地龍
僕の鼻に土の匂いが入り込んでくる。
臭くはない。
土の臭いではなく、土の香りだ。
僕は、目を開ける。
地面だ。
地面が目の前にある。
触覚からそのことは、解っていたが、いざ見ると地面だとビックリする。
僕は顔を上げる。
周囲には、抉れたり焦げたりした地面、倒れたり炭になった木々。
記憶にあるアースドラゴンとの戦場だ。
ただし、ドラゴンたちの死骸はない。
血も肉も骨も鱗も綺麗さっぱり消えている。
やはり腐敗とは別の要因で分解されるのだろうか。
僕は、起き上がって早々に風魔法を放ってみる。
問題なく発動して放てる。
魔力も知覚できる。
容量は、満タンだ。
魔力は、0から100まで回復してから復活なのか………………不便な充電だ。
僕は、しばらくしてから本来の目的を思い出す。
そうだ。
僕は、山頂を目指していたはずだ。
アースドラゴンから得た知識によれば、頂上には龍がいるらしい。
おそらく、地龍だ。
守護しているのだから山頂を通るには、倒さなければいけないのだろう。
ゲームでいうお通しのボスだ。
強さは、少なくともアースドラゴンの群を統べるほどだから、それらより強いだろう。
どうしたものか。
僕は出発した。
眠ったので体調も十分だ。
何ならさっきの魔法を使ったことで解ったが、魔力総量が増えている。
そういうことも熟練度と同じで成長するのだろう。
まさにベストコンディション。
僕は何か――――――本能に惹かれるように山頂を目指した。
◆ ◆ ◆ ◆
ドラゴンスパイラル東の山頂。
そこにそれは、いた。
山頂で吞気にふんぞり返っている。
しかし、確かな強さを備えている。
言わば、相応の態度だ。
暇そうだが、何もここまで来れないのだろう。
大地が一体化したような鱗の装甲。
翼はなく、脚部が発達している。
目の色は、赤茶色だ。
視線は、解らない。
僕は、本物かどうか確かめるために『解析』する。
もしも違ったら少し恥ずかしい。
誰の目があるわけでもないが、恥ずかしいのだ。
必要最低限にステータスを絞って表示する。
・ステータス・
名前「なし」
種族「地龍」
EXスキル・【飛行補助】【地属性耐性】【魔法耐性】【物理耐性】【跳躍】
【反射神経】【立体移動】
固有能力・【竜】【走者】
こんなところだ。
あんなのでも【飛行補助】は、持っているのか………………生まれたばかりの頃の物を持ち続けているようで親近感が湧く。
それでも挑むことには、変わりない。
まずは、初めて見るユニークスキルだ。
固有能力【走者】
機能
『速度変化』:加速、減速を自由に行える。
『尽きぬ力』:無制限の体力。
なるほど、こいつは解りやすい。
速度特化のスピード型だ。
いったい、時速何キロ出るのだろうか?
少なくとも衝突したら命が危ういだろう。
空中でも決して安心することはできない。
【跳躍】というスキルがある。
効果は、その名の通りだ。
対策は、簡単だ。
全力で全ての攻撃を回避すればいい。
当たらなければ意味がないのだ。
そしてそれは、僕にも言えることだ。
僕の必殺技である「竜砲」も当たらなければ意味がない。
そして、これは当てずらい技だ。
相手が知っていればさらに難易度が上がる。
地龍も知っていることがステータスから解る。
当て方を考えなければならない。
僕は、『並列思考』を使いながら様々な方法を検討しだした。
◆ ◆ ◆ ◆
作戦もかなり、纏まって来た。
そして、様子を窺っている時、気が付いたのだが、地龍はこっちに気が付いている。
それでも無視する。
強さから傲慢か、あくまでも守りとして待ち構えているのかは不明だ。
どっちでも構わないが、目にものを見せてやろう。
こんな何十分の一ほどの大きさのちっぽけな生物がお前に勝ってやろう。
僕は、そのまま地龍の前へと出る。
奇襲など無意味だ。
相手は、気が付いているから奇襲ではないし、効果もない。
地龍は、その目で僕を見据える。
僕は、構えて戦闘の意思を示す。
真剣勝負だ。
久しぶりだ。
前世のゲームでも最終的には、ほとんどのドラゴンとの張り合いも無くなってしまい、初見の時のような緊張感や初撃破の感動も無くなっていた。
レベルアップ上限と装備のレアリティと強化限界。
アップデートでさらに上の敵が出現することも願ったが、叶わないことだと諦めていた。
だから、この世界では、まだ違う。
僕は、まだ強くない。
まだ、楽しめる余地が多く残っている。
行くぞ。
地龍!
僕の策を見せてやる。
僕は、空高く飛び上がった。
地龍は、勝負を受けるように体を起こす。
立ったフォルムは、素早さ特化というだけあり、アースドラゴンに比べれば、細くしなやかに見える。
僕は、すぐにでも飛び掛かってくると身構えた。
しかし、まず地竜のしたことは違った。
吠えた。
大地を揺らすほど吠えた。
鳴き声の大きさの比喩だが、それは正しくなった。
大地が地震のように揺れ出す。
僕は、飛んでいるのにどんな利点があるんだ? と考えた。
よく見れば、揺れていたのは、大地の一部だ。
箇所が多いが、全体ではない。
それらは、そのまま空へ 打ち上げられた。
その大きさは、アースドラゴンの飛ばした岩石なんかより、ずっと大きい。
しかし、そのほとんどは、僕に命中することがない。
驚くほど狙っていない軌道だ。
つまり、これらには、別の意図がある。
僕の脳内がフル稼働して答えを導き出す。
アースドラゴンと同じだ。
これらは、足場だ。
僕がその考えに至った瞬間には、地上から地龍が雷鳴のように登ってきた。
僕は、『攻撃予測』で回避に移る。
空間を裂くような爪がさっきまで自身のいた空間を通っていた。
速すぎる。
今のだって、かなり反射神経を使った。
〈EXスキル【反射神経】を獲得しました〉
新しいスキルなど確認する暇はない。
勘で運用するしかない。
僕は、相手の動きをよく見る。
手とかを見るんじゃない。
筋肉の方を見るんだ。
鱗の隙間の僅かな動きを見逃してはいけない。
1フレームだって、変化を見逃すな。
〈EXスキル【思考加速】を獲得しました〉
情報の処理が格段に速くなる。
『並列思考』があるから普通より倍だ。
僕は、次の攻撃を落下することで回避しようとする。
【落下加速】で速度を上げる。
次の地龍の爪撃も回避できる。
ただし、加速が間に合わず、尻尾の先がダメージを負う。
大したものではない。
〈EXスキル【損傷耐性】を獲得しました〉
アナウンスもうるさく感じてきた。
ありがたい報告だが、集中の邪魔になる。
そのためには、余るほど集中しなければならない。
〈EXスキル【集中】を獲得しました〉
もういい。
僕は反応を止め、利用に全力を注ぐ。
次の攻撃を回避する。
急な方向転換により、闘牛士のようにひらりと避ける。
〈アチーブメント〔空を飛ぶ者〕を達成しました〉
獲得したユニークスキルは、『並列思考』へ丸投げして理解する。
兎に角、飛行技術のスキルのようだ。
そのまま自動運用してもらおう。
僕は、攻撃や時折混ぜられる岩石による砲撃も回避する。
鱗の表面を掠ることもあるが、大したものではない。
避けるだけで防戦一方だが、楽しい。
これこそ作戦なのだ。
攻撃に移るためにも今は、避け続かなければいけない。
相手は、まだ爪による攻撃と岩石を飛ばす攻撃しかしてこない。
まだ、あるだろう?
お前には、必殺技のような攻撃が………………一撃必殺の攻撃があるだろう?
僕は、内心煽る。
言葉を発せないのが悔やまれる。
できることなら煽りたい。
作戦のためにも早く切り札を切らせたい。
僕は、さらに高度を上げる。
もっと高く。
高高度まで、一気に駆け上がる。
スキルがなければ、こんなに無茶なことはできない。
僕は、地龍の足場を越え、空高くまであがる。
準備は、万端。
この距離でギリギリ間に合う。
さて、ある程度の高さなら攻撃が可能な地龍。
しかし、僕は今、足場からギリギリ跳躍しても届くか怪しい、言わば安全地帯にいる。
岩石だって、ここまでは届かない。
それにさらに上へ逃げる可能性もある。
こんな時、地龍はどうするだろうか?
簡単だ。
相手の立場になれば、解りやすい。
彼の持つ『竜砲』を限界まで跳躍してから撃てばいい。
あの巨体ならば、熱線の範囲も広いし、使いなれた龍であれば、僕に命中させられるはずだ。
そんなもの食らってしまえば、僕は一瞬で灰になるか、良くても大ダメージで飛行困難になり、落下したところを狩られるだろう。
しかし、それは想定外だった場合の話だ。
これは作戦の一部――――――否、作戦そのものと言っても過言ではない。
地龍は、僕の作戦通り、足場で加速して一番上の足場から跳躍して、『竜砲』の構えに入る。
口を僕の方へと大きく開ける。
僕は、待ってましたとそこへ飛び込む、スキルを活用し今までで一番の最高速度で飛び込んだ。
そのまま、口へ入り、閉じてしまう前に歯などをよけ、喉の奥へ行った。
作戦成功だ。
ここまでくれば、ほぼ勝ちだと言ってしまってもいい。
このまま『竜砲』を撃たれれば僕は、ゼロ距離よりさらに近い、マイナス距離で熱線を食らいそうだが、安心してほしい。
僕は、利用者だからそこら辺をしっかり理解している。
『竜砲』は、エネルギーを口へ集めて、そこで熱線へ変える。
つまり、ここは安全だ。
そして、丈夫な口の中なら大変だろうが、その奥は別だ。
自身の生態からヒントを得たこの作戦、上手くいって嬉しくてたまらない。
地龍が暴れるのを揺れで感じる。
それはそうだ。
前世で虫が喉に入ったと考えればいい。
それが危険なものならなおさら慌てる。
だが、あいつに対処法はない。
自身の体内への攻撃など持っているはずがないからだ。
僕は、余裕を持って自分の『竜砲』を溜める。
あぁ、とっても楽しかった。
僕は、そう思って地龍の頭の方へ向けて、相手の敗因にもなった『竜砲』を放った。
それは、頭部の喉から上へと貫き、脳を貫通して頭蓋も貫通していく。
最終的には、角のように頭から出ていくのを【空流感知】で感じとれる。
肉眼で見れないのが残念で仕方がなかった。




