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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第19話:『出航の決算報告 ――さらば不採算な旧大陸』

「……三、二、一。抜錨ばつびょう


 私の号令と共に、巨大な鎖が巻き上げられる音が港に響き渡った。

 帝国旗艦『アインツベルン号』。全長一二〇メートル。魔法を一切使わず、三層式の蒸気タービンのみで駆動する、この大陸史上最強の「暴力(資本)」が、ゆっくりと岸壁を離れていく。


 岸壁では、海上保険の証書を握りしめた家族たちが、祈りではなく「確信」に満ちた顔で手を振っていた。

 その光景を、私はデッキの上から事務的に見下ろす。


「お姉さん、最終積載データの照合、終わったよ」

 ライラが、煤まみれの手で計算盤を差し出してきた。


【出航前・最終アセットチェック】

・石炭:予定の二割増(旧王立劇場の座席を燃料として加工・補填)

・真水・食料:三ヶ月分(真空パック技術による長期保存)

・バラスト(底重り):旧王宮の大理石床、および黄金の門(溶解・鋳造済み)


「……いい重みですね、ライラ。かつて私を『強欲』と罵った者たちが踏みしめていた床が、今は私たちの船を安定させるために役立っている。これこそが、建築資材としての『適材適所』です」


「……ボス、性格悪いって言われない? あの大理石、ジュリアンが泣きながら運んでたよ」


「事実を述べているだけです。……さて、そのジュリアンは?」


 視線を向けると、船倉の入り口で、豪華な刺繍の消えかけた事務服を着たジュリアンが、樽の数を数えながら青い顔をしてうずくまっていた。

 その隣では、セラフィナが「帝国の正当性」と「新通貨の利便性」を説くパンフレットを一心不乱に折っている。


「……あ、クロエ! これ、本当に私がやるのか? 数の計算が……三回やっても合わないんだ!」

「ジュリアン。一〇までの足し算ができないなら、貴方の食料配給ランクを『家畜』まで下げます。……次回の報告時には、誤差〇・〇一%以内で持ってきなさい。時間はコストですよ」


 ジュリアンが絶望の声を上げ、再び樽の中に顔を突っ込む。

 かつての婚約者の惨めな姿を、私は一秒の感傷もなく視界から消去した。


「クロエ、面白い眺めだな。過去の残骸を燃料と重りに変えて、未知へ挑むか」

 アラリックが船首楼から降りてきて、私の隣に立った。

 彼は海風を浴びながら、腰の剣ではなく、私が渡した『海流予測図』を眺めている。


「陛下、私は無駄なものが嫌いなだけです。……旧王宮の維持費に金をかけるくらいなら、それを溶かして船の竜骨キールにした方が、よほど利回りがいい。……これで、この大陸に残した私の『不良債権』はすべて処理されました」


「……ああ。だが、向こうから来るのは、もっと厄介な『負債』かもしれんぞ」


 アラリックが指差す先――水平線の向こう。

 そこには、昨夜見た無人船のブラックボックスが発していたのと同質の、微かな『論理の歪み』が見えた。


 通常、海は青く、空は白い。

 だが、前方十海里地点。海面がまるで鏡のように静まり返り、空中に「デジタルなノイズ」のような幾何学模様が浮遊している。


「……ライラ、計器を確認」

「……お姉さん、これ変だよ。海水の塩分濃度がゼロ。……いや、そもそも『液体』としての反応がない。……これ、ただの『データ』だよ!」


 船員たちの間に動揺が広がる。

 ドレイク提督が叫ぶ。

「止まれ! あんな海は見たことがねえ! 神の領域だ!」


「いいえ。……提督、そのまま直進してください。これは神の領域ではなく、新大陸側が設置した『ファイアウォール(防壁)』に過ぎません」


 私は黄金の印章を掲げた。

 鉄に戻ったはずの印章が、ノイズの壁に近づくにつれて、強烈な青い光を放ち始める。


「【プロトコル:ログイン】。……私たちの『実務能力』が、この壁を突破するに値するかどうか。……向こうのサーバーに、帝国の帳簿を叩きつけてあげましょう」


 アインツベルン号が、ノイズの壁に接触する。

 衝撃はない。

 ただ、私の脳内に、膨大な量の「数字」が直接流れ込んできた。


【接続元:旧大陸・未開経済圏】

【審査:開始。……貴文明ノ『総資産』、並ビニ『清算能力』を提示セヨ】


 私は微笑んだ。

 冷たく、そして最高に好戦的な微笑みを。


「……提示します。私の時給、金貨一〇〇億枚分に相当する、この星の『未来の計算書』を」


 ノイズの壁が裂け、その向こう側に、未知の輝きを放つ「自由港」の姿が浮かび上がった。

 魔法を捨て、物理を掴んだ私たちが、初めて目にする『論理の都市』。


 不眠症。

 しかし、私のペンは、新大陸の全資産を買い叩くための『買収契約書』の冒頭を書き始めていました。

クロエ、旧大陸を完全に「踏み台」にして出航!

かつて自分を断罪した王宮を溶かして船の部品にするという、実務系令嬢らしい徹底した「清算」に、胸がすく思いです。


そして、ついに到達した新大陸の入り口。

そこは魔法でも物理でもなく、世界の「データ」そのものが剥き出しになった奇妙な空間でした。

新大陸側から突きつけられた「文明の審査」。

クロエは自らの「計算能力」を武器に、この未知の市場をどう攻略するのか?


第3部、いよいよ本格始動。

次回、第20話。

『自由港の闇市場 ――「帳簿にない金」を洗う技術』


新大陸の支配者たちとの、最初の「商談(戦争)」が始まります。

この壮大なイグジットを見届けたい投資家の皆様。

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