第3話 小さな獣目線。
「”往ぬ”は何だったっけ?」
「えっと……”往ぬ”はナ行変格活用で
上から順番にな・に・ぬ・ぬ・る・ぬれ・ね、かな。」
「な・に・ぬ……かけた!」
「そしたら、最後にこの間の小テストの問題を解いてみようか。5分でいこうか。」
「了解!」
勉強同盟を結んだ次の日。 火曜日の放課後、早速図書室で勉強会が始まった。
那須さんが言った通り、図書室で教えているところだ。
今日の当番も僕だから、図書委員の仕事もできてちょうどいい。
とりあえず那須さんには一学期期末テストまでジャンルは問わず、教えることになった。
……ほんと、なんで僕なんだろう。
早く終わらせて理想の人生ルートに戻りたい。
「雨宮くん、終わったよ!」
目の前で小テストのプリントを見せびらかしてくる。
「じゃあ、採点するね。ちょっと待ってて」
「わかった!」
手を組み直したり、目が泳いでいたり、横でそわそわしている。
本当に純粋なんだなー。
「やっぱり採点中は他のの単語の復習にしようか」
「えっと……他の単語の復習……します!」
丸みのある綺麗な字だった。 ノートだけ見たら優等生みたいだ。
小テストは完璧だな。
「採点終わったよ。はい、どうぞ。」
「ありがと!よし!満点!!」
すごく嬉しそうだ。
「いい時間だし、今日はこれでおしまいにしよう。明日もだっけ?」
「そう明日も!よろしくお願いします!」
「わかったよ。じゃあ、また明日。」
彼女はバックを肩に担いでやはりあっさりと帰っていった。
意外とワイルドなところもあるんだなー。
さぁ僕もそろそろ我が家へ帰るか。
それから僕は金曜日になるまで毎日図書室に仕事をしながら通い、那須さんに古典、数学、英語を教えた。
「那須さん、これで古典の期末テスト範囲はおしまい。」
「おしまい!?私初めて古典のテスト範囲終わった!!」
古典のテスト範囲が初めて終わった?
今までどうしてたの?
「よくがんばりました。おつかれさま。」
「ふー疲れた。」
那須さんは椅子の背もたれに体重を乗せて体を伸ばす。
「来週は社会と英語を教えてほしいな!」
「社会と英語ね。わかったよ。テストまで残り2週間、頑張ろうね!」
「私今回は頑張る。」
いつも頑張ってくれ、那須さん。
「じゃあ、また来週!!」
「また来週。」
那須さんがいつものように肩にバックを担いで帰っていく。
にしても、長いな。この勉強同盟は。
しばらくは普通が僕のもとには帰ってこないな。
来週は社会と英語か……
正直、僕も苦手だ。
「土日で勉強しなきゃだな……」
頭の後ろで手を組み上を見上げながら、そんな事を呟く。
……ガコン!
「え??」
ロッカーから音が響く。
デジャブかな。またロッカーから音が聞こえたけど気のせいだよね……
ガコン!ガコン!
いや、気のせいじゃないかも。
そのロッカー、半トラウマものなんだけどな……
僕はカウンターから外に出て、ロッカーの前まで息を呑みながら足を運ぶ。
「誰もいないでくれよ……」
僕は勢いよくロッカーを開ける。
「あれ、誰もいない……」
よかった……いたら困ってたしな。
「ここに!いるわよ。」
「みゃァァ!!」
下の方に小柄な女の子がロッカーの中にいる。
真正面しか見てなかったから盲点だった……
「はるひと、あなたそんな気持ち悪い驚き方するのね。」
ひどくない?けど、ロッカーから出てきた人には言われたくないな。
なんか見覚えあるな……
「っておまえか!ちょ……」
「うるさいわね。そんな事はどうでもいいの。」
小柄な女の子が僕に向かって小走りで向かってくる。
僕は咄嗟に逃げるが、本棚の壁に追い詰められてしまった。
「ぼ、僕が何したっていうんだ!」
彼女は身体が当たるぐらい超至近距離に近づき、下から僕を見上げている。
獲物を狙う獣みたいで怖い。
「あの女、誰なの??」
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