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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第20話:『自由港の闇市場 ――「帳簿にない金」を洗う技術』

「ログイン成功。……では、この不愉快な光の粒子を片付けてください。網膜の解像度に悪影響を及ぼします」


 私がそう告げた瞬間、視界を覆っていた幾何学模様の壁が霧散した。

 アインツベルン号が接舷したのは、石造りの港ではない。

 光を放つ半透明の樹脂で構成された、浮遊する巨大な「ターミナル」だ。

 自由港アイテール。

 魔法を失い、蒸気に縋る旧大陸とは隔絶された、論理と情報の理想郷――少なくとも、彼らはそう自称しているようだ。


「お姉さん、これ……すごいよ。港全体の熱効率が完璧。無駄な摩擦がどこにもない」

 ライラが目を輝かせて周囲を計測する。


「……いえ、ライラ。表面が滑らかなだけです。帳簿の裏側には、必ず摩擦(汚職)が生じる。それが、人の社会という不採算なシステムです」


 船のタラップが下りると、そこには白一色のタイトな衣装に身を包んだ、感情の読めない男女が並んでいた。

 中央に立つ男が、空中に浮かぶ半透明の板――タブレットを操作しながら、私を「査定」するように見た。


「未開経済圏からの来訪者。私は自由港アイテールの港湾監査官、シラス。……入港を許可する前に、資産審査アセット・チェックを行う。貴様らの船にある『金貨』を提示せよ」


 私は、ジュリアンに命じて革袋を一つ運ばせた。

 中には、帝国で流通している純度の高い聖教金貨が詰まっている。

 シラスはそれを一瞥し、鼻で笑った。


「……不純物の多い金属片だな。わがアイテールにおいて、このような『物理通貨』に価値はない。……入港税として、これ一〇〇袋を没収する。残りはスクラップとして、低レートで『ロゴス(電子通貨)』に変換してやろう」


「なっ……! 一〇〇袋だと!? これだけで一国の予算に匹敵するんだぞ!」

 背後でジュリアンが絶叫する。


「静かにしなさい、ジュリアン。……大臣、いえ、シラス監査官。……一つ確認したいのですが、貴方のその『ロゴス』という通貨、ベースとなっているのは何ですか? 星の核からの供給エネルギー(マナ)ですか?」


「……知った風なことを。そうだ。わがアイテールは、星と直結した『純粋演算経済』。旧大陸の泥臭い交易とは格が違う」


「そうですか。……では、なぜ貴方の手元の『公的な入港記録』と、そのターミナルの奥で密かに並列処理されている『私的な決済ログ』に、一二%の乖離かいりがあるのですか?」


 シラスの指が、一瞬だけ止まった。


「……何のことだ」


「【監査開始】。……ライラ、三番ポートのバックエンドに接続なさい。暗号は、私がさっき目視で盗み見た管理者権限のパターンで通ります」


「了解、ボス! ……あ、あったよこれ。……『入港税の三割を、特定の個人口座にロンダリングするプログラム』。……おじさん、これ、ここのお偉いさんにバレたら、貴方の『資産価値』はゼロどころかマイナス(処刑)じゃない?」


 ライラが私の指示通りに「数字の爆弾」を投げつける。

 周囲のスタッフたちの間に、動揺が走った。シラスの額に、初めて「非合理な汗」が浮かぶ。


「……貴様、何者だ。旧大陸の猿が、なぜわが国の演算コードを読める……!」


「私はただの事務官です。……シラス様、取引トレードをしましょう。貴方のその『帳簿にない金』の存在を、今ここで一秒以内に消去してあげます。……代わりに、私たちの金貨を、通常の一〇倍のレートで『ロゴス』に変換し、アイテール内での全権限フルアクセス・キーを要求します」


「……っ。……承知した。……貴様ら、資産審査を終了しろ! 特例での入港を許可する!」


 シラスが震える手でターミナルを操作する。

 私は、彼から渡された光り輝くカード――『ロゴス』のチャージされた認証キーを受け取った。


「賢明な判断です。……無駄な摩擦をなくすのが、私の仕事ですので」


 私はアラリックを伴い、輝く都市の内部へと足を踏み入れた。

 そこは、人々が一切の現金を介さず、頭上のセンサーで個人の「信用スコア」をやり取りする、極限の管理社会だった。


「……クロエ、いきなり現地の官吏を恐喝か。相変わらずだな」

 アラリックが楽しげに笑う。


「恐喝ではありません。不適切な会計処理の是正を代行し、その手数料を正当に請求しただけです。……それより、陛下。この都市には、一つだけ『計算が合わない場所』があります」


 私は、都市の中心にそびえ立つ、空を貫くような白亜の塔を見上げた。

 母の印章が、今までにないほど激しく熱を帯び、私の網膜に一つの「負債通知」を映し出す。


【債務者名:アインツベルン】

【滞納期間:三〇〇年】

【現在の債務残高:大陸三つ分の時価総額に相当】


「……三〇〇年、ですか。利息だけで、人類が滅びる規模ですね」


 私は手帳の新しいページに、最も太いインクで書き込んだ。


【重要案件:自己の血筋に関わる『天文学的な負債』の清算。および、新大陸中央銀行の乗っ取り】


 どうやら、私という存在そのものが、この世界にとっての「最大の不良債権」だったようです。

 ……受けて立ちましょう。

 どんな巨大な赤字だろうと、私は一円の狂いもなく「清算」してみせます。


 不眠症。

 しかし、目の前に現れた「全大陸を買い叩けるほどの巨大な課題」を前に、私の心はかつてないほどの『投資意欲』に燃えていました。

第20話、区切りの回を迎えました!

新大陸「アイテール」に降り立ったクロエ。

高度な演算社会を自称する彼らに対し、わずか数分で「汚職の証拠」を突きつけて主導権を握る姿は、まさに実務系令嬢の面目躍如です。


そして判明した、クロエの名を冠した「天文学的な負債」。

彼女の母が、そして「アインツベルン」の名が新大陸で何を意味していたのか?

世界一の有能事務官は、自分自身の「出生」という名の巨大な赤字をどう清算するのか……。


物語は第3部、いよいよ「世界の真実」と「グローバル経済戦争」の核心へと突入します!


「ここからが本番だ!」「クロエに世界を買い叩いてほしい!」

そう感じてくださった投資家の皆様。

ぜひ、評価【☆☆☆☆☆】とブックマークで、クロエの「負債清算プロジェクト」への出資をお願いいたします!

皆様の応援こそが、彼女の最強の「資本」になります!

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