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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
第一章

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26 兄(仮)は妹(仮)が可愛くて仕方がない2

 流雨の仕事の定時まであと少し。

 今のうちにと、自分のバッグに近づいた。


「今日洋服持ってきたんだ。今から着替えてくるね」

「ああ、制服を着替えるのか。準備いいな」

「そうでしょう! お手洗い借ります」


 バッグを持ってお手洗いにてワンピースに着替える。そして上から薄手のロングカーディガンを羽織る。そして、流雨に心配されてしまったので、もう少し化粧を足す。これで少しは血色も良くなるだろう。


 流雨の部屋に戻ると、流雨は帰り支度を始めていた。ちょうど定時になったらしい。流雨は私を見て微笑んだ。


「お、可愛い」

「ほんと? 大人っぽく見える?」

「見える。制服も可愛かったけど、これも可愛い」

「学校のローファーと服、合ってる? 靴は持ってこなかったから」

「全然違和感ない」


 流雨はいつも可愛いと言ってくれるから嬉しい。ニマニマしてしまう。

 流雨は私の手を握り、もう片方の手で私の髪に指を絡ませた。


「紗彩は何着ても可愛いから、心配になるよ」

「心配?」

「帝国で紗彩に男がたくさん寄ってきそう」

「……?」


 なんだか私にまったく当てはまらないワードを聞いた。


「……宗教の勧誘とか?」

「何で!? 俺、男って言ったよね?」

「えー? 男の人なんて、寄ってこないよ?」

「そんなわけないでしょ」

「るー君分かってないなぁ。私地味だし、日本人の容姿だもの」

「……分かってないのは紗彩じゃないかな。海外で日本人って結構モテるよ」


 確かにそういう話も聞いたことはある。でもそこには帝国は含まれない。


「ほら、私って中途半端じゃない? 日本人の顔なのに、目は緑だし髪は黒じゃないし。せめて髪は黒だったらなぁ。前にね、黒髪で綺麗な日本人がいたの。すごく魅惑的だって人気だった」


 咲の前に日本からやってきた、死人ではない、異世界の扉を通ってきた日本人。黒の髪に黒の瞳で、それはそれは可愛くて綺麗な人だった。そう、それこそ人を狂わせ惑わせるほどに。


「でも私は黒髪ではないし、目も猫っぽくて独特だし、同じ日本人でも全然違うもん。そんな心配無用だよ。日本でもねぇ、私の髪は染めてるとか勘違いされるし、遊んでるって思われるし、男の人なんて寄ってこない。ね、心配しないで?」

「それでも心配はするよ……。紗彩は自分で思っているより、すごく可愛いから」


 流雨は私を抱き寄せた。

 そんなに心配しなくてもいいのに。私って男の人に騙されやすいとか思われているんだろうか。まあ、婚約破棄したばかりだし、あれも騙されたうちに入るなら、そうかもしれない。しかし、前世を含めても、モテたと言っていいのは、皇帝だった夫くらいである。他で私を可愛いと言ってくれるのは、身内と流雨くらいなものだ。


「るー君、もし私が男の人に騙されるかもと思っているなら、心配しないで! あっちにはユリウスがいるもの、守ってくれるいい子なの!」


 流雨は私から体を離して口を開いた。


「ユリウスって弟だよね。すごく優しい子だと言ってなかった? 紗彩を守れるの?」

「優しい子だよ。小さいころから、姉様は僕が守る! って、何でも一生懸命ないい子なんだぁ。可愛いよね」

「紗彩はユリウスの話をするとき、優しい、いい子、可愛いしか言わないよね」

「だって本当のことだもん」

「あとで写真見せてくれる?」

「え? ……ユリウスの?」

「うん」


 どうしよう。時々流雨はユリウスの写真を見たいというが、見せたことはないのだ。日本っぽくない服装のユリウスを見せて、まさかそれが異世界だとは思わないだろうが、何か違和感を感じたりしないだろうか。うーん、と考えて、はっとした。そういえば、最近パソコンの前に座っているユリウスを撮った。あの時のユリウスはシャツを着ていたし、あれならいいかもしれない。


「分かった、後で見せてあげる! いいのがあるの、可愛いよ!」

「あれ? ほんと? 今日は見せてくれるんだ」


 いつも断るからか、流雨は驚いた顔をした。


「うん。でもご飯に行ってからね。お腹すいちゃった」

「あ、そうだね。とりあえず出ようか」


 目的を忘れていた、という表情の流雨が、鍵やらスマホやらをポケットに入れて私に手を向けた。流雨はバッグも持っていない。いつも手ぶらなのである。流雨の手を握り、私たちは廊下へ出た。

 ガラス張りの廊下を歩いていると、業務をしている社員の視線を感じる。全員好奇心の表情である。途中、流雨の後輩の千葉が廊下へ出てきた。


「先輩、明日の打ち合わせは十時からになりました」

「先方から連絡あったんだ。じゃあ、十時からの予定だったもう一つのミーティングはずらしておいて」

「はい」

「俺は帰るから。千葉、後は宜しく」

「はい」


 私は千葉に会釈だけして、流雨と二人で会社を出た。流雨と手を握ったままタクシーに乗る。そして鉄板焼きの店に向かった。

 鉄板焼きの店は、予約したからなのか、五人ほどが座れる個室に二人きりだった。


「ここって貸し切り?」

「予約すればね」


 メニューを見ながら食べるものを決め、飲みものは流雨はワイン、私はぶどうジュースを頼んだ。

 すると奥からここで焼いてくれる専用のシェフがやってきて、鉄板の前に立った。一応コース料理なので、鉄板で焼いてくれる間も、スープやサラダなどが運ばれてくる。


 流雨と軽く飲み物を乾杯し、食事を開始する。


「それで? ユリウスの写真見せてくれるんだよね」

「あ、うん。ちょっと待ってね」


 間違って違う写真を見せたりしないようにしなければ。スマホからユリウスの写真を探して流雨に見せる。パソコンの前で仕事をしているユリウスを撮ったものである。


「可愛いでしょ?」

「……ええ? 予想と違った。すごくカッコいい子だね」

「そうでしょ! 可愛いんだけど、カッコいいの! 自慢なの!」


 ユリウスを褒めてもらえて嬉しい。


「紗彩の話から、可愛い系の青年を想像してた。年下のはずだよね?」

「うん、弟だもの、一つ年下だよ。でも身長はすごく前に追い越されたけれど」

「……実海棠とも似てないな」

「お兄様はパパ似だもん。ユリウスは血縁上の父に似てるかな。日本人の顔じゃないでしょ?」

「そうなんだ」


 そう、ユリウスとは半分しか血が繋がっていない。私の父と父が違うのだ。しかし、うちはそれだけでなく、かなり家族関係が複雑である。兄も私もユリウスも麻彩も、みんな血は半分しか繋がっていないのだ。全員父が違うのである。

 私と麻彩がパパと呼ぶのは、兄の実の父である。私の血縁上の父は帝国の人だ。ユリウスの父も帝国の人。麻彩の血縁上の父はパパではない日本人である。こんな話をすると、聞いてはいけないことでも聞いたような顔をされるので話さないが、別に隠してもいない。流雨など親しい人は知っているし、家族間でそのことを気まずく思うようなこともない。うちはちょっと、いや、かなり変わった家族なのである。


「でもあれだな、ユリウスは麻彩と同じニオイがする」

「……匂い? え? ニオイって?」


 一瞬、香りの話かと思ったが、たぶん違うよね?


「紗彩のことが好きすぎていそうってこと」

「あ、そっち。そうね、ユリウスはシスコンかも」

「やっぱり……」

「え? どこで分かったの? 写真で分かる?」

「さすがにシスコンが写真からは分からないよ。でも紗彩から聞くユリウスの話聞いてたら、なんとなく分かる。紗彩もブラコンだろうけど」

「えへへ!」

「別に褒めてはないけどね?」

「え? シスコンとブラコンは誉め言葉だよね?」

「……」


 え? 違うの?


「私はるー君にもブラコンだよ?」

「ブラコンは誉め言葉だった。間違いない」

「そうでしょ! るー君も私にシスコンだよね?」

「俺は最大級のシスコンだよ」

「ふふふっ」


 なんてことはない会話が楽しい。

 流雨はユリウスの写真を見たことで、とりあえずは満足したらしい。鉄板で焼いた肉を楽しみつつ、他の他愛もない話を続ける。


「そういえば、今週末に行きたいところは?」

「土曜日だよね。ちょっとドライブで遠出したいなぁ。どこに行きたいとかまでは考えてないんだけど」

「分かった。じゃあ、高速で観光地まで行ってみようか」

「日帰りで行けるところあるの?」

「いっぱいあるよ。あとでいくつか候補を見繕ってチャットする」

「うん。るー君とデート楽しみ!」


 デートを楽しみに二週間頑張った部分もある。何着て行こうか、それを考えるのも楽しい。


 それからも夕食を楽しみ、夕食後にタクシーで流雨に家まで送ってもらう。タクシーから出ると、流雨も外に出た。


「じゃあまたね、るー君」


 流雨に抱き付くと、ぎゅっと抱きしめてくれる。


「あー、名残惜しい。紗彩をうちに持って帰りたい」

「ふふっ、るー君は昔からいつもそう言うね」

「前から本気で、どうやったら紗彩をうちの子にできるか考えてるからね」


 これも流雨がよく言うセリフである。流雨から体を離す。


「るー君はもう私のお兄様でしょう。『うちの子』になっているのと同じじゃない?」

「……そうだけど。まだ足りないなって思うんだよね」

「足りない?」


 ブラコン度が足りないという意味だろうか? 首をかしげる私に、流雨は笑みを浮かべるだけでそれ以上何も言わなかった。


「気を付けて帰るんだよ。ドアに入るまで見てるから」

「え、もうすぐそこだよ。私はいいから、るー君タクシーに乗って?」

「でももう暗いから。ドアに入るまでに何があるか分からないでしょう」

「……そう? じゃあ、るー君も気を付けて帰ってね」

「うん」


 流雨に手を振り、家のビルの裏口から中に入る。中に入ってもドアがガラスなので、まだ流雨がこちらを見ているのが分かる。私はまたドアの中から流雨に手を振り、ビルの奥へ進んでいくのだった。

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