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水龍と眷属共

 僕は、開いた穴から抜け出す。

 肉壁は、焼けて炭化し、血だらけになるようなこともない。

 僕は、外へ出る。

 そして、飛んで上から惨状を見下ろす。

 僕が家を作れそうなほどに大きい地龍の残骸。

 丸々山頂に残っている。


 守り神? 門番?

 呼び方は、何でもいいが、それを倒してしまった僕は、大丈夫なのだろうか?

 何か怪物に侵略されないだろうか?

 しかし、もう倒してしまったし、取返しなんぞつかない。


 さっさと、この地龍を食べてしまおう。

 それで目的は、達成だ。

 その後は、戦闘中に獲得したスキルやらの確認だ。

 僕は、ごく自然に地龍の肉へかじりつこうとする。

 口を開け、肉を目の前にする。

 そして、食べようとした瞬間、僕の精神が最後の抵抗のように違和感を告げた。




 僕は、どうして地龍を食べようと思った?




 その時には、すでに肉を飲み込んだ後だった。

 強烈であり、穏やかな眠気が襲ってくる。

 僕は、疑問も持ったまま眠りについた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 ドラゴンスパイラルの東の山頂。

 そこで一体の小竜(スモールドラゴン)が眠りについた。

 強制的なもので抗うことのできないものだった。


 傍らには、かつてこの場を守護していた地龍が額に穴を開け、永劫の眠りへついている。

 一日もすれば、その血肉は、魔力へ分解され、生物の死んだ痕跡もない場所になるだろう。

 その任は、誰かへ引き継がれる。

 きっと、地龍の次に強い地従竜(アースドラゴン)が後任となる。


 今、倒された地龍もそうで前の地龍を倒したからだ。

 その任は、野生の本能で動く者であっても光栄なことだ。

 龍神から任されるのだ。

 種として、大役だ。

 理性がなくとも恐悦至極だ。


 龍という生き物は、そういう存在だ。

 龍神が頂点に位置しているとされていて、それは覆せない。

 龍は、強い。

 一部を除けば、上位の強さを有す。


 それを倒した彼。

 その勝負には、運もかかわっただろう。

 地龍の慢心もあっただろう。

 それでも彼の勝利に違いない。


 かの小さき者の肉体が作り変えられ、進化する。

 彼の二度目の種の進化。

 一度目は、討ち取ったドラゴンを食らったことで行われた。

 その時と同様に先へ進む。

 極めて特異な事案であった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 地龍の死亡から二日が経過した頃。

 頂にて、彼は目覚めた。

 かつては、ちっぽけな彼だったが、地龍に見劣りしないほどの巨体へ成長した。

 彼は、その体を起こし飛び立った。

 目指す場所は、東南の山頂。

 外など目にもくれない。



 そこには、彼の意思などない。

 固有能力(ユニークスキル)(ドラゴン)】の機能『竜の意思』が原因だ。

 その効果は、精神力をただ上げるだけでない。

 それは、一種の洗脳のようなものだ。

 ドラゴンの本能を強くし、闘争心を奮い起こす。


 今、本来の意識は、眠っているような状態だ。

 夢のよな状態から目覚めていない。


 頂上に差し迫った地点にて、アースドラゴンの時と同様に前座のドラゴンがいる。

 暴走した彼は、本能的に『解析』を行使する。


 ・ステータス・

 名前「なし」

 種族「水従竜(ウォータードラゴン)

 EXスキル・【飛行補助】【落下耐性】【衝撃耐性】【水中移動】【水中隠密】

      【水属性耐性】【水面歩行】【無呼吸】

 固有能力(ユニークスキル)・【(ドラゴン)】【畏怖】

 達成・〔魔物殺し〕



 アースドラゴンと同様にステータスには、大した個体差がない。

 そのスキルは、水に関するものばかりであった。

 そして、彼らも川の中へ身を浸している。


 不利だろう。

 大海原で鮫に挑むようなものだ。

 しかし、そんな道理など今の彼には、関係がない。

 それに実際、関係ない。


 彼は、作戦など微塵も考えず、戦闘へ突入する。

 ウォータードラゴンは、水を圧縮した球を発射し、迎撃を開始する。

 着弾と直後に爆発する水球で耐性なしでは、ひとたまりもない代物だ。


 それに対し、彼は、何の行動もとらない。

 防御も回避もしない。

 しかし、それでいい。


 固有能力(ユニークスキル)(ドラゴン)】の新たに追加された機能。

 『龍鱗』

 その効果は、鱗に対して耐性系のスキルの性能が倍になるというものだ。

 それは、絶対的な防御と冠しても文句は言われないだろう。

 水球など派手な水風船と一緒だ。


 そして、一発、『竜砲(ドラゴンブラスター)』を恒例のように放つ。

 それは、圧倒的だ。

 巨体になったことで熱線の直径も大きくなり、範囲が広がった。

 その熱により、水が蒸発する。

 ウォータードラゴンの大半が同じく、蒸発したが、一部は空へ逃れた。

 アースドラゴンと違い、飛行能力を残しているのだ。

 しかし、彼らの強みは、水があってこそのもの。


 取り逃した個体は、爪にて切り裂かれる。

 『龍鱗』と同じく新しい機能。

 『龍爪』

 耐性を貫通する爪。

 相手を紙のように分断する。


 歯ごたえもなく戦闘は、終了した。

 地龍との戦闘に比べれば、これは戦闘と言えない可能性すらある。

 彼は、その残骸には、目もくれない。

 目指すは山頂。

 ただ一つ。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 ドラゴンスパイラル南東の頂上。

 そこからは、四方へ川が流れ出ている。

 山頂には、巨大な水源がある。

 そこには、一体の龍がいた。


 不可侵領域を守護する一体。

 水龍。


 その体は、鱗に覆われた硬いものではない。

 むしろ、硬いとは対極だ。

 その体は、液体だ。

 水龍の持つ固有能力(ユニークスキル)【水使い】の機能の一つ『液状化』により、身体を液体に変えている。

 それすなわち、物理的な攻撃は一切効果がないということだ。


 それぐらいは、本能でも解る。

 なので、彼の実行する行動は、単純明快だ。

 龍としての『竜砲(ドラゴンブラスター)』。

 互いに早撃ち勝負というわけだ。


 両者がほぼ同時に『竜砲(ドラゴンブラスター)』を放つ。

 水龍は空中へ向けて、彼は水源に浸る水龍へ向けて、放つ。

 そのエネルギーの衝突は、凄まじく、衝撃波によって波紋が立つ。

 そして遅れて熱の反応が来る。


 早撃ち勝負は、引き分け。

 ならば、火力と気合の勝負になる。

 一歩も譲らない。

 怯まず、逃げない。

 『竜の意思』

 その機能の効果だった。


 両者の『竜砲(ドラゴンブラスター)』が撃ち終わる。

 共に無傷だ。


 水龍は、『竜砲(ドラゴンブラスター)』の代わりに次は水を発射する。

 細く、高圧力によって勢いのある水だ。

 すさまじいことにそれは、刃物より鋭い。


 相当な速度だが、彼はそれを見切って、回避する。

 地龍に鍛えられたその感覚が活きる。

 しかし、罠までは見抜けなかった。


 回避した先に水が集まる。

 普通の水がフワフワと集まっていく。

 大した脅威には、思えない。

 それらは、彼を覆う。

 そして、襲うのは圧力。

 深海に沈んだような圧縮感だ。

 これには、彼のスキルや鱗も悲鳴を上げる。


〈EXスキル【圧力耐性】を獲得しました〉



 スキルを獲得するほどだ。

 しかも、取りたての熟練度では、焼け石に水だ。

 

〈EXスキル【水属性耐性】を獲得しました〉



 この二つを獲得してようやく、十分に耐えられる。

 しかし、まだ脱出には、届かない。

 熟練度を上げるため、まだ耐え抜く必要がある。

 そして、猶予を易々と引き渡すような間抜けは、龍に至れない。

 二度目の『竜砲(ドラゴンブラスター)』を準備する。

 また早撃ち勝負だが、今回は有利不利が存在する。

 水が邪魔をする分、水龍の方が優位なのだ。


 二発目が放たれる。

 ………………と同時に彼は、放つのを待って、『緊急回避』を発動させる。

 風魔法によって、水を弾き、その一瞬で脱出する。

 そして、上空から改めて、『竜砲(ドラゴンブラスター)』を放つ。


 いくら発射後に向きを変えられるとしてもそこまで素早く対処できることではない。

 初撃の感覚だって残っているのだ。

 有利不利が逆転し、水龍が押される。


 そこで畳みかけるように彼は、接近する。

 『竜砲(ドラゴンブラスター)』は、近距離の方が威力の高い攻撃だ。

 それに魔力の慣性のようなものと精神的圧も加わる。


 水龍も負けじと集中するが、終わりは呆気のないもの。

 熱線に飲み込まれて、液体の身体が蒸発し、消え去った。


 彼は、ドラゴンスパイラルを守護する二体の龍を討伐したのだ。



『ふむ、やってくれたのぉ』



 彼の魂が何かに呼び出され、その場で眠るように気絶した。

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