翡翠さんは正月休み、なので正月特番”試練ちゃんタイムトラベル”1
翡翠さんの実家は京都の神社なので、初詣で忙しいから実家に帰りました。
「おい、青水、なんで私に初詣に来ない?」
「はあ?おまえはどう見ても初詣される女神じゃないだろ。」
「他の神々がたくさんの人々に初詣されているのになんか悔しい。」
「だっておまえ神社がないじゃないか。初詣は神社に行くものだ。」
「そうか、神社があれば良いのか。」
「いや、そもそもおまえは古代ギリシャ風の衣装だから初詣客なんか来ないよ。日本独自の風習だからな。」
「しょうがないな。じゃあ、はい。」
「なんだ、その手は?」
「お賽銭だよ。お賽銭くれ。あとお年玉も。」
「おまえのほうが何万年も年上なんだから、そっちがお年玉を寄こせ。」
「しょうがないなあ、青水ちゃんもいい歳してまだお年玉欲しがるなんて。」
「って、これ、梅干しじゃねえか。」
「年末年始で暴飲暴食したんだろ?梅干し茶漬けでさっぱりしとけ。」
「お、おう。ありがとな。」
「翡翠には休暇を与えて実家へ帰らせた。」
「ああ、あいつの実家は京都の神社だったな。それこそ初詣で大忙しだろう。」
「熊手で賽銭をかき集めておろう。」
「やめい!それはあまりに残念な絵柄だ。」
「熊手って本来そういうものだろ?」
「まあそうだけどさ...銭だけではなくて家運、健康、良縁、なんでもかき集める。」
「さすが強欲な日本文化。」
「日本のラノベで日本をディスるな!」
「欲望の町、東京。」
「変なナレーションを始めるな!」
「六本木♪ ギロッポン♫ 俺の欲望バッコンコン」
「下品な擬音のラップやめろ!」
「六本木と言えば、セイレーンたち、デビューが決まったぞ。」
「お、それは春から縁起が良いな。」
「オーディションで審査員総立ちだった。全員屹立!」
「その変なワードチョイスやめろ!」
「大手プロダクションだから優勝間違いなし。海外進出も視野に入れてビッグプロジェクトが動き出す。うちらにもビッグマネーが...」
「ちょっと待て!おまえらも金取るんかい!」
「だって初期投資で私が稼いだ金塊やダイヤモンドをずいぶん溶かしたからな。」
「おまえが稼いだんじゃなくて、翡翠がたぎる性欲をダンジョンで散らした結果だろ?」
「まあ、そうも言えるが。ともかくエラはそういうところが抜け目ないからがっぽり稼いで帰ってくるよ。コンカフェの内装をリフォームしたいって言ってたしな。」
「まあ、正月から縁起が良くて何よりだ。翡翠が休暇中ならおまえもゆっくり休め。」
「は?何を言ってる。翡翠がいない今だからこそチャンスなんだよ。正月企画で、“試練ちゃんタイムトラベル”の開始だ。」
「おい、やめとけって。」
「読者がみんな待っている。お屠蘇を飲んで待っている。」
「韻を踏んで言うな。」
「じゃあ、行ってくるね。お土産待っててね。あと、この梅酒、置いていくから飲んで待ってろ。」
「おう、どこに出張って行くのか心配だけど、まあ気をつけて行ってこい。」
女神が到着したのはガリラヤのナザレ。現在のイスラエル北部、地中海の近くだ。時は紀元前後。なんとなく空気が淀んでいる大工小屋を女神は訪れた。
「おい、ヨセフ、初めましてだな。苦しゅうない。私は女神だが土下座しなくてもかまわんぞ。ファンと気軽に触れ合う気さくなアイドル...いや、女神だ。」
「女神様...ですか?」
「おう、悩みなら聴いてやるぞ。女か?女だろ?わかったわかった、みなまで言うな。」
「はい、妻と決まったマリアが...その...子を宿しました。」
「なるほど。で、おまえはやってないと。」
「はい、指1本触れていません。」
「なるほど。つまり寝取られ案件か。」
「いえ、そんな簡単な話ではないのです。彼女が孕んだことを知った私は、縁を切るしかないと決心して眠りについたのですが、枕元に天使が現れて、マリアのお腹の子は聖霊によるものなので安心して妻として迎え入れろと。」
「ほう、天使を遣わせて火消しを図ったか。なるほど、事情はわかった。悪いようにはしないので私に任せろ。私は試練の女神、こういう案件は大好物だ。必ずお腹の子の父親を暴き出して慰謝料と養育費を払わせてやろう。」
「そんなあ...相手は神様かも知れないのですよ。」
「ふん、私とて女神だ。畏れるに足らん。安心して朗報を待て。良いな。」
女神はそこから飛び立ち、ギリシャを目指した。犯人候補リストの上位にはオリンポスの神々が並んでいる。やつらは人間の女を孕ます術にかけては追随を許さない。女を孕ませて英雄を量産する。ふざけるな。やり逃げは許さないぞ。女神は飛翔速度を上げた。女神の背中には翼が展開しているが、それには象徴的な意味しかない。女神の浮力と推進力は翼の羽ばたきによって物理的に得られるものではなく、その無尽蔵な霊力による。
「ふっふっふ、たとえ飾りでも翼がないとサマにならないわ。翼、そんなものは飾りです、偉い人はそれがわからんのです、と言うやつがいるが、飾りは大事なのだよ。偉くならないとそれがわからんのだよ。」
女神はキプロス島に降り立った。
「良し、ここを活動拠点にしよう。かつてやり込めたアフロディーテの島だけど、もう私にちょっかい出す勇気はないでしょう。身体の脂肪を嘲笑ってやったから姿も見せられないわね。さっそく基地を構築しよう。」
女神がキプロス島に拠点を構築しようとしていると、島を統治するアフロディーテがやって来て抗議。
「あなた、私に無断でここに何を作ろうとしているの?」
でも女神はえへらえへら笑って、
「あら、また少し太った?大丈夫、特製の梅干しを上げるから、それでダイエットしなさいね。」
「くっ、女神でなければ神罰の“ヴィーナス・ラブミー・チェーン”を食らわしてやるのに...」
「あ、そうだ、アフロちゃん。ゼウスとかアポロンとかいつ集まるの?オリンポスの男神たちに用事があるんだけど、どうせなら一度に全部やりたいかなと思って。」
「アフロって縮めないでいただけます?意味が変わってくるので。」
「だって長いんだもの。じゃあディーテちゃん。」
「ポセイドン以外は金曜日に宴会を開いてますよ。ヘルメスはお使いに出ていないことが多いけど。」
「わかったわ、ありがとうね。」
「何かテロでも起こすつもり?」
「まさか!そんな乱暴な女神じゃありません。じゃあ金曜日までのんびりネクタルとアンブローシアでまったりするわ。」
「その無言の圧で私に供物を要求するのやめていただけます...もう、わかったわよ。あげますよ、ネクタルとアンブローシア。」
「まあ、ありがとう。ディーテちゃん、素直でかわいいわ。」
金曜日になったので女神はオリュンポスに現れた。神々は宴たけなわだった。
「やっほー、皆さん!私は試練の女神、試練ちゃんと呼んでくれて良いわよ。アフロディーテちゃんの紹介でやってきました。交ぜてもらって良いかしら?」
「かまわんよ。別嬪の女神はいつでも歓迎じゃ。」
ゼウスが好色そうな笑顔で相好を崩した。彼が傍らに控えるガニュメデスに目配せをすると、女神の杯にネクタルが注がれた。
「今日はこの場に奥様のヘラさんがいませんね。」
「おお、やつはデメテルの家に遊びに出ている。」
「ならば良い機会です。ここにお集まりの男神のみなさん、素直にお答えください。ガリラヤの女に手をつけた方はこの中にいらっしゃいますか?」
神々はお互いの顔を不審そうに見ながらがやついた。
「わしはやっとらんぞ。」ゼウスが手を挙げて否定した。
「私もだ。」アポロンは心外だという顔で首を振った。
「私はアフロディーテ一筋だ。」アレスも不愉快そうに言い捨てた。
「私もだ。」「俺もだ。」「そんな田舎の女に手を出すわけがない!」
宴の参加者は口々に否定して、その答えに疑いを挟む余地はなかった。
「ここにいないのはハデスとポセイドンだが、どちらもシロだな。ハデスはペルセポネー一筋で冥界から外へは出ない。ポセイドンは海神なのでガリラヤまで到達できない。」
ゼウスのこの言葉で、オリンポスの神々は全員無罪ということが判明した。女神の捜査は壁にぶち当たった。
「なぜそのような質問をわれらに?」
ゼウスのこの当然の疑問に答えるため、女神はコトの詳細を話した。
「なるほど、女を孕ませて天使を遣わしたと。これは我々ギリシャの神々の仕業ではないな。天使などという存在はここにはいない。どこか異国の異教の神の仕業だろう。わしにはまったく見当が付かんが。そういうことはロードス島の学者に聞くが良い。あそこには地理や歴史の文献が揃っているからな。」
日本のラノベサイトなので、このネタも燃えることはないでしょう。キリスト教徒には禁忌かも知れないけどさ。




