ!」
「は、はい!」
僕は、焦って返事をする。
「それでいいんじゃ、それで」
龍は、満足そうだ。
まず、最優先は、この龍が何者なのかだ。
龍なのに喋っているし。
「あの………………あたなは、どちらさまでしょうか?」
僕は、慎重に尋ねる。
「ふむ、それじゃあ、自己紹介でもするかの」
龍は、前足を汲む。
「わしの名は、ハザデス。初代龍神ハザデスじゃ!」
龍は、堂々と自信ありげに名乗った。
僕は、何を言えばいいのか、思いつかず戸惑う。
有名人に会ったようなものだが、何を言えばいい?
有名人ですよね。とでもいえばいいのか?
「………………龍神さんなんですか?」
僕は、訳も分からず確認を取る。
「そうじゃ、お前さんをここへ呼び出したのもわしじゃ」
「そうですか………………ここは、どこですか?」
とりあえず、質問することにした。
「ここは、世界の魂が一時的に管理される場所じゃ。理解しやすいように言えば………………まぁ、地獄じゃな」
サラっと答えられる。
「僕は、死んだんですか?」
地獄という単語からその質問する。
「いや、今は、魂だけ呼んでおるだけじゃ。目覚めれば、元いた場所じゃ」
それならば、一安心だ。
「それじゃあ、色々の説明を初めても構わぬかの?」
「?………………いろいろというのは?」
「聞けば、解る」
ハザデスは、説明を始めた。
「まず、最初にお主の異常に関してじゃ」
異常というのは、地龍を食べてからのことだろうか?
確かに自分の意思が強制的に働かないようにされたような、異常な感覚だ。
「あれの原因は、ドラゴンとしての生態じゃ。それが『竜の意思』で増幅されたのがあの暴走じゃ」
なるほど、そんな原因があったのか。
精神のバフがあるとしてもプラスマイナスでマイナスだ。
「もう、大丈夫なんですか?」
僕は、お医者さんに聞くように言う。
「あぁ、お主にわしの神位を譲ったからの。もう気にする必要はない」
「それは、良かった」
僕は、その答えに安堵する。
そうか、僕に神位を譲って………………
そこで僕の試行がエラーが発生した時のように強制的に断たれる。
そして、改めてハザデスさんが何と言ったのか、理解するため復唱する。
「神位を譲った?」
「そうじゃ」
ハザデスさんは、サラッと言う。
僕は、固まる。
筋肉が言うことを聞かないし、今は聞いて欲しくない。
「?………………おい、どうした?」
動きを停止した僕に声をかける。
ちょっと、信じられない。
僕は、その事実に現実が追い付かなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
「落ち着いたか?」
「はい」
僕は、ようやく現実に追いついた。
自分が神様になったことの実感が湧いた。
「それじゃあ、前任として、神様レクチャーを始めるぞ。よいな?」
僕は了承した。
真面目に受講しよう。
「まずは、手始めにお主に渡した神位と神権についてじゃ」
僕は、説明を真剣に聞く。
「神位。お主に譲った神としての座じゃ。これは称号のようなものじゃな。ちなみにじゃが強さに直結せん」
感覚的には、王位のようなものなのだろうか?
僕は、そう解釈する。
「次に神権。これは神の強さに直結する能力でスキルとは違う、権能というものじゃ。特殊な効果を引き起こしたり、世界へ干渉したり、最低でも逸脱能力以上の性能は、確約されとるスーパーパワーじゃ」
そんな凄いものまで貰ったのか、とてもありがたい。
「そういえば、見たところお主には、既に権能を持っとるぞ?」
………………は!?
理解できていると思っていたら、突然、超スピードで地平線に消えていったような衝撃だ。
既に僕が持っているだと!?
権能を!?
「なんじゃ、その様子だと知らんかったのか? まぁ、確認のしようもないから、無理ないがのぉ」
「知りませんでしたよ! それでその権能とは?」
ハザデスさんから言われた権能は、名を『至王』というそうだ。
神権でない権能に分類されるそうだ。
その効果は、大まかにいうと成長だ。
簡単に身近な実例を挙げると、熟練度が上がりやすくなったり、アチーブメントの達成が容易になったり。
おかしいと思っていたのだ。
こんなに簡単に獲得できるスキルをどうして野生の魔物は、獲得できていないのかと。
こんな理由があったとは、真相は僕が無自覚にチートを使っていたという。
「これは、逸脱能力以上ですかね?」
僕は不安になり、聞く。
もしかしたら、逸脱能力には、上下落差が大きい可能性がある。
「まぁ、熟練度や条件緩和は、ほんの一例でしかないしのぉ。実際には、本質も関わる………………まぁ、強いかのぉ。他の神権や権能には、見劣りするかもしれんが………………」
ハザデスさんは、歯切れの悪そうに言う。
僕は、少し落ち込む。
「安心せい! これからお主に譲った神権の説明をするから」
僕は、その一言で落ち込みから立ち直った。
神権『龍神』。
その権能は、龍の神の権能。
効果は、龍やドラゴンをどうこうする権能。
「すみません。待ってください」
僕は、待ったをかける。
「どうしたんじゃ?」
「大雑把すぎやしません?」
思えば、『至王』の説明もザックリとしていたが、それでも成長という明確な例があった。
しかし、どうだろう?
どうこうする、だ。
流石に説明を求める。
「しかたないじゃろ、わしの時とは、効果が変わるんじゃ。使い手によって、権能の形は、変わる。そういうものなんじゃ」
「それじゃあ、ハザデスさんの時は?」
僕は、尋ねる。
「わしの頃は、龍を創造する力じゃった。一番最初のドラゴンスパイラルの守護龍たちもそれで作った」
「最初ってことは、今は違うんですか?」
「あぁ、結構変わっとる。代変わりしておらんのは、火竜、氷龍くらいじゃ」
そいつらは、どれだけ強いんだ。
化け物だな。
龍に化け物は、正しいかもしれないな。
「それで僕のは?」
「そんなもん自分で調べるんじゃな」
いきなり突き放された。
怒らせてしまったかと思ったが、ハザデスさんは続ける。
「わしにも解らんし」
うん、この人に悪意はないな。
この人? いや、龍か。
この龍は、基本的に善側だ。
あと親しみやすい老人みたいだ。
お爺さんって感じがする。
僕のハザデスさんのイメージが固まった。




