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第1話 普通が崩れた日

「”忍耐と勤勉と希望と満足とは境遇に勝つものなり。”かー。」

初めて読む短編小説に僕は思わず、心を打たれ、声に出してしまう。


「あ、やべ。」


誰もいない図書室に、自分の声だけが少し響いた。


……まぁ、誰もいないしいいか。

ただ、モラル的にどうなんだって話は置いといて。


昨日、急に「図書委員の当番変わって欲しいんだけどいい?」

ってお願いされたのはいいけどほぼいる意味なくない??


誰もいないし。


けど、国木田先生の「非凡なる凡人」をみつけられて良かった。


“普通”を肯定してくれる本なんて、そう多くない。


少しは時間潰しになったし、

僕のなりたい理想が全て詰まった小説だった。


僕は良い大学へ行って、公務員になって、まぁまぁ綺麗な人と結婚して。

そんな人生でいい。


いや、そんな人生がいい。


だから国木田先生、

素晴らしい小説ありがとう。


「わぁ!!」


図書室掃除用ロッカーから何かが勢いよく飛び出してきた。


――同じ学校の女子高生だ。


目の前で起きている状況に僕の感動ムーブは一瞬で僕の中へ引っ込んだ。


彼女は何か目的達成の為に屍のように図書室を探し始めた。


なんか見たことあるんだよな……


僕はその光景に唖然しながら考えてみる。



肩に乗っかるぐらいの派手な桃色のロングヘアのギャル。しかもこの学校の人……


……あれは、同じクラスの那須琴音じゃないか。


クラスのマドンナがなぜこんな所のロッカーにいたんだ?


そういえば那須さん何かこの図書室で探してたよな。


……あれ。


視線にむけられている気がする。


顔を上げると少し遠くの場所でぴたりと静止した那須さんの姿がある。


腕を上げこちらを指差していた。


「……見つけた。」


その声に、なぜか背筋がぞくりとした。


見つけた!?

何言ってるんだ、那須さんは。


声をかける暇も与えず、那須さんが早足でこっちに向かってくる。


貸し出し用のカウンターを越えて、僕の座っている目の前でまたぴたりと止まった。


すると、那須さんは僕の顔を見て、少し思い悩む顔をし始めた。


なんでこんな至近距離に来てそんな顔するの?


僕の顔になんか付いてるの?


僕を見ていた那須さんの目の色が変わった。


これは……覚悟の顔をしているぞ。嫌な予感しかない。


那須さん何もしないよね……


まさかそんなラブコメみたいな展開にならないよね……いや、なるなよ。


突然、那須さんは僕の右腕を掴んだ。


やっぱりそういう感じ!!?

ほんとに困るんだけど……


「ついてきて。」

と言うと共に僕の右腕を引っ張り始めた。


「え、ちょっ。」


聞く暇もなく僕を図書室の外へ僕を引きずっていく。


ちょっと脳みそが追いつかない。


僕、那須さんになにかしたのかな?

  

また、那須さんが止まった。

今度は図書室の二つ隣にある特別室の目の前で。


掴まれている腕に力が入っていくのを感じる。


え、なにされるの?


「いっで…!」


今度は特別室の中へ吹っ飛ばされたんだけど!?


状況を把握する前に那須さんが特別室の鍵を閉める。


……僕、殺されるの??


那須さんがこちらに向かってくる。


やばい、どうしよう。


このままだとまずい。


「まだ……早まらない方が……」


止まらない。


「やめたほうがいいんじゃないでしょうか……」


全然止まらない。


マジでこのままだと殺される気がする。


那須さんをどうにか……


「あ、」

という声と共に那須さんが僕の前に倒れてくる。


そして、この馬乗りの状況だ。

駄目だ。整理してもわけがわからない。


なんでこんな状況になったんだ。

那須さんになんて声かければ良いんだ。


まだ高校生活二ヶ月目なのに……

終わった、僕の、普通の人生。



読んでいただきありがとうございます。

この作品も連載していきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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