表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/25

第4話:『聖女の祈りは経費で落ちますか? ――宗教法人への強制査察』

「神の負債……。面白い冗談ですね」


 私は手帳を閉じ、目の前の男――聖教会の特使、マルクスを冷徹に見つめた。

 先ほどまで銀行総裁がふんぞり返っていたこの執務室の空気は、いまや線香の匂いと、拭いきれない胡散臭さに満ちている。


「冗談ではありませんよ、クロエ様。この世の魔力、その恩恵……それらはすべて、神からの預かりもの。我々教会は、その『利息』を祈りとして回収し、天へと納めているのです」

「なるほど。つまり貴方たちは、実体のない『概念』を担保に、世界中から寄付金を募っている『超法規的決済代行業者』というわけですね」


 マルクスの微笑みが、わずかに引きつった。

 私は立ち上がり、窓の外――帝都の中央広場にそびえ立つ巨大な大聖堂を指差した。


「あの建物の維持費、年間で約四〇〇万ゴールド。所属する司祭たちの人件費、および『奇跡の触媒』と称した高価な魔石の購入費用……。これらすべてが、帝国では『非課税』として処理されています」

「神への奉仕に、俗世の税を課すなど――」

「奉仕かどうかを判断するのは神ではなく、帳簿です」


 私はデスクの魔導端末を叩き、一つのグラフを表示させた。

 昨夜、銀行の裏帳簿から抽出した「不透明な送金データ」だ。


「この十年、聖教会がバレンシア支部を通じて王国へ送った『救済金』。その三割が、名目とは裏腹に軍事用の魔導具開発に流用されています。……マルクス様。宗教法人の免税特権は『公益性』が前提のはず。戦争準備への加担は、立派な契約違反(規約違反)ですよ」


「……それは、民を守るための――」

「言い訳は不要です。私が知りたいのは一点だけ。この『神の負債』という言葉……貴方たちの帳簿には、この世界の魔力残高が『負債』として計上されているのですか?」


 マルクスの瞳の奥に、一瞬だけ鋭い「検察官」のような光が宿った。

 彼は私の手の中にある、一部の錆が剥げ落ちた印章を凝視している。


「クロエ様。貴方は賢すぎる。……その印章は、かつて『世界の均衡』を管理していた銀行家たちが持っていたもの。それを持ち出した貴方は、もはや一国の財務官では済まされない」


 その時。

 執務室の扉が音もなく開き、アラリックが姿を現した。

 彼は私とマルクスの間に割って入るように立ち、冷ややかな視線を特使に投げた。


「我が国の財務官に、これ以上の勧誘ハラスメントは控えてもらおうか、教会の犬」

「……陛下。これは失礼いたしました。ですが、彼女の存在は、今の世界の『均衡』を崩しかねない」

「均衡だと? 不良債権を積み上げたまま、見せかけの平和を維持するような均衡など、俺が叩き壊す。……クロエ、こいつの相手はもういい。次の案件だ」


 アラリックは、一通の赤い封書を私の机に放り出した。

 それは、私の指紋に反応して開き――中に書かれていた署名を見て、私は思わず口角を上げた。


『親愛なるクロエへ。至急、王国の財政立て直しについて相談したい。ジュリアン』


 文字が震えている。

 おそらく、王宮の魔導障壁が消滅し、空っぽになった金庫の前で、半泣きになりながら書いたのだろう。


「……相談、ですか。私が投げたゴミが、三日で泣きついてくるとは。予想以上に『不採算』な連中ですね」

「どうする、クロエ。受けるか?」

「もちろんです。ただし、『相談』ではなく『債権回収』として。……陛下、この王国の窮地を利用して、王国の全インフラを帝国の資本下に置く『敵対的買収(TOB)』を仕掛けましょう。私がその先兵を務めます」


 マルクスが顔を青ざめさせて部屋を去っていくのを横目に、私は手帳に新しいプロジェクト名を書き込んだ。


【プロジェクト名:王国債務整理および領土の流動化】


 愛だの、過去だの、そんな非効率なものは、一ゴールドの価値もありません。

 私が彼らに教えるのは、たった一つ。

『有能な事務官を捨てる』という行為が、どれほど高くつく「損失」であるかという現実です。


「……ところで陛下」

「なんだ」

「この査察、出張扱いになりますか? 日当と危険手当、それから王国の資産を買い叩くための『軍資金』の承認をお願いします」


 アラリックは豪快に笑い、私の肩を抱き寄せた。

「好きなだけ使え。……その代わり、あの王子が絶望する顔を、一番いい特等席で俺に見せろ。それが俺への『配当』だ」


「承知いたしました。最高の『ざまぁ』……いえ、最高の『事業報告』をお届けします」


 私は印章を握りしめた。

 剥がれた錆の下から覗く黄金の文字が、私の体温に反応して、新しい「数字」を網膜に映し出す。


【世界負債残高:計測不能(臨界点まで残り三二〇〇日)】


 ……どうやら、私の仕事は、この世界が「倒産」する前に、帳簿を合わせることになりそうです。

 やりがいのある現場ですね。不眠症が捗りそうです。

クロエ、今度は「教会」を論理の刃で滅多切り!

「宗教法人の免税特権」を突くあたり、実務系令嬢としての容赦のなさが際立ちます。

そして、ついに元婚約者のジュリアンから情けない「助けてメール」が届きました。

しかしクロエの答えは「救済」ではなく「買収(TOB)」。

かつての婚約者を「経営破綻した取引先」として処理する準備が整いました。


物語はいよいよ、追放された元王国への「経済的逆侵攻」へと突入します!


次回、第5話。

『王国の買収(TOB)を開始します ――元婚約者はただの不良債権です』


クロエの容赦ない「債権回収」が始まります。

この展開に「スカッとする予感!」を感じた方は、ぜひブックマークと評価【☆☆☆☆☆】で、クロエの買収工作を応援してください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ