27 妹は思春期?
家に帰ると、麻彩が走って抱き付いてきた。
「おかえりー!! 遅いよ!」
「ごめんね、まーちゃん。ただいま」
「……さーちゃん、お肉の匂いする。今日焼肉?」
「ううん、鉄板焼きだよ。まーちゃんは?」
「スペイン料理食べた。友達のママが最近はまっているらしくて、連れて行ってもらったよ」
麻彩は体育祭の準備で居残りし、友達を迎えに来た親と一緒に食事をしてから帰ってきたのだ。そんな話をしながら、私は自室に荷物を置く。
「まーちゃん、お風呂まだだよね。先に一緒にお風呂入ろうか」
「うん」
二人で風呂に入りながら、話をする。
「今度の『歌ってみた』は何にするか決めた?」
「決めたよ! 二曲なんだけどね」
曲名を聞くと、私も知っている曲だった。少し昔の曲である。
「それなら私も歌えるかも」
「じゃあ歌って! 私ハモるから!」
風呂場でカラオケ大会である。よくやるのだ。とはいえだ。
実は私は音痴なのである。麻彩は上手なのに、姉妹でこの差。おかしいな。
私にハモるという高度な技は絶対に使えないので、私が普通に歌って(いるつもり)、麻彩が私に合わせてハモるのだ。まあ、麻彩が歌に入ってくると、途中から私は麻彩に音程をつられるんだけどね。なんでだ。
それでも歌うのは楽しいので、二人で歌ってたらのぼせてしまった。
「暑いねぇ」
「アイス食べようー」
風呂上りにアイスを食べながらまったりして、それから自分の髪をドライヤーで乾かし、麻彩の髪を乾かしてあげる。
そしてリビングでソファーの下の床に座り、二人で話をしていた。
「今度の『歌ってみた』の衣装はね、ロングTシャツにレザーパンツにするの。でね、髪とメイクはこんな感じにしたい」
麻彩が画像を私に見せる。
「パンクみたいな感じにするのね。オッケー、ちょっと勉強しておくね」
麻彩の『歌ってみた』のヘアアレンジとメイクは私が担当しているのだ。
動画を見ながらどうやって麻彩をいじろうか考える。その間、麻彩はぐだっと横になり、私の太ももに頭を乗せて、歌う練習を始めた。
そうやって過ごすこと、三十分。兄が帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま。……それ、寝てるの?」
「うん、ごめん」
実は麻彩が歌いだして、いつのまにか私の太ももの上で寝てしまったのだ。歌いながら寝れるとは、器用である。
「……わかった。もう少し待てるか? 俺風呂入って来ようかと思うけど」
「入ってきていいよー。私まだメイク勉強中だから大丈夫」
「そうか。じゃあ入って来るな」
それから兄が風呂から上がって来るまで待っていた。兄は風呂から上がると、ペットボトルの水を飲みながら私の後ろのソファーに座った。
「父さんとの食事、金曜にしたけど、いいか? 麻彩は行けるって言ってたけど」
「いいよー」
「……麻彩は爆睡だな」
「体育祭の練習とか準備とかで疲れてるんだよ。アヤシイ気がしたから、先にお風呂だけは入ったんだよね」
「よくやった。紗彩も疲れてるだろう。もう寝た方がいい」
兄はペットボトルの水をテーブルに置くと、麻彩を抱き上げた。私は兄に先回りしてドアを開け、麻彩の部屋の電気を付ける。そして兄が麻彩をベッドに寝かせた。
「あと任せていいか?」
「いいよ。私も寝るね」
「ああ、お休み」
部屋を出て行こうとする兄の腕を引いた。
「……ん?」
「お休みのキスは?」
「……ああ」
兄は思い出した、という顔をし、私の頬にキスをする。そして私も兄にキスを返す。
「紗彩だけだぞ、キス欲しがるの。麻彩は俺のはいらないって言うから最近はしてないし」
「……そういうのって、なんて言うんだっけ? ……倦怠期?」
「なんでだよ」
「まーちゃんは、私がキスすると嬉しそうにするよ?」
「麻彩は紗彩からなら、何でも欲しがるだろ」
「じゃあ、やっぱりアレかな? パパは嫌! ママがいい! みたいな?」
「ははは……それに近いかもな」
乾いた笑いをする兄。少しショックなのかもしれない。
「お兄様、悲しまないで! 代わりに私がいつもキスを欲しがるからね!」
「フォローをどうも。じゃあお休み」
「お休みなさい」
部屋のドアを閉め、私も麻彩の寝ているベッドに横になる。
日本は家族間でキスすることはあまりないが、帝国は一般的にあいさつ代わりにキスをする。だから、麻彩が小さい頃から私がキスして接していたので、麻彩も家族間でキスするのは抵抗ないはずだが、ここにきて兄に反抗期、もしくは思春期だろうか。寂しそうな兄が少し不憫だが、反抗期なら仕方ない。誰もが通る道。兄よ、頑張れ、と思いながら眠りにつくのだった。




