第5話 勝者と敗者
【3回目】
モカは、この『必勝法』について頭の中で整理していた。
モカが着ている服は、全てで16点。
消滅したとしても、新しい服を用意することができる。
勿論、魔力がある限りではあるが、それでも相当な回数できるはずだ。
負ける可能性があるとすれば、フローネに15文字以上の単語が使われた場合。
だが、最初の文字数は8文字以下とされている。
更に言えば、文字数は一文字ずつしか増やせない。
だったら、16文字に近づく前に入力を止めてしまえばいい。
服は消滅するが、服飾魔法で再構築できる。
負ける要素がない。
(大丈夫、完璧なはずだ)
モカは、頭の中でこの確認作業を何度も繰り返した。
一抹の不安は残るものの、これ以上悩んだところで仕方がない。
不安要素があるとすれば、フローネへの同情だ。
価値を譲るとまで言ってしまったが――命を落とすのは怖い。
怖いし、絶対に嫌だ。
それに、死んでしまえば夢も叶えられない。
悔しいが、リコリスの言うとおりだ。
だが――。
生き残るためには、フローネに勝たなければならない。
それは、フローネの命を奪うということだ。
(そんなこと、できるのか……?)
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
死にたくないし、殺したくない。
でも、そのどちらかを選ばなければならない。
無理だ!
モカの混乱は、さらに酷くなっていく。
だが――。
「それでは、三回目を始めるよ。前回の単語は『トランスポーター』だったね。長音符から始めることは出来ないから、次は『タ』から始めることになるよ」
「……待ってくれ」
「悪いけど、こちらも暇じゃないんだ」
「だから、待ってくれって!」
モカは叫んだ。
冷静さは残されておらず、息が荒くなっている。
「何か、面白いことを考えているようだね。いいだろう。少しだけ待ってあげるよ」
リコリスが言う。
モカは、フローネを――正確に言えば、彼女の着ている衣装を観察した。
「フローネ。一つだけ教えてくれないかな?」
「え、なに?」
「その服、僕が魔法で作ったものだよね?」
言われて、フローネは顔を青くする。
モカの言葉の意味するところが、フローネにも理解できたのだろう。
「待って――」
魔法少女たちは、それぞれモカが作った衣装を着ている。
それらは、元々の衣装をモカが改造したものだ。
魔法によるバフ効果がつく特別な衣装。
その中でも、フローネのものは特別製だった。ほとんど原型が残らないほどにモカの魔法によって作られたもの。下着と靴以外の全てに、モカの手が加えられていた。
それゆえに、モカは、それをいつでも作り変えることが出来た。
そして、当然のことながら――。
服としての役割を終わらせることも出来てしまう。
モカは、指をパチンと鳴らした。
すると、服の繊維がほつれていった。
それは次第にただの糸へと変わっていき――。
フローネに残されたのは、下着の上下と片方の靴下、そして髪飾りだけとなった。
マジカルスマホにも『残り枚数 4点 : 16点』と表示されている。
「中々面白い展開になったね。それでは、三回目開始といこう」
リコリスの宣言と共に、三回目のゲームが始まった。
モカは、変換文字に『ツ』を指定した。
特に理由はない。
敗北の可能性は、既に潰したのだ。
何を指定したところで躱らないはずだ。
「変換文字の指定は終わったね。それじゃあ、ゲーム開始だ」
しりとりが開始となる。
今回は『タ』から始まるらしい。
フローネは「タコ」と入力していた。
たったの二文字。
フローネは新しく服を生み出すことが出来ないのだから、慎重になるのも仕方がない。
(こちらは、三文字か)
今のところ『タ』と『コ』は変換ワードになっていないことが分かっている。
『ン』は変換ワードにしてもあまり意味がない。
できる限り、その三文字を多く使うべきだ。
そう考えた瞬間――モカは『ある発想』に至った。
そして、その発想を生かせる単語を考えた。
『コント』
これがモカの回答だった。
変換文字はなかったようで、そのまま通る。
対するフローネは「トンコツ」と返した。
安全な文字に『ツ』を追加しただけ。
これもまた、最も危険の少ない単語――であるはずだった。
だが、そうではなかった。
モカは先ほど、安全性が確認された文字を使って単語を作ることを考えた。
フローネも同じことを考えているだろう。
その思考を利用すれば、相手の回答を誘導できる――そのことに気づいた。
モカは『ツ』を変換文字にしていた。
フローネが最後に『ツ』がつく単語を答えれば、モカの勝利となる。
ならば、モカが回答すべきは、そう誘導できる単語。
出来れば、安全が確認されている文字を多く使いたい。
そこで、モカは「コント」と入力した。
三文字の中で『ト』だけは安全が確認されていないが、仕方がない。
それよりも、これで『コ』『ン』『ト』の安全性をフローネに印象付けることが出来た。
フローネは『コ』『ン』『ト』を使った四文字の単語を答える可能性が高い。
こうして、モカはフローネを『トンコツ』へと誘導した。
そして、その誘導は成功した。
変換ワードにより、フローネの入力は『トンコン』となった。
ゲーム開始から初めて、フローネのスマホがブザー音を鳴らした。
モカに、ポイントが転がり込んできた。
同時に、フローネの服が消滅した。
残り四点だったところから、四枚が消滅。
フローネは着ていた服をすべて失った。
身体を隠すように、しゃがみ込んでいた。
ゲームの決着がついた。
これで生き延びることができる。
そう考えたモカは、少しだけ安心していた。
そして、心に少しだけ余裕が出来た。
その余裕に、凄まじい後悔が入り込んできた。
フローネを殺してしまった。
そう考えたモカは、フローネを見た。
フローネは、困惑気味にモカを見ていた。
その瞳には、涙が浮かんでいる。
「ごめん。死ぬとか言われて、気が動転して……」
こんなことを言う資格はない。
命惜しさに、フローネを陥れてしまった。
その結果、フローネが命を落とすことになる。
それでも、言葉があふれてきた。
「でも、死にたくなくて……。自分で叶えたいからこそ、死にたくなくて。それに、やらなければならないことも……」
これはただの言い訳だ。
でも、仕方がないだろう。
フローネは、何か言ってくれるだろうか。
フローネの言葉を聞くのは怖かった。
それでも、何か言って欲しかった。
それは、モカのため。
これ以上ないほどに、傲慢な態度だった。
だが――。
「違うの……」
フローネの言葉は、完全に予想外のものだった。
罵るでも慰めるでもない。
ただ、何かを否定するだけの言葉。
それを聞いた瞬間、全身に怖気が走る。
この期に及んで――まだ何かを見落としている。
そのことに気づいた。
だが、一体それは何なのだ。
モカはヒントを探すべく、視線を泳がせた。
その時、視界にある文言が入ってきた。
それが表示されているのは、二人の間にあるモニター。
そこには――。
『勝者:フローネ』
こう表示されていた。
頭が真っ白になった。
「何で!? 裸になったのは、フローネの方だろう!」
モカは服を着ている。
まさか、消滅した服の枚数で勝敗が決まるのか。
だとしても、このタイミングはおかしい。
「フローネ。君は、分かっているのか?」
フローネは動かない。喋らない。
ただ座り込んで、視線を落としていた。
代わりに、リコリスが声をかけた。
「ルールには『脱げるものがなくなった時点でゲーム終了』ってあるよね。どこにも『脱げるものがなくなった時点で敗北』なんて書いてないんだよ」
「え……」
確かに、ルールにはそう書いてある。
だけど、これは『脱衣しりとり』だったはず。
服を失うことがペナルティなのだから、全ての服を失えば負ける。
モカは、そう考えることに何の疑問も抱いていなかった。
「そんなの、認められない」
「認めるも認めないも、結果はこのとおりだ。ちゃんと、勝敗を決めるためのポイントも表示されていたじゃないか」
確かに、ポイントは表示されていた。
だが、あのポイントをモカは重視していなかった。
勝利条件を勘違いしていたのだから、当然だ。
「あれは、勝敗の回数を記録するためのものなんじゃ……」
「仮に『服が全部脱げたら敗北』なんてルールなら、なんで勝敗の回数を記録する必要があるんだい?」
言っていることは正しい。
でも、そんなことには気づけない。
「裸になることは、敗北条件ではなく、ゲーム終了の条件だったんだ。だから、止めようとしたんだけど……」
服の消滅は、ゲーム終了条件でしかなかった。
では、勝敗は何でつけるのか。
そんなものは決まっている。
「あのポイントか」
「現在、2対1でフローネのほうが有利だったんだ。その状態で、君がゲームを終わらせたんだよ。モカ、君はボクが思ったとおり、最高の魔法少女だよ。何せ、親友のために犠牲になることを選んだのだからね」
リコリスは、目を細めながら言った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これで最初のゲームは決着となりました。
この先も魔法少女たちの物語は続いていきます。
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