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翡翠さんタイムトラベル――巫女が女神に送り込まれた歴史や物語に介入して胸くそを潰します  作者: 青い水


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翡翠さんも頑張った、でも女神様も今回は頑張りました

はあ、紅白歌合戦の前に書き終えました。歌合戦に興味はありませんが。

 女神がセイレーンを連れて奔走しているころ、翡翠はオデュッセウスのもとへ急いだ。スキュラの対策を伝えるためである。


「オデュッセウス!安心しなさい。セイレーンはもういません。異世界へ転移させました。彼女たちはそこで新たな人生を始めることになるでしょう。」


「おお。ならば脅威が一つ減りました。」


「次の脅威も、オデュッセウス、あなたの覚悟次第で無力化できます。」


「本当ですか?何でもやります。」


「何でも....と言いましたね。その言葉に嘘はないと?」


「天に誓って。」


「ならばオデュッセウスよ。おまえの特殊能力を遺憾なく発揮してスキュラを堕とせ。」


「は?何と?私にそんな特殊能力などありませんが。」


「隠さなくてもいい。そして恥じる必要もないぞ。おまえは四十路を越えた立派なオヤジだ。女を抱けるだけでも立派なものだ。なのにおまえは、人間の女だけではなく神格を備えた女たちを次々にメロメロにして、なおかつ都合の良いように捨てても恨まれない。」


「そ...それは...」


「おまえの二つ名は“知略に富む(ポリュメティス)”だが、私はむしろ別の二つ名を与えたいぞ。“尽きぬフェロモンの泉”、“目に陽根を宿せし者”、“テクネーを備えた無敵の珍棒”、“女神堕としの甘言と抱擁”、さあ、どれが良い?」


「お願いですから勘弁してください。自覚はあります。自覚はありますが、そのように生々しく突きつけられると、その...大事な瞬間に思い出して萎えてしまいそうです。」


「うむ、それは困るな。ならば取り下げよう。知略に富むオデュッセウスよ、スキュラをおまえのフェロモンとテクネーでメロメロにしろ。さすれば犠牲を出さずに難所を乗り切れる。」


「私はどうなるのです?」


「おまえはどうにでもなるだろ?これまでもどうにかできた。きれいに女と別れるのはおまえの18番じゃないか。憂い顔で海を眺めるという得意技を使えば良いだけだ。」


「物語の情緒がすべて色褪せますね。」


「あのお、つかぬことを質問しますが...」


「何だ、答えられる問いなら答えよう。」


「スキュラの下半身はどうなっているのでしょう?」


「多頭の怪物でできている。」


「あのお、男女の営みはどうやって...」


「ふざけるな!私は巫女だぞ。巫女は処女だ。処女に向かってそんな生々しくもゲスい話を直球で投げるな!神罰だ、神罰!アテナ様が許しても私が許さん!」



挿絵(By みてみん)



「す、すみません。お許しを。」


「良いか、オデュッセウスよ。女はな、心から愛されているという実感さえ持てればそれで満足するのだ。そこから先は2人で話し合うのだな。」


「わかりました。話し合ってみます。」


「良し、覚悟はできたな?」


「はい。行って参ります。」




 数日後に翡翠は、人形を乗せた小舟をスキュラの住む島へ流してみた。何も起こらなかった。怪物は出ない。次に翡翠は、いつでも離脱できるように羽根を展開した状態で島へ船で向かった。浜辺に着いても何も起こらない。どうやら成功だ。スキュラはオデュッセウスと幸せな抱擁を交わしている。なにしろスキュラは処女だ。処女のまま怪物にされた。その悲しみを“尽きぬフェロモンの泉”に浸してやれば、怪物の攻撃性は溶ける。翡翠はオデュッセウスの部下たちの元に戻り、状況を説明した。ここを突破するなら今しかないと。





 エラと異世界の女たちは買い物袋をいっぱい持って満足そうに夜の六本木を闊歩していた。



挿絵(By みてみん)



「いっぱい買い物したわね。」


「良かったんですか?いっぱいお金を払っていたみたいですけど。」


「本当はキャッシュじゃなくてクレジットカードが良いんだけど、それだと私たち、身元がね。」


「女神様から預かったお金ですよね?」


「良いのよ。これは必要経費。これから芸能界へ乗り込むんだからみすぼらしい服装じゃダメなの。ハイブランドを身に付けて舐められないようにしないと。」



「わーい!うちらも便乗して爆買いできた!」


 ミナルナがエラ以上にたくさんのショッピングバッグを提げてはしゃいでいる。



挿絵(By みてみん)



「女にとって東京はね、こういうことをするための場所なのよ。」


「エラさん、大人っ!」


「じゃあ、荷物はコインロッカーに入れて、少し夜遊びして帰りましょう。」


「うわ、ますます大人、危険な香り!」


「行くわよ、ビルボードライブ東京!」





 翡翠は45人の戦士たちとともに船でスキュラの島の近くを航行していた。波は穏やかで風は凪ぎ、船は滑るように進む。島の海岸に...オデュッセウスが立っていた。翡翠は宙を舞ってオデュッセウスの元に駆け寄った。


「オデュッセウス!ひとりか?スキュラは?」


「みなを怯えさせるので中で待っている。」


「彼女とは...その...仲良くなったのか?」


「なった。そしていろいろと話し合った。」


「そうか、それは良かった。」


「巫女イアスピアよ、頼みがある。」


「何だ、知略に富むフェロモンの王よ?」


「私を連れてキルケの島まで行ってくれ。」


「キルケに会ってスキュラは大丈夫なのか?」


「スキュラも連れて行く。」


「何だと?」


「キルケに頼んでスキュラを元の乙女に戻してもらう。」


「そんなことができるのか?」


「わからない。だが胸襟を開いて頼めば気持ちはきっと伝わるはずだ。私が甘言で女を籠絡する男ではないことを証明しよう。」


「わかった。キルケの島へ戻ろう。スキュラも同乗するのか?」


「いや、彼女は自力で泳ぐ。あの姿で船には乗れない。」


「わかった。今すぐキルケの島へ戻ろう。」






 エラたちはシャンパンとライブの音楽に酔いしれて、大量のショッピングバッグとともにマンションに帰還した。


「音楽も素晴らしかったけれど、食事もすごかった。あんなの食べたことがない。」


 セイレーンやミナルナは興奮を隠しきれない。


「無事に芸能界デビューを果たしたら、毎日食べられるわよ。きょうのライブはジャズだったわね。どうだった、あの音楽?」


「魂に語りかける音色だった。メロディーが血管の中を駆け巡る。」


 セイレーンは覚え立てのメロディーをハミングで口ずさみ、やがてフルボイスのスキャットで歌い出した。ハーモニーが空気を共振させ、椅子やテーブルが振動した。


「ちょ、ちょっと待って!いったんストップ!」


 エラが慌てて止めた。


「まずボリュームの調整を覚えましょうね。あなたたちが思いきり歌うと部屋が壊れるかもしれないもの。」


「うわあ、びっくりした。脳みそが持って行かれるかと思った!」


 ミナルナが口をあんぐり開けてセイレーンを見つめた。


「声は良く出ているし、旋律も正確よ。でも、制御できていない。プロのボイストレーナーに付いて声の制御と歌唱法のヴァリエーションを学ぶことから始めましょう。それから自主練用のスタジオも手配しないと。明日から忙しくなるわよ。」






 キルケの島に到着したオデュッセウスはスキュラを伴ってキルケに会いにいった。


「おお、オデュッセウス、戻ってきたのか?ん?何だ、その怪物は?」


「怪物だと?」


 スキュラは殺意の籠もった目でキルケを見た。



挿絵(By みてみん)



「怪物だと貴様が言うこの姿、作ったのは貴様自身だ。忘れたとは言わさないぞ!」


「はて、さまざまな動物をこしらえてきたので忘れてしまった。すまんな。」


「貴様!」


 飛びかかりそうになったスキュラを制してオデュッセウスが言った。


「このスキュラ、おそらくどのような魔法を使ったのか覚えていないのだろうが、おまえが人間の乙女から作り上げたもの。その理由は嫉妬だった。おまえが懸想する海神が人間だったこの娘に恋をしたので、逆恨みでこのような姿にしたのだ。だが、謝れとは言わない。おまえの悔しさも良くわかる。ただ、この通りだ。このオデュッセウスが下げた頭に免じて、スキュラを元の乙女に戻してはくれぬか?スキュラはまだ男を知らぬ処女のままこの身体に変えられてしまったのだ。同じ女ならわかるだろう?閨の喜びを、私とおまえ紡いだあの快楽の夜を、知ることなく永遠に閉じ込められる苦しみを。」


 オデュッセウスの雄弁はキルケの心を動かした。


「わかった。そして思い出した。確かにこの娘は私の一時の嫉妬のため怪物の身体に閉じ込められてしまった。良いだろう。今すぐその戒めを解いてやろう。付いてくるが良い。地下の薬品庫へ。」


 キルケに連れられたスキュラは、数分後に美しい乙女の姿で戻ってきた。


「オデュッセウス様、私....」


「抱いてやるが良いぞ、オデュッセウス。この娘、おまえに恋をしている。」


 キルケは吹っ切れたような笑顔でそう言った。


「いや...、やめておこう。スキュラよ、再び手にした乙女の操、どうかこれから出会う最愛の男に捧げてやれ。その交わりが子をなすことを念じながらな。」


「オデュッセウス様....」


 スキュラは一瞬寂しそうな笑みを浮かべたが気を取り直し、オデュッセウスに抱きついた。そして自分から熱い口づけを求めて受け入れられた。翡翠は一部始終を見て、オデュッセウスに与えた不埒な二つ名を回収しようと決心した。






「ボイトレも始まったし、スタジオで音源も作ったわ。もう少し作り込めばライブもできそうね。ワンマンライブにはまだ曲数が足りないから、ミナルナとのツーマンでやりましょう。」


「やったー!久しぶりにアイドルできる!」


「それとこれ!」


 エラはテーブルに雑誌を何冊か並べた。


「オーディション雑誌よ。ネットでも調べられるけど、雑誌のほうが詳しい情報が得られるの。良く読んでチャレンジしたいのがあったら言ってね。残念だけどミナルナはダメよ。うちの看板スターなんだから移籍は許しません。」


「はーい。」


「あ、そうだ。東京にはオープンマイクのお店がたくさんあるの。お客さんの前で歌えるわよ。ただし、カラオケなので既存の曲に限定されるけど。えーと、セイレーンはやめておきましょうね。まだちょっと声が制御できていないので、お店が壊れたりすると今後のデビューに差し障るから。ミナルナは良いわよ。近所のカラオケで練習してからオープンマイクへゴー!きっと大ウケすると思うわ。」


「わーい!オープンマイクへゴー!」





 スキュラとキルケは和解し、オデュッセウス一行は2人と別れて改めて船を出した。順風に恵まれてしばらく進むと、かつてキルケが告げたとおり、太陽神ヒュペリオンの牛たちが暮らす島へと到着した。ここで風は凪いで船は動かなくなった。仕方なく一行は島の入り江に船をつなぎ上陸した。ここで牛を屠れば全滅する。翡翠は一計を案じて女神回線を開いた。


「おお、翡翠か、どうした?」


「女神様、お願いがあります。ワインとステーキを持ってこちらへ来てもらえませんか?女神様のユニークスキル“体内摂取無限増殖”が必要になりました。このままだと太陽神の牛に手を出しかねません。」


「わかった。ステーキだな?ちなみに何かこだわりはあるか?」


「ありませんよ、そんなの。」


「私はあるぞ。よし、エラたちが六本木に住んでいるので、あの界隈にある芸能人御用達の有名ステーキ店から見繕って持って行こう。待ってろ。」






「おーい、エラ、さっそくだがこのギロッポンで最高級ステーキと言えば?」


「エンパイアの“エンペラーステーキ”一択でしょうね。」


「よし、さっそくそれを買って翡翠の元に急がねば。」


「古代ギリシャまで持って行くなら、それなりの箱に入れて運ばなければ冷めて美味しくなくなるわよ。」


「なんだ、それなりの箱って?」


「ウーバーの断熱素材の配達用バッグ、通称“ウバッグ”ね。」


「ほう、どこで売ってる?」


「公式のはアマゾンの通販。」


「それじゃ間に合わない。」


「ふっふっふ、こんなこともあろうかと、ジャーン!異世界で使ったら映えるかなと思って買っておいたの。これに入れて運ぶと良いわ。」


「おお、でかしたぞ、エラ。」






「お待たせしました。ウーバーでーす!」



挿絵(By みてみん)



「ああ、女神様。何と軽快な出で立ちで。」


「やるからには形を整える。それが私流だ。持ってきてやったぞ。ギロッポンの最高級、ヤクザの幹部とIT長者しか食べられない最高級ステーキ、その名もエンペラーステーキだ!」


「女神様、そこまで凝らなくても...」


「さて、腹も減ったことだしいただくとするか。」


 女神は腹を減らした46人の前で美味しそうにステーキを平らげた。


「あれ?みんなも食べたいの?仕方がないわね、ほら、ポン!ポンポンポン!」


 女神のユニークスキル“体内摂取無限増殖”で最高級ステーキが次々と女神の腹のあたりから出現した。


「ワインも必要ね。そこの壺を取って。はい、どうぞ!」


 ジョボジョボジョボと音を立てて女神の下半身付近の謎の空間からワインが注がれて壺は一杯になった。翡翠は仲間たちに語りかけた。


「みなさん、女神様は人間ではありません。生物ですらありません。神です。ここに出現した食べ物が消化管を通って出てきたとは決して考えないでください。神の業としての無限増殖です。わかりましたね?」


 最初は逡巡していた戦士たちも、美味しそうな匂いとシズル感に抗えず、次々に手を伸ばしてステーキを貪りワインを飲んだ。そして宴が終わり、みなが眠りから覚めたころ、海に順風が吹き、一行は故郷イタカへ船を進めたのであった。



 イタカに入港した一行にオデュッセウスは言った。


「これから私の留守中に狼藉の限りを尽くした求婚者たちと一戦を交えなければならない。我々は46人、あちらは100人以上いるだろう。しかし、我らはトロイヤでの戦を勝ち抜き、艱難辛苦の航海にも耐えた歴戦の勇者である。戦いを忘れて宴に浮かれていた奴らに後れを取ることはない。一同、用意は良いか!」


「おおお!」


 戦いは数分でけりが付いた。オデュッセウスの弓は30人以上の敵を射殺し、途中から息子のテレマコスも参戦して、横暴な求婚者たちの群れは屍の山となった。


「あなた、お待ちしておりました。」


「待たせたな、本当に長い間待たせた、ペネロペーよ。もう決して1人にはしない。」


 国王夫妻の抱擁をみな拍手で称えたのだった。


オデュッセイア編、お約束通り、年内中に終わることができました。皆様、どうか良いお年を。

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