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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第6話:『聖域の帳簿は血で汚れている ――魔力枯渇の真犯人を監査せよ』

「……署名、完了しました。これで満足か、クロエ」


 ジュリアンの震える手がペンを置き、インクの滴が契約書の末尾を汚した。

 かつて王太子として全権を振るった彼の署名は、いまや帝国の「特別管理領」における、ただの債務者の記号に過ぎない。


 私は、秘書官に命じて書類を回収させた。


「満足、という主観的な評価は差し控えます。ただ、これで王国の資産価値の下落を食い止める『法的根拠』が得られた。それだけです。……さて、ジュリアン『元』殿下。貴方の初仕事は、その散らかったテーブルの整理と、過去三年分の王宮食糧費の再計算です。明日の朝までに終わらせるように」


「なっ……! 署名したばかりだぞ! 少しは休ませ――」


「債務者に休暇オフタイムなど存在しません。貴方の時給は一分単位で、貴方の国を救うための『利息』に充当されるのですから。……一秒でも長く働けば、それだけ国民が飢える時間が減る。そう考えれば、やりがいのある職場でしょう?」


 私は彼を執務室に閉じ込め、鍵をかけた。

 絶望に染まった彼の顔を思い出す暇もない。私の網膜には、常に「次」の不採算項目がリストアップされている。


 迎賓館の廊下に出ると、そこには聖女セラフィナが立ち尽くしていた。

 彼女は祈るように胸の前で手を組み、涙を浮かべて私を睨んでいる。


「クロエ様……! 貴方はどこまで残酷なのですか! 殿下をあんなに追い詰めて……! 私が祈れば、きっと神様が助けてくださるのに! 貴方のやっていることは、救済ではなく略奪です!」


「救済、ですか。ではセラフィナ様。貴方のその『無償の祈り』の原価コストを計算したことはありますか?」


「コスト……? 何を仰っているの。私の祈りは無償、神様から授かった愛の力です!」


「非合理極まりない。……陛下、少し失礼します」


 私は隣にいたアラリックに断りを入れ、セラフィナに一歩詰め寄った。

 手の中の『錆びた印章』が、彼女に近づくほどに熱を帯び、黄金の輝きを増していく。


「貴方が昨日、広場で怪我人を癒やした『奇跡』。あれにより、周辺の土壌に含まれていた魔力濃度が〇・三%減少しました。その結果、近くの農村では今朝、小麦の苗が三割枯れています。……セラフィナ様。貴方の奇跡は『無償』ではない。周囲の環境資源を『強引に前借り』して、一箇所に集中させているだけの、悪質な資源強奪ショートです」


「そ、そんなはずは……! 私はただ、苦しんでいる人を助けたくて……!」


「『善意』で世界が回るなら、財務官など必要ありません。貴方の祈りは、いわば『高利貸し』と同じです。今この瞬間も、貴方の背後にある聖域から、世界全体の魔力が吸い上げられている。……そしてその『利息』を払っているのは、貴方ではなく、この国の貧しい民たちだ」


 私が印章をセラフィナの胸元に突きつけると、彼女の聖なる魔力が弾け、黒い霧のようなものが漏れ出した。

 網膜の数値が、激しくアラートを鳴らす。


【負債回収プロセス:強制起動中】

【聖域の魔力残高:マイナス八五、〇〇〇、〇〇〇ゴールド相当】


「……これが、貴方の愛の正体です。膨れ上がった負債の山だ」


 セラフィナは悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。

 彼女を支える者は、もはや誰もいない。


「クロエ、面白いものが見えたな」

 アラリックが私の肩を叩き、窓の外にある「聖域」――王国の中心に位置する巨大な大聖堂を見据えた。

「あの中に、この世界の『不渡り手形』が隠されているというわけか」


「ええ。この国の魔力枯渇は、自然現象ではありません。誰かが意図的に、世界の魔力を『一箇所』に集め、運用している。……その運用主を、これから監査パージしに行きましょう」


 私たちは、静まり返った聖域へと足を進めた。

 大聖堂の地下へと続く隠し通路。

 そこには、祈りの声ではなく、機械的な「拍動」が響いていた。


 巨大な魔導回路が張り巡らされた、黄金の空洞。

 その中心に鎮座していたのは、神の像ではなく――巨大な『金庫』だった。


 その金庫の扉には、私の持つ『錆びた印章』と、寸分違わぬ形の窪みがある。


「……見つけました。世界の『帳簿』の正体を」


 私は印章を、その窪みへと差し込んだ。

 カチリ、という乾いた音が響き、数百年閉ざされていた扉が、ゆっくりと、しかし重々しく開き始める。


 その先に広がっていたのは、金貨の山ではない。

 数千、数万という、人々の「魂」と「魔力」を担保にした、膨大な『債務契約書』の海だった。


「……陛下。これを見てください」


 契約書の一枚を手に取った私は、戦慄した。

 そこには、千年前の初代国王の署名から始まり、最新のセラフィナの祈りに至るまで、この世界の人間が魔法を使うたびに「何を支払うか」が詳細に記されていた。


 支払うべきもの――それは、世界の『寿命』そのものだった。


「魔法とは、未来を売り払って買う『借金』だったというわけですか。……なら、話は早い」


 私は冷徹に、しかしどこか晴れやかな気持ちで、手帳を取り出した。


「これほど巨大な『不正融資』を見逃すほど、私はお人好しではありません。……陛下、準備はよろしいですか? 世界のシステムを相手に、史上最大の『債務整理』を始めましょう」


 その時。

 背後の闇から、先ほどの聖教会の特使・マルクスの声が響いた。


「……開けてしまいましたね、禁忌の金庫を。クロエ様。貴方は世界を救うつもりでしょうが、それは同時に、魔法という名の『夢』を終わらせることになるのですよ?」


「夢で腹は膨れません。……それに」


 私は、完全に錆の取れた黄金の印章を掲げ、不敵に笑った。


「――私は、夢を売る商売人ではなく、現実を清算する財務官ですので」


 物語の「本当の敵」が、いま、闇の中から姿を現した。

クロエ、ついに世界の「魔法の正体」を暴く!

魔法とは、世界の寿命を切り売りする「悪徳ローン」だったという衝撃の事実。

聖女セラフィナの祈りが実は環境破壊だったというロジックは、まさに実務系令嬢ならではの切り口ですね。


ついに姿を現した聖教会の真意。

そして「魔法のない世界」への清算が始まろうとしています。

果たしてクロエは、この巨大な「負債」をどう処理するのか?


第1部はいよいよ最終局面へ。

次回、第7話。

『世界を破産させる三つの方法 ――天界銀行との最終交渉』


クロエの監査メスが、ついに神の領域へ食い込みます!

「この理屈、面白すぎる!」「クロエの清算を見届けたい!」という方は、ぜひブックマークと評価【☆☆☆☆☆】で、彼女の「決算」を支援していただけると嬉しいです!

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