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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第12話:『聖都の封鎖を突き破れ ――帝国通貨「石炭預かり証」の発行宣言』

「……パン一つが、銀貨五枚? 昨日までの三倍ですね。非効率極まりない」


 帝都の市場を歩く私の耳に届くのは、悲鳴に近い物価の叫びだ。

 聖教会による「経済封鎖」。

 聖都バチカンが発行し、大陸の基軸通貨となっている『聖教金貨』。教会はその全流通を「不浄な帝国との取引には使わせない」と宣言した。


 結果、商人は支払いを拒み、物流は凍結。帝都の棚からは食料が消え、人々は「神の罰だ」と嘆き、再び教会の門へ縋り始めている。


「お姉さん、これ……計算が合わないよ! みんな金貨を隠しちゃって、市場に『流動性』が全くない。このままだと三日で帝都が餓死する!」


 ライラが真っ青な顔で、計算盤を叩きながら叫ぶ。

 だが、私は足を止めることなく、手帳に冷徹な数字を刻んだ。


「ライラ。人々が恐れているのは『金貨がないこと』ではありません。金貨がなければ『物が買えないこと』を恐れているのです。……ならば、答えは簡単。金貨に代わる『価値の裏付け』を提示すればいい」


 私たちは帝立銀行のバルコニーへと向かった。

 階下には、金を求めて暴徒と化した市民たちが、憲兵隊と睨み合っている。

 

 そこへ、アラリックが静かに姿を現した。彼は腰の剣を叩き、不敵に笑う。


「クロエ、準備は整った。全軍に命じて、教会の全倉庫を『強制管理』下に置かせた。……だが、これではただの略奪だ。長続きはせんぞ」


「略奪など、コストの高い野蛮な行為はいたしません。……陛下、これをご覧ください」


 私はバルコニーから、一枚の「紙」を突き出した。

 ただの羊皮紙ではない。帝国の公印と、私の複雑な魔導署名(もはや魔力はないが、インクの成分で偽造を防止したもの)が施された証書だ。


「……石炭預かり証?」


「はい。現在、帝国が独占している全炭鉱。そこから算出される石炭一〇〇キログラムと、いつでも引き換えることができる『権利』を証券化したものです。……今日からこれを、帝国内の法定決済手段として定義します」


「……待て。金貨ではなく、紙を、石炭と換える権利を売買させるというのか?」


「その通りです。陛下、教会の金貨に価値があったのは、教会がそれを『神の価値』だと保証していたからです。ですが、魔法が消えた今、神にパンを焼くことはできない。……対して、石炭は物理的にお湯を沸かし、工場を動かし、冬の寒さを凌がせます。……生存に直結する『熱量』こそが、新しい世界の唯一の担保です」


 私はバルコニーから、広場に向かって声を張り上げた。

 事務官としての、冷徹で、しかし絶対的な信頼を湛えた声を。


「帝都の市民、および商人諸君! 教会の金貨を抱えて震えるのはおやめなさい! その金属片では、明日のパンも焼けません! 今この瞬間より、帝国財務局は『石炭預かり証』を発行します! この証書一枚で、帝国の全炭鉱から優先的に石炭を配給し、さらに帝立銀行がその価値を『食料』で保証します!」


 静まり返る広場。

 私はライラに合図を送り、一万枚の「預かり証」を、まるで雪のように広場へと撒かせた。


「これは施しではありません! 帝国の『信用』への投資です! この紙を受け取り、取引を再開した商人は、今後の帝国独占事業への優先参加権を付与します! ……逆に、まだ教会の金貨に固執する者は、その鉄屑と共に飢えなさい。私は、不採算な人間を救うほどお人好しではありません!」


 一人の商人が、風に舞う「紙」を掴み、その署名を凝視した。

 そして、私の顔を見上げる。


「……クロエ様。あんたが言うなら、この紙は『本物』なんだな?」


「私の帳簿に、不渡りは存在しません」


「……よし、売った! 在庫の小麦、全部この紙で受け付けてやる!」


 連鎖は一瞬だった。

 「クロエなら間違いない」という、これまでの実務で築き上げた『個人への信用』が、教会の千年続く『権威への信用』を凌駕した瞬間だった。

 市場から消えていたパンが、再び並び始める。商人たちは教会の金貨を捨て、帝国の「紙」を求めて列を作った。


 アラリックが、私の隣で溜息をついた。

「……恐ろしい女だ。金貨という神の偶像を、たった一枚の紙切れでゴミに変えたか」


「ゴミではありません。ただ、市場価値がゼロになっただけです。……陛下、これで第一段階終了です。……ライラ、次の計算を」


「わ、わかってるよ、ボス! 新通貨の『通貨供給量』の調整と、インフレ率の監視だね?」


「ええ。それから、聖都バチカンが抱えている膨大な『金貨』が紙屑になったことで、彼らのバランスシートは今頃崩壊しているはずです。……弱ったところを、今度は『買い叩き』に行きましょうか」


 私の錆びた印章が、今やかつての黄金の輝きを超え、静かに、しかし力強く私の手の中で脈打っているような気がした。


 宗教が支配する「中世」は、いま、幕を閉じた。

 ここから先は、私たちがデザインする「資本の時代」です。


 不眠症。

 しかし、私の視界はかつてないほど、透明な数字で満たされていました。

クロエ、ついに「通貨発行権」を手に入れる!

聖教会の経済封鎖を「石炭本位制」の導入で鮮やかに逆転する姿は、まさに実務系令嬢の真骨頂。

金貨を「ただの金属」と言い切るシーンは、現代の経済概念を知る私たちから見ても最高のカタルシスですね。


しかし、自分の名前を冠した通貨が生まれるほどの影響力を持ったクロエ。

これは聖教会だけでなく、大陸中の国々を敵に回す、あるいは「狂信的な依存」を生むことになります。


次回、第13話。

『聖都バチカンのデフォルト ――神の代理人が土下座する日』


ついに聖都への直接攻撃……いえ、直接「監査」が始まります。

「クロエの経済侵略、もっと見たい!」と感じた投資家の皆様。

ブックマークと、評価【☆☆☆☆☆】という名の「資本注入」をお願いいたします。

皆様の評価が、帝国の新通貨の「価値」をさらに高めます!

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