第3話 脱衣しりとり
【1回目】
「それじゃあ、準備はいいかな? ゲームが始まるよ」
リコリスがそう言うと、マジカルスマホから電子音が流れた。
見ると『脱衣しりとり』という文字が表示されていた。
タップすると、操作用の画面に移った。
画面上部には『残り枚数 7点 : 16点』と表示されている。
おそらく、これが残りの衣類の枚数なのだろう。
フローネは、着用している衣類を数えてみた。
やはり、一致した。
初期段階で、倍以上の差が付けられている。
何だか不公平な気もしたが、文句をつけても仕方がないだろう。
改めて画面を見る。
操作画面の中央には『変換文字を指定してください』と表示されていた。
ここに文字を入力するようだ。
フローネは考える。
基本的には、変換後の文字は『ん』に設定するだろう。
では、変換前の文字は何にすればいいだろうか。
使用頻度の高い文字を選ぶべきなのだろうが――。
(使用頻度の高い文字って、何?)
これまで、そんなものを意識したことはなかった。
では、何かヒントになるようなものはないだろうか。
フローネは、目をつぶって国語辞典を思い浮かべた。
おぼろげな記憶ではあるが、小口部分には『あ行』~『わ行』のそれぞれにインデックス代わりとなる色が付けられていた。確か、最初の方がその色が太かったはず。
つまり――最初の一文字だけであれば『あ行』~『さ行』あたりの使用頻度が高いはずだ。
とりあえず、フローネは『い』→『ん』と入力することにした。
だが、その入力を行う前に一つだけ思いついたことがあった。
上手くいけば『安全に使える文字』を一つ増やすことができる。
フローネは、それを試してみることにした。
× × ×
少しして――。
フローネとモカは、変換文字の指定を終えた。
「それでは、第一回戦の始まりだ。最初の文字は、しりとりの『り』だよ。最初だから、文字数は自由。それでは、フローネの番だ」
スマホにカウントダウンが表示される。
10秒以内に文字を入力し、登録ボタンを押さなければならない。
だが、フローネに焦りはなかった。
最初に入力する単語だけは、決めていたのだ。
それは、変換される文字を避けることができるもの。
しりとりというのは、最初は『り』から始めることが多い。
だとすると『り』は変換対象にすることは出来ないはずだ。
もし『り』を『ん』に変換できるなら、最初から『ん』で始まる単語を要求できてしまう。
それはしりとりとしておかしい。
フローネは、変換文字の指定前に、それに気づいた。
そして、マジカルスマホで『り』を変換文字にしようとしてみた。
だが、システムによって弾かれてしまった。
つまり『り』を変換対象にすることは出来ない。
安全なのは『り』と『ん』。
これを組み合わせてできる単語。
真っ先に思いついたのは『りんり』という単語だった。
フローネはそれを入力して、回答ボタンをタップした。
箱の側面に、フローネの回答が表示される。
同時に、ピコーンという電子音が鳴った。
その単語は、有効なものとして扱われたようだ。
順番がモカに移る。
モカは、あっさりと『りょうり』と答えた。
これにも、変換文字は含まれていなかった。
考えてみれば、使用を避けるべき文字はたった二つだけ。
文字数の少ない序盤では、あまり意識する必要はないように思えた。
決着をつけるためには、他の要因が必要となる。
だから、フローネはちょっとした思い付きを試してみることにした。
フローネは『りんごパイ』と回答した。
それに対し、モカは「いちごゼリー」と応じた。
だが、モカのスマホからブザー音が響いた。
おそらく、回答が受け付けられなかったからだろう。
モカは驚いたようにスマホを見た。
だが、すぐに切り替えて、別の回答をしていく。
「いちごジャム」「いちごケーキ」
回答していくたびに、ブザー音が鳴る。
いちごジャムもいちごケーキも、回答として認められていないのだ。
ここに来て、モカの表情に焦りが見え始めた。
「い……」
モカがスマホを見ながら固まっているうちに、時間切れとなった。
フローネのスマホから、チャリーンという電子音が響く。
画面を見ると『ポイント+1』と表示されていた。
モカは少しの間スマホの画面を見つめていた。
一呼吸おいてから、いつも通りの凛々しい表情をフローネに向ける。
「おめでとう、フローネ。でも、何が駄目だったんだろうな?」
やはり、モカはなぜ駄目だったのかが分かっていないらしい。
フローネは、それを解説するべきか迷った。
モカが気づいていないのであれば、それはフローネのアドバンテージとなる。
だけど――。
「パイの『イ』はカタカナだからだよ」
フローネは言った。
モカは、これまでフローネによくしてくれた。
勝利を譲ってくれるとは言っていた。
けれど、訳も分からないまま負けさせるというのは心が痛んだ。
「そこって、区別するのか?」
「そうみたい。私も、もしかしたら程度にしか思っていなかったけど」
「何故『もしかしたら』と思えたんだい?」
「対面なのに、しりとりをスマホ入力でさせたからだよ。つまり、音ではなくて、文字で判断しているってことだよね。だから、もしかしたら『ひらがな』と『カタカナ』は分けているんじゃないかと思ったんだ」
フローネは、細かいことを考えるのが得意だった。
他人の顔色をうかがい、他人の真似ばかりしてきた。
だから、言葉の裏や行間――『書いていないこと』を推測することには慣れていた。
「成程ね。大したものだ」
モカは感心したように言った。
その瞬間――モカの衣装の一部が消滅した。
胸元のネクタイ、左右の手袋、靴、そして片方の靴下。
計六点が消滅した。
マジカルスマホには、『残り枚数 10点 : 7点』とある。
「六文字だから、六つ消滅したというわけか」
モカはそう言いながら、自分の服装を見た。
外見的には、大きな変化はない。
だけど、まだまだ余裕はある。
だから――。
「こんなことなら、もう少し厚着をしておけばよかったかな」
だから、こんな冗談を言うことも出来た。
フローネたちは、笑い合っていた。
笑い合いながら、ゲームをすることが出来ていた。
この時は、まだ。




