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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第10話:『空売り(ショート)で反乱を鎮圧せよ ――騎士団を破産させる三つのステップ』

「……陛下、剣を納めてください。一兵卒を殺すのにかかる『騎士の時給』と『装備の摩耗費』がもったいない」


 炭鉱へと向かう馬車の中。アラリックが愛剣の重さを確かめている横で、私は手帳の数字を弾き出した。

 報告によれば、反乱軍は旧王国の貴族連合。石炭の独占を狙い、私兵三千を動員して炭鉱を封鎖。私の身柄と、蒸気機関の設計図の引き渡しを要求しているという。


「クロエ、貴様は時に俺より冷酷だな。包囲された現場の連中は、今か今かと俺の首を狙っているのだぞ」


「彼らが狙っているのは、私の首ではなく『首につけられた懸賞金』です。……ライラ、調査の結果は?」


 馬車の隅で、大量の書類に埋もれていたライラが顔を上げた。その瞳には、徹夜明け特有のぎらついた光が宿っている。


「……終わったよ、ボス。反乱を主導しているのは三つの侯爵家。彼らは石炭の価値が上がると踏んで、市場にある石炭の先物を『買い占めて(ロング)』いる。その資金源は、領地を担保にした強引な短期借り入れ……。つまり、石炭の価格が下がれば、彼らは一瞬で破産する」


「素晴らしい。……では、ステップ一です」


 私は馬車の窓を開け、追走する帝国の伝令官に命じた。

「帝都の全掲示板に公示を。――『帝国政府は、石炭に代わる新燃料として、より安価な天然ガスの採掘に成功した』。……もちろん、真っ赤なフェイクニュースですが」


 伝令が走り去る。アラリックが眉をひそめた。

「ガス? そんなものはまだ見つかっていないぞ」


「市場とは、実体ではなく『期待』で動くものです。新燃料が出ると思えば、誰も高価な石炭など買いません。……続いてステップ二。ライラ、隠し持っていた『石炭の空売り予約』をすべて市場に投下しなさい」


「了解。……これ、あのおじさんたちが泣き叫ぶ顔が見えるね」


 ライラが魔導通信機(魔法なき今、有線式の信号機に改造したもの)を操作する。

 これで市場の石炭価格は暴落を始める。買い占めていた貴族たちは、担保割れを起こし、銀行から一斉に「追い証(追加証拠金)」を迫られることになる。


 そして。

 馬車が炭鉱の入り口、反乱軍の陣地へ到着した。

 槍を構えた騎士たちが、殺気立って私たちを包囲する。


「来たか、クロエ・フォン・アインツベルン! その身を差し出せば、命だけは――」


 先頭で叫ぶ騎士団長。その言葉を遮るように、私は馬車から降り、一枚の紙を差し出した。

 

「騎士団長閣下。……ステップ三、最終清算のお時間です」


「なんだ、それは……? 降伏勧告か?」


「いいえ。貴方たちが所属する侯爵家の『破産宣告書』と、それに伴う『資産差し押さえ命令』です」


 私が懐中時計を見ると、ちょうど定刻を告げる音が響いた。

 その瞬間、騎士たちの持っていた魔導通信機(こちらはまだ魔法頼りの旧式だ)が、微かなノイズを吐き出した。本国から届いたのは、絶望的な報告だろう。


「な……馬鹿な! 我が主が破産だと!? 石炭の価格は、この封鎖で跳ね上がるはずだったのに!」


「貴方の主君は、私の流した『偽情報』に踊らされ、底値で石炭を投げ売りしました。その損失額、約二億ゴールド。……団長閣下、今の貴方は『誰からも給与を払ってもらえない、ただの武装した無職』です」


 騎士たちの間に、動揺が伝播する。

 私はさらに追い打ちをかけた。


「現在、貴方たちの立っているその土地、そして手に持っている槍の一本一本に至るまで、帝立銀行が債権として差し押さえました。……このまま抗戦を続けるなら、貴方たちは『不法占拠者』として、家族共々、帝国のブラックリストに載ることになります。逆に、今すぐ槍を捨てて『炭鉱作業員』として再雇用契約を結ぶなら、今日の夕食と、滞納されている先月分の給与を保証しましょう」


 ガラン、と。

 一人の騎士が槍を落とした。

 それは連鎖し、数秒後には、三千の兵が私の足元に跪いていた。


 剣を抜く必要すらなかった。

 彼らが守っていたのは「主君のプライド」ではなく「明日の生活費」だったのだから。


「……計算通りですね。ライラ、彼らの雇用契約書の束を持ってきて」


「はい、ボス。……ねえ、これって、剣で殺すより残酷じゃない?」


「合理的、と言ってほしいですね」


 立ち尽くす騎士団長を背に、私は炭鉱の中へと歩を進めた。

 だが、私の視線は地面に落ちた一つの財布に釘付けになった。

 反乱貴族が騎士たちに配っていた、手付金の金貨。

 その刻印には、王家の紋章でも、帝国の紋章でもない、「聖教会の双翼」が刻まれていた。


「……陛下」


 アラリックが、その金貨を拾い上げ、忌々しげに吐き捨てた。

「教会の隠し口座か。……クロエ、どうやら世界の負債を清算するには、まだ『不要な利息』を徴収している連中がいるようだな」


「ええ。宗教法人の不透明な資金源……。徹底的に『監査パージ』する必要がありますね」


 私の錆びた印章が、再び微かに熱を帯びる。

 世界の裏側で、数字を歪めている黒幕の正体。

 私は手帳に新しいページを開き、最も太いインクで書き込んだ。


【次期ターゲット:聖教会の裏帳簿、および全資産の凍結】


 不眠症は、まだ治りそうにありません。

 ですが、次の「損切り」対象が決まったことで、私の脳内は最高にクリアな状態でした。

クロエの「空売り戦略」、見事に的中!

武力行使という非合理を、マーケットの論理で粉砕する姿は、まさに実務系令嬢の極地ですね。

騎士たちが「無職」になった瞬間に槍を捨てるリアリズムも、なろう読者にはたまらないカタルシスだったのではないでしょうか。


そして見つかった聖教会の金貨。

第1部で「魔法(借金)」を止めたクロエに対し、教会が仕掛ける次の「経済的罠」とは?

新弟子ライラも、クロエの「数字の暴力」に戦慄しつつも、着実にその力を受け継いでいます。


次回、第11話。

『宗教法人の強制査察 ――神の慈悲は非課税ではありません』


ついに聖域の帳簿にメスが入ります!

「このざまぁ、賢すぎる!」「クロエの次の一手が見たい!」という投資家の皆様。

ぜひブックマークと評価【☆☆☆☆☆】という名の「資本注入」をお願いいたします!

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