第2話 最初のゲーム
フローネは、モカに対戦相手として指名された。
その理由は、フローネを勝たせてあげようというものだった。
モカが特別扱いしてくれた。
勝利を譲る相手にフローネを選んでくれた。
そのことが、純粋に嬉しかった。
同時に、モカへの尊敬と憧憬が更に大きくなった。
あのままでは、魔法少女同士で暴力的な争いが起きる可能性があった。
それを防ぐために、自らが先頭を切ってゲームに参加する姿を見せたのだろう。
(流石はモカちゃんだな)
彼女は、生まれながらのリーダー体質なのかもしれない。
そんなモカに、フローネはあこがれ続けている。
これまでも、そして、おそらくはこれからも。
「それじゃあ、始めようか」
リコリスが装置を起動させる。
すると、キューブ状の透明な箱が出来上がった。
箱の中の広さは、学校の教室くらいだ。
薄暗い街の中で、その箱の中だけが明るく照らされていた。
「この箱の中で、ゲームを行うよ。モカとフローネだけが入れるから、入ってくれ」
「この箱、何なの?」
「外部からの音を遮断するためのものだよ。他の魔法少女たちからアドバイスをされて、ゲームの勝敗に影響するのは良くないからね。ただし、内部の音は外部に聞こえるから、ゲームの進行状況は外部から把握できるようになっているよ」
「うん、分かった。ありがとう」
フローネは素直に返事をした。
半透明の壁に触れても、手ごたえはなかった。
このまま中まで入れるようだ。
フローネは恐る恐る箱の中に入った。
少しすると、モカも箱の中に入ってきた。
なんてことないように、普通の歩調で入ってきた。
「モカちゃん。それじゃあ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
フローネは、初戦の相手がモカだったことに改めて安堵した。
これから、一応はゲームで対戦をすることになるのだ。
気心が知れた二人だからこそ、こうして穏やかに話が出来ている。
他の魔法少女が相手だったら、こうは行かないだろう。
モカは、フローネを勝たせてくれると言っていた。
でも、願いは既に叶っている。
ここで勝てたとしても、次のゲームで勝つのは難しいだろう。
それでも、なにかの拍子にその権利を手に入れたら、どうしようか。
何か、小さな願いでもかなえてもらおうか。
いっそのこと、モカにその権利を譲渡してもいい。
あるいは――。
(そういえば、他にも譲ってあげたい子がいたな)
フローネは、ある魔法少女のことを考えた。
できることなら、その魔法少女と一緒に活動を続けたかった。
モカも一緒にやってくれるのであれば最高だ。
今の幸福を失わないこと。
それがフローネの願いだった。
だが――。
その願いは叶わない。
× × ×
フローネ達が箱の中に入ると、リコリスも入ってきた。
フローネとモカしか入れないと言っていたが、道具の使用者は別だったらしい。
「それじゃあ、最初のゲームだ。最初のゲームは『脱衣しりとり』だよ」
脱衣しりとり。
フローネは、聞いたことがなかった。
「モカちゃん。知ってる?」
「いいや」
フローネたちは、リコリスを見る。
リコリスは、説明を始めた。
「基本ルールは、しりとりと同じだよ。ただし、いくつか違うところもあるから、気を付けてね」
マジカルスマホにルールが表示された。
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基本ルール
・プレイヤーは交互に単語を回答する。
・制限時間は各十秒。制限時間内であれば、アウトにならない限り何度でも回答できる。
・相手の単語の最後の文字から始まる単語を答える。
・漢字は使用不可。実在しない単語は無効。
・「ん」で終わる単語を答える、または時間切れになるとアウト。
追加ルール1:文字数
・相手が答えた単語より、一文字多い単語を答えなければならない。
追加ルール2:変換
・あらかじめ指定した一文字を、別の文字に変換できる。
(例:「ラ」を「ン」に指定すると、「ゴリラ」は「ゴリン」として扱われる)
追加ルール3:服の消滅
・アウトになったプレイヤーは、回答するはずだった単語の文字数分、服が消滅する。
・着用している服がなくなった時点でゲーム終了。
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「さて、ルールは表示されているとおりだ。ちなみに、このルールに書かれていない細かい点もあるから、口頭でも説明をしておくよ」
リコリスは言う。
「まず、普通のしりとりと大きく違うところがある。このしりとりはマジカルスマホを使って行うことになるんだ。文字を入力して『回答』ボタンを押すことで、回答したことになる」
「いや、そこじゃないだろう」
モカが食い気味にツッコミを入れた。
いつも冷静なモカにしては珍しいが、フローネも同感だ。
「服が消滅するというのは、どういうことだい?」
「重要なルールだよ。忘れないでね」
モカは、呆れたようにため息をつく。
フローネは、アハハと笑い声をあげた。
これは、自らの願いを賭けた真剣勝負であるはずなのだ。
それなのに、脱衣ルールのせいで緊張感はなくなっていた。
「まぁ、モカちゃん。ここには女の子しかいないし」
「フローネがいいなら、それでもいいけど……」
モカはリコリスを見る。
「ちなみに、リコリス。君は――」
「メスだよ」
「ああ、そう」
モカはなげやりに言った。
フローネは呆れながらも、気にはなっていた。
ただ服が消滅するだけではない。
着用している服がなくなった時点でゲーム終了、とある。
ふざけた内容ではあるが、リコリスが言った通り重要なルールだ。
「さて、説明を続けよう。ルールには書いていないけれど、アウトになるたびに、相手にポイントが入るよ。ポイントもマジカルスマホに表示されるから、確認しておいてね」
「そのポイントには何の意味があるんだい?」
「それは自分で考えてほしいな」
勝敗が脱衣で決まるのであれば、ポイントには別の使い道があるはずだ。
考えられるのは、ポイントを消費して自分に有利な条件を作り上げること。
だが、それも明示されていない。
何かがおかしい。
ルール自体は単純なのに、どうしても引っかかる。
何か、大きな見落としをしているように思えるのだ。
「ルールの説明は、これで終了だ。二人とも、準備はいいかな?」
「ちょっと待って」
「待たないよ」
フローネの要求を、リコリスは淡々と却下した。
困惑するフローネに、モカが声をかける。
「肌を晒したくなければ、負けを認めればいい。いざとなったら、僕が負けを宣言してやるさ」
「でも……」
「そうだ、リコリス。ルールには書いてないけれど、自分から負けを認めることはできるのか?」
モカの問いかけに、リコリスは首を傾げた。
そして「ああ、うん。いいよ、別にそれでも」と適当に答えた。
まるで、そんなことは最初から想定していないかのように。
「それじゃあ、準備はいいかな? ゲームが始まるよ」
こうして、絶望のゲームが始まった。




