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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第9話:『石炭は黒いダイヤモンド ――燃料革命と、旧権益者の断末魔』

「……計算、終わりました。お姉さん、これで合ってる?」


 揺れる馬車の中で、ライラが差し出してきた羊皮紙には、殴り書きながらも正確な数値が並んでいた。

 項目は【石炭一キログラムあたりの熱量換算】および【旧来の魔石とのコスト比較】。


 私は内容を一瞥し、一箇所だけ朱を入れる。


「煙突の排熱による損失ロスを三%低く見積もりすぎています。ですが、初日の業務としては合格点ですね。……ライラ、貴方が今出したこの数字は、何を示しているか分かりますか?」


「……魔法を使うより、石炭を燃やしたほうが『八〇倍安い』ってこと」


「正解です。そして安いということは、それだけで正義(利益)になる」


 馬車が止まった。

 到着したのは、旧王立魔導研究所。かつては国中のエリート魔導師が集い、膨大な予算を消費して「より派手な魔法」を研究していた場所だ。

 だが今、その門前には「火がつかない」「お湯が沸かない」と喚き散らす、薄汚れた法衣姿の男たちが溢れかえっていた。


「クロエ・フォン・アインツベルン! 貴様、よくもつらを出せたな!」


 先頭で叫んだのは、元筆頭魔導師のバルトロメウスだ。かつて私に「数字しか見えない女に、魔法の深淵は理解できん」と言い放った男である。


「魔法を返せ! 貴様のせいで、我が研究所の貴重な実験体はすべて死に、我々は明日の茶を淹れる火すら作れんのだぞ!」


 私は馬車から降り、冷徹に彼を見下ろした。

 

「お湯が欲しければ、マッチを擦って焚き木を燃やせばよろしいのでは? 小学生でもできる事務処理ですよ」


「馬鹿を言うな! 我々選ばれし魔導師が、そのような野蛮な真似ができるか! 魔法こそが文明だ、魔法こそが……っ!」


「その『文明』の維持コストが、世界の寿命を食いつぶしていたことに気づけなかった無能が、選ばれし者、ですか。……笑わせないでください。今の貴方たちは、一文の利益も生み出さない『不良在庫』です」


 私は背後の馬車から、ライラと、そして屈強な人足たちを呼び寄せた。

 彼らが担いでいるのは、黒い泥の塊――石炭。そして、鉄鋼で組まれた奇妙な筒状の機械だ。


「な、なんだそれは。そんな汚らわしい炭を持ってきてどうするつもりだ」


「貴方たちが一時間かけて呪文を唱え、わずかな熱を得ていた作業を、数秒で、かつ自動で行う『システム』の導入ですよ。……ライラ、準備を」


「了解、お姉さん」


 ライラが手際よく石炭を釜にくべ、火をつける。

 やがて、鉄の筒の中で水が沸騰し、圧力が上がっていく。

 シュシュ、という規則正しい音が、やがてゴオオオ、という力強い咆哮に変わった。


 ピストンが動き出し、巨大な車輪が回転を始める。

 魔法など一切使われていない。ただの熱と、圧力と、物理の連鎖。


「な……なんだ、これは。魔力が感知できないのに、なぜ動く……!? なぜこれほどの出力が……!」


「【蒸気機関・試作零号機】。貴方たちが『奇跡』と呼んでいた現象を、誰にでも扱える『物理現象』に置換したものです」


 私は計算盤アバカスを叩き、バルトロメウスの鼻先に突きつけた。


「【比較報告】

 ・旧・火炎魔法による湯沸かし:魔石消費量三〇〇ゴールド相当、専門職一名の拘束。

 ・新・石炭式蒸気機関:石炭消費量三ゴールド相当、非熟練労働者一名。

 結論:コストパフォーマンスにして、約一〇〇倍の改善。……バルトロメウス様。貴方の魔法は、この鉄の塊一ひとつに敗北したのです」


 バルトロメウスが膝を突いた。

 その背後で、魔導師たちが絶望に染まっていく。

 彼らが一生をかけて磨いてきた「技術」が、一瞬で「採算の合わないゴミ」へと成り下がったのだ。


「……さて。私は忙しいので。陛下、次の予定へ」


 馬車の中から、アラリックが静かに降りてきた。彼は灰色の空を見上げ、石炭の煙を見つめている。


「クロエ、この煙は金の匂いがするな」


「ええ。ですが、同時に『火種』の匂いもします。……陛下、この石炭の独占販売権を巡って、旧貴族たちが動き出しました。彼らは自分たちの利権が失われるのを恐れ、この機関を『禁忌の術』として糾弾するつもりでしょう」


「フン。無能な既得権益者どもか。……潰すか?」


「いえ。潰すのはコストがかかります。……彼らには、『自分たちもこの利益にあずかれる』という幻想を見せつつ、実際には帝国の下請けとして組み込んでしまいましょう。……そのための『投資契約書』、すでに三〇部用意してあります」


 私はライラを見つめた。

 彼女は、黒い煤で汚れた顔を拭いもせず、回る歯車を愛おしそうに見つめている。


「お姉さん、これ……すごいよ。世界が、全部数字で繋がっていくみたい」


「そう。それが、本当の意味での『世界の支配』です」


 だが、その時。

 研究所の奥から、一人の騎士が慌てて駆け寄ってきた。


「報告します! 帝都北方の第一炭鉱にて、旧貴族の私兵団による『武力封鎖』が発生! 彼らは石炭の出荷を止め、クロエ殿の身柄を要求しています!」


「……やれやれ。私の時給を無駄にするのが、よほど好きなようですね」


 私は冷徹に、次のタスクを脳内でソートした。

 

【最優先事項:反乱勢力の経済的包囲。および、石炭に代わる『代替エネルギー』の偽情報の流布による市場操作】


 剣で戦うのは陛下の仕事。

 私はただ、彼らが明日食べるパンの価格を操作して、戦意を喪失させるだけです。


「ライラ、次の計算です。……反乱貴族たちの全資産を三日で暴落させるために必要な『風評被害の拡散コスト』を算出しなさい」


「……了解、ボス!」


 魔法が消えた後の世界。

 そこは、知性が最も残虐な武器になる、本当の意味での「戦場」でした。

クロエ、物理(蒸気)の力で旧魔導師たちを粉砕!

「魔法=高コスト」という現実を突きつけ、時代の敗北者を冷酷に処理する姿は、まさに新時代の支配者ですね。

新弟子ライラも、メキメキと実務能力(と毒舌)を吸収しています。


しかし、利権を奪われた旧貴族たちが武力行使という暴挙に出ました。

これに対し、クロエは「経済戦」で応戦する構え。

物理的な封鎖を、彼女はどう「数字」で突破するのか?


次回、第10話。

『空売り(ショート)で反乱を鎮圧せよ ――騎士団を破産させる三つのステップ』


「武器を持たない少女」が、軍隊をどうやって解体するのか。

その鮮やかな「事務処理」をぜひ見届けてください。

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