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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
第一章

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46 弟の父2

 アテリア菓子店へやってきた私とハイゼン侯爵は、個室に案内された。急な席の予約であっただろうに、個室までとれるとは、さすがハイゼン侯爵である。


「何にするかね? 好きなものを頼みたまえ」

「はい、遠慮なく、そうさせていただきます」


 私の時間をハイゼン侯爵に買われたのだと諦めて、私は代わりにケーキを三種類頼んだ。どれも美味しそうなため、選ぶのに苦労する。

 頼んだケーキと紅茶が運ばれてきて、ハイゼン侯爵は紅茶に口を付けた。


「それで、最近のユリウスの話を聞かせてくれるかな」


 ハイゼン侯爵は父の顔でそう口を開いた。


 ハイゼン侯爵は特別な石の力を継承する一族、つまり建国貴族である。この国の建国貴族は帝室やリンケルト公爵家、他にも一桁の数しかいない。とにかく数が少ないにも関わらず、建国以来、その建国貴族の一族は減ってきている。

 我がウィザー伯爵家のように新興貴族であれば、極端な話、後継者がいなくても、遠縁から後継者を選べば家が断絶することはない。しかし建国貴族は違う。血族のみが継承できる力は、直系のみ。


 例えば息子が二人いたとして、兄が死亡した場合、弟は後継者になることはできる。ただ弟まで死亡した場合、その弟に子がいなければ、その家は断絶することになる。特別な石の力を継承できなくなるからだ。遠縁を連れてくれば済む新興貴族とはわけが違う。


 建国当時はその事実が分かっておらず、力を引き継ぐ後継者がおらず断絶した建国貴族が複数あるという。それからというもの、建国貴族は後継者がいなくなることはタブーとされている。そのため、新興貴族や平民などは一夫一妻であるが、建国貴族のみは第三夫人まで法律で認められている。


 ハイゼン侯爵には第一夫人がいる。子供も二人いて、長女は私と同じ年、しかも前世では、長女は皇帝ルドルフの第二皇妃だった。長男はユリウスと同じ年齢である。


 母がユリウスを身ごもった時、何も問題はないと思われていたらしい。母は帝国にいる私の血縁上の父とは結婚していないため、母には夫はいない。ハイゼン侯爵には第一夫人しかおらず、建国貴族なため第二夫人を迎えても問題ないのだから。


 ところが、第一夫人と母は大揉めしたという。第一夫人自身も長男を妊娠していたため、第一夫人が出産して落ち着くまで、ユリウスが生まれてから、母はハイゼン侯爵と結婚はせずにいた。しかし、第一夫人が長男を産んだ後も結婚話はまとまらなかったらしい。結局ハイゼン侯爵と母は別れることになった。


 大人の事情が色々とあったのだろう。当時は私は一歳だったため、さすがに詳しい事情は伝え聞いた話しか知らない。ただ、私が口出すべき話ではないのは分かる。


 母と別れてからというもの、ハイゼン侯爵が母に会いに来ることはなかったけれど、ユリウスのことは気にかけていて、ユリウスのことをいつも私に聞きにやってくるのである。実は息子が大好きな父なのだ。その息子であるユリウスには塩対応されているが。


「こうやって私に話を聞きに来るのはいいですが、ユリウスには話しかけないでくださいね。そのたびにハイゼン侯爵のご子息がユリウスに言いがかりを付けてくるので」


 ただでさえ、ハイゼン侯爵の息子は、時々メイル学園でユリウスに辛く当たっているのを見る。ユリウスは冷静に対処しているものの、何も思わないわけではないのだ。


「分かっている。ユリウスには偶然会った時以外、話しかけたりはしない。いつも遠目に見るだけに留めている」


 あ、遠目には見てるんですね。


「もう少し、ご子息を気にかけて差し上げてはいかがでしょう。ユリウスのことなどハイゼン侯爵は気にしていないと分かれば、今のようにご子息がユリウスに言いがかりなど付けてこなくなると思うのですが」

「テオバルトは妻が甘やかしたせいで、わがままもなんでも許してもらえると思っている堪え性のない性格でね。私が何を言っても妻に泣き付くばかりで、あの性分は、そう簡単に治らないだろう」


 テオバルトとは、ハイゼン侯爵の息子の名である。

 なるほど、ユリウスのことをハイゼン侯爵が気にしようがしまいが、結局ハイゼン侯爵の息子はユリウスのことを気にせずにはおられず、辛く当たるのも止めないだろう、ということなのだろう。ため息しか出ない。


 それからもユリウスについて話をして、ハイゼン侯爵は嬉しそうにユリウスの話を聞いていた。


「これはユリウスに渡してくれたまえ」


 最後に買った時計を渡され、私はハイゼン侯爵と分かれるのだった。

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