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魔法少女は絶望しました  作者: こねこねこ
第2章 願いとゲーム
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第1話 白鷺ツムギという少女

 フローネ――白鷺ツムギは、孤独な少女だった。

 両親は三年前に事故で他界し、親戚である都丸家に引き取られた。

 どうやら、両親は親戚筋の中では、あまり評判が良くなかったらしい。

 結果、その子供であるツムギも厄介者扱いされた。

 都丸家としても、押し付けられたという形のようだ。

 だから、ツムギは拒絶された。


 都丸家は四人家族だった。

 父である守、母である美代、その子供の蘭と凛。

 彼らは、ツムギの存在を拒絶した。


 挨拶をしたら、嫌がられた。

 食卓に着いたら、嫌がられた。

 ごみを捨てたら、嫌がられた。

 洗濯をしたら、嫌がられた。

 掃除をしたら、嫌がられた。

 テレビを見たら、冷蔵庫を開けたら、風呂に入ったら――。


 ツムギの一挙手一投足が、嫌悪の対象となっていた。

 何をしても嫌がられる。何もしなくても責められる。

 だから、ツムギは自分を押し殺した。


 物音を立てないようにした。

 視界に入らないようにした。

 面倒をかけないようにした。

 ツムギは、自ら『いないもの』として振る舞うようになっていた。


 だが、それだけでは済まなかった。

 学業が優秀だったツムギは高校に通うことを許された。

 だが、都丸家の子供よりも良い高校に通うのは嫌がられた。

 結果、ツムギは受験する高校のランクを落とすことにした。

 そうするしかなかった。


 高校でも、ツムギは目立たないようにしていた。

 そうすることで、問題を避けようとしていた。


 だが、そこでツムギを待ち受けていたのは、壮絶ないじめだった。

 都丸凛たちを中心に、謂れのない悪評がばらまかれた。

 それを信じた者は、ツムギに対し嫌がらせをした。

 信じない者も、面白半分で嫌がらせをした。


 ツムギは反論しなかった。

 反論は無駄で、状況を悪くするだけだと刷り込まれていた。

 だから、感情を殺し、自分を殺し、時が過ぎ去るのを待った。

 これが、ツムギの唯一の生きる術だった。


 だが、ある日――。

 転機が突然現れた。


「魔法少女にならないかい?」


 リコリスに出会った。

 出会ってしまった。


     × × ×


 初めてリコリスを見た時、ツムギは自分がおかしくなったのだと思った。

 アニメなどで言葉を話す動物が現れる展開は見たことがある。

 それでも、現実にそんなものが存在するとは思わなかった。


「幻聴……?」

「違うよ。ボクの名前は、リコリスだ。君に魔法少女になってほしくて、声を掛けさせてもらった」

「本当に、喋ってる?」

「勿論だ。ちなみに、ボクからの言葉はテレパシーを利用しているよ。口の構造上、人の言葉を話すのは難しくてね。だから、周りからは君が独り言を言っているように見えているはずだよ」

「あ……」


 ツムギは、周囲をうかがった。

 目立つことを避けているのに、そんな姿を見られたら大変だ。

 幸い、誰にも見られていないようだった。


「それで、魔法少女になってくれないかい?」

「魔法少女になると、どうなるの?」

「魔法を使えるようになるよ。魔法というのは、基本的には万能だからね。大抵のことはできるようになる。ただ、魔法少女になるからには、やってもらわなければならないことがある。時折現れる敵――『虚獣』と戦って欲しいんだ」

「戦うって……」

「心強い仲間がいるから、心配することはないよ。魔法少女になってくれたら、先輩魔法少女を紹介する。この道半年のベテランだよ」

「半年でベテランなんだ……」

「魔法少女は、長くても1年程度で引退となることが多いんだ」

「何で?」

「魔法少女の最終目標は『女神の虚獣』を討伐することだ。それを討伐したら、引退ということになる。『女神の虚獣』は定期的に復活するけれど、そのたびに新しい魔法少女を探しているんだ」

「そうなんだ……」

「それと、女神の虚獣を倒せたら、魔法少女は一つ願いを叶えることができる。勿論、何でもっていうわけではないけれど、大抵のことは何とかできるよ」


 願い――と言われても、何も思いつかなかった。

 ツムギは、これまで自分を殺して生きてきた。

 だから、自分の感情が分からなくなっていた。


「勿論、魔法少女になることを目的としてもいい」

「魔法少女になることが、目的?」

「少なくとも、魔法少女になれば、君の人生は大きく変わることになる。これまでの人生に不満があるのなら、とりあえず魔法少女になってみるのもいいんじゃないかな?」


 その言葉は、ツムギの心を刺激した。

 目立たないようにしなければならなかった。

 気持ちに蓋をして、我慢をしつづけなければならなかった。

 これまでの彼女の人生は、苦痛の連続だった。


「さぁ、白鷺ツムギ。君の意思を聞こう」

「私は――」


 誰かに見てほしい。

 誰かに認められたい。

 そんな気持ちは、心の奥底にしまいこんでいた。

 その小さな願いが、静かに刺激された。


「私は、魔法少女になる」


 その言葉に、強い決意は伴わなかった。

 ただ、今より悪くなることはないと思っていた。


「ありがとう」


 リコリスは、そう言ってツムギの腕に触れた。

 その瞬間――ツムギは、身体が書き換えられるような感覚になった。

 細胞の一つ一つが消滅し、ほぼ同じもので置き換えられるような感覚。

 そんな経験はないのに、何故かそう感じた。


「おめでとう。これで君も、魔法少女だ」


     × × ×


 魔法少女は、魔法少女としての名前を決めなければならない。

 本名でも構わないが、それをする者はほとんどいないらしい。

 ツムギは『フローネ』と名乗ることにした。

 これは、昔見ていた魔法少女のアニメの登場人物の名前だ。

 端役ではあったけれど、何故か印象に残っている。


「さて、君の魔法名はフローネで決定となった。では、この『マジカルスマホ』を受け取ってくれ」

「マジカルスマホ?」


 なんでもマジカルとつければいいと思っているのだろうか。

 少し呆れたが、フローネは素直にマジカルスマホを受け取った。

 全体的に桃色を基調としたもので、女児のおもちゃのように見える。


「そのスマホに、君の固有魔法が載っているはずだ。確認してみてほしい」


 フローネの固有魔法は『模倣』だった。

 内容は『他の魔法少女が持つ固有魔法をコピーできる』というもの。

 ただし、コピーできるのは一回のみ。

 コピーした魔法は何度でも使えるが、その効果はオリジナルの半分以下。


 使いどころが難しい――というより、一般的にはあまり役に立たない能力なのだろう。

 それでも、フローネはこの固有魔法が嫌いではなかった。

 フローネには、使ってみたい魔法があった。

 それは効果が小さくとも、彼女にとっては有意義なものだった。


     × × ×


 フローネが魔法少女になってから、リコリスは姿を現さなくなった。

 マスコットにも色々あって忙しいらしい。

 魔法少女について色々教えてほしかったのだが、それについては別の魔法少女を手配してくれていた。

 そこで出会ったのが、燕尾服の魔法少女――モカだった。


 凛々しい王子様のような魔法少女。

 彼女は、フローネに優しく接してくれた。

 尊重し、話を聞き、意思を確認してくれた。


 初めて虚獣と戦った時も、モカと一緒だった。

 戦いに慣れていないフローネは、虚獣の攻撃に怯えていた。

 そんな彼女を、モカは、フォローしながら励ましてくれた。 

 そのおかげで、フローネは初めての虚獣退治を成功させることが出来た。


「お疲れ様。フローネのおかげで、虚獣を倒すことが出来たよ」

「ううん。全部、モカちゃんのおかげだよ」

「そんなことはないさ。君と一緒だと、随分と動きやすかった。君が僕の動きを把握して、フォローしてくれていたからだよ」


 フローネは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 モカの邪魔にならないように、少しでも役に立てるように、フローネはモカの動きをずっと把握していた。

 そして、その動きに合わせて魔法を使っていた。

 そのことに気づいてくれた。

 そして、それを褒めてくれた。

 その喜びが、全身に染みこんでいく。


「君は、素晴らしい子だ。出来れば、これからも一緒に戦っていきたいよ」


 気が付けば、フローネの頬を涙が伝っていた。

 自分でもよく分からないまま、感情が昂っていた。

 モカは少しだけ驚いているようだった。


「ごめんなさい」

「いいんだよ、気にしなくて」


 モカはフローネを抱きよせてくれた。

 フローネは、モカの暖かな胸の中で泣き続けた。


 その後も、フローネはモカと一緒に虚獣と戦うことになった。

 フローネの自己肯定感が低いのをモカは見抜いていたのだろう。

 モカは事あるごとにフローネを褒めてくれた。

 フローネの価値を認めてくれた。

 それは、無意識のうちにフローネが最も欲していたものだった。


 次第に、フローネはモカに心を開くようになっていた。

 互いに素性は明かさないが、色々な話をするようになっていた。

 

 気が付けば、モカの隣こそがフローネの居場所となっていた。

 いつもモカの側にいたいと思うようになっていた。

 だが、現実問題として、それは不可能だった。


 モカは魔法少女たちのリーダーだった。

 気立てが良く、人当たりもよいモカは、人気者だった。

 だから、彼女が声をかける相手はフローネだけではなかった。


 居場所は出来た。

 けれど、その居場所がいつまでも残っているとは限らない。


 だから、フローネは変わることにした。

 他の魔法少女たちと、少しずつコミュニケーションをとるようになった。

 この試行には、モカもさりげなく協力してくれた。

 時に話題を提供し、時に会話をフォローしてくれた。

 やはり、フローネにとってモカは一番の親友だった。


 今では、他の魔法少女たちとも仲良くやれている。

 フローネを頼ってくれる魔法少女もいる。


 だから、今のフローネに願いはなかった。

 モカのおかげで、願いは既に叶っていた。

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